今回の記事は「読前感想」――つまり、まだ読んでない本について取り上げます。日本唯一の“プロのニート”とお呼びすべきphaさんの新著『ニートの歩き方』です。たくさんの方が書評をなさっており、それらを読むだけでも面白い。近日中に必ず手に入れて拝読したいと思います。
ニートの歩き方 ――お金がなくても楽しく暮らすためのインターネット活用法
- 作者: pha
- 出版社/メーカー: 技術評論社
- 発売日: 2012/08/03
- メディア: 単行本(ソフトカバー)
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なかでも、