友人にプロットを読んでもらったら「結末で拍子抜けした」と言われてしまった。
私としては今までの伏線がすべて回収されて全身鳥肌にさせるシーンのつもりだった。二週間くらい色々と考えていて、ようやく解答(?)みたいなモノに行き着いた。
状況が「深刻化」しないからダメなのだ。拍子抜けするのだ。
◆
読者や観客に提示する情報の量・質によって「サスペンス」「ミステリー」「サプライズ」の3つの要素を生み出すことができる。そして、サプライズを与えるときは、基本的に「状況が深刻化する」ようにしたほうがいいのだろう。
読者や観客の知っていることを登場人物が知らないと、サスペンスが生じる。「その工場には殺人鬼がいるから入っちゃダメだよ!」みたいな展開が成り立つのは、読者のほうが登場人物よりもたくさんの情報を持っているからだ。で、これが逆になるとミステリーが生じる。
読者や観客の知らないことを登場人物が知っていると、ミステリーが生じる。だからホームズは思わせぶりなことを言うばかりで、考えていることを読者にはなかなか開示しない。読者はやきもきさせられて、続きを読まずにいられなくなる。
※ちなみにここでいう「ミステリー」というのは、読者・観客をひきつける謎のことだ。ミステリー小説は(大雑把にいって)“問題編”と“解決編”から成り立っているが、ここでは“問題編”の話だけをしている。たとえば合理的な解決編のないホラー映画等でも、読者を引き付けるために謎の要素を使っている場合は多い。こうした謎も含めて、ここでは「ミステリー」と呼んでいる。
※もちろんミステリー小説では、読者に提示されていない情報から謎を解くのはアンフェアだとされる。だから書き手は、読者に気づかれないようにヒントを書き込んでおく。しかし読者にとって、気づいていないのは知らないのと同じなのだ。
では、サプライズがどういうものかというと、読者の知っている情報に別の意味を与えることで生じる感動のことだ。
たとえば、まだらの紐じゃなくて毒蛇でした(ネタバレ)とか、死体じゃなくて本当は生きていました誰もいなくなるわけねーだろバカ(ネタバレ)とか、犯人は(犯人と呼ばれているにもかかわらず)人間じゃなくて猩々でした(ネタバレ)とか。ミステリー小説の“解決編”には、かならずサプライズの要素が含まれている。
※さっきの注釈の続き:読者にとって、気づいていないのは知らないのと同じだ。いわゆる“解決編”では、「あの時の■■■はじつは手がかりでした」と明かされて、読者はびっくりさせられる。既知の情報に別の一面を与えているため、「サプライズ」の要素だと言える。ミステリー小説や映画、漫画における「謎 → 答」の流れは、「ミステリー」と「サプライズ」の二つの要素が柱になっていると言えるだろう。
この例から分かるとおり、サプライズを生じさせたからといって、必ず「事態が深刻化する」というわけでもなさそうだ。しかし、サプライズによって得られる「情報の新たな一面」は、登場人物たちのそれまでの努力と釣り合うものでなければいけない。でないと拍子抜けして、読者や観客は醒めてしまうのだ。たぶん。
たとえば某スプラッタ映画では、ラストで死体がむくりと立ち上がる。観客は「どっひゃ〜!」とひっくり返る。「凶悪犯め、そこにいたのかよ!」って腰を抜かす。明らかにサプライズだ。で、これって事態が悪化してるんだよね、凶悪犯がのうのうと逃げ出しちゃうわけだから。「深刻化」の例だ。あまりいい例じゃないかもだけど。
ライトノベルから例を探すと、たとえば『涼宮ハルヒの憂鬱』で長門が自分 (とハルヒ)の正体を明かすシーン。いままで“ちょっと変わった子”だったクラスメイトが、まったく違う姿に見えてしまう。既知の情報に別の側面を与えているので「サプライズ」だ。実際にこのシーンで驚いた読者・視聴者は少なくないはずだ。そして、このシーンによって物語はただの学園ラブコメから一転、宇宙規模のセカイ系になってしまう。主人公キョンにとって、事態が深刻化しているのだ。
サプライズによって明かされる「新たな一面」や「新事実」は、登場人物のそれまでの努力に釣り合うものでなければいけない。釣り合いを取るのにいちばん簡単な方法が、事態を悪化させる・深刻化させることなのかもしれない。
うーん、なかなかいい例が出てこないなぁ……。
たとえば、こないだ観なおした『ジュラシック・パーク』の場合、サプライズが生じるときは必ず事態が悪化していたような気がする。屋外で恐竜の卵を見つけるシーンとか、電源を復旧させた直後に肩を叩かれるシーンとか、ほかにも細かいサプライズが色々。
以上のことを反映して、友人から「拍子抜けした」と言われたプロットを書き直してみたいと思う。サプライズは、「深刻化」とセットじゃないとダメなのだ。
◆
『ジュラシック・パーク』の話をしたので、スピルバーグについてちょっとだけ語りたい。
スピルバーグの脚本は「緊張感が最高に達した直後に妙なユーモアを入れる」のが特徴だと思っている。『ジュラシック・パーク』の場合なら、ティムの「また車の中だ……」っていうセリフとか、ラストの命からがら逃げ出した直後に「やっぱり推薦文は無理です」「当たり前だ!」っていうやり取りとか。場違いにも思えるシーンで、ナンセンスなユーモアを差し込んでくる。
この「サスペンスの直後の処理」って脚本家の個性が出るところで、たとえばストパン一期・二期ともに第六話(脚本・佐伯昭志さん)では「緊張感が最高に達したところで泣かせる展開を持ってくる」ということをやっている。視聴者の気分を高揚させておいて感動させる展開にもっていくから、なんというか、涙腺にくる。ああいうの弱いんだよ……。
「ユーモア」にせよ「泣かせ」にせよ、サスペンス・シーンにそういう「オチ」をつけることで次のシーンまで緊張感を引きずらなくて済む=展開にメリハリがつくんだろう。
そこでいくと花田十輝先生はサスペンスの後処理にあまりハッキリしたオチをつけない。ような気がする。緊張感のあるシーンのあとは、そのテンションを引きずったまま次のシーンに入ることも少なくない。俺は大好きなんだけど、「花田先生のシリアス回は肌に合わない」って人がいるのはこのあたりが原因かもしれない。
アニメ脚本家でいうと、上江洲誠先生はサスペンスのあとにオチをつけることが多い印象。ガルパンの吉田玲子先生も必ずオチをつけるよなーって感じがする。
とはいえ、私はオタクじゃないしアニメもあんまり見ていないから、あくまでも「印象」の範囲を出ないんだけどね。
※参考
映画監督・榎本憲男さんのシナリオ講座
http://togetter.com/li/17677
けいおん! ポテトと値切りのくだりの解説 吉田玲子の本領発揮
http://d.hatena.ne.jp/karimikarimi/20090417
ハリウッド・リライティング・バイブル (夢を語る技術シリーズ)
- 作者: リンダシガー,Linda Seger,フィルムメディア研究所,田中裕之
- 出版社/メーカー: フィルムアンドメディア研究所
- 発売日: 2000/02
- メディア: 単行本
- 購入: 11人 クリック: 274回
- この商品を含むブログ (37件) を見る
- 作者: ブレイク・スナイダー,菊池淳子
- 出版社/メーカー: フィルムアート社
- 発売日: 2010/10/22
- メディア: 単行本
- 購入: 7人 クリック: 17回
- この商品を含むブログ (10件) を見る
- 作者: 日本推理作家協会
- 出版社/メーカー: 幻冬舎
- 発売日: 2010/12
- メディア: 単行本
- 購入: 15人 クリック: 67回
- この商品を含むブログ (30件) を見る
.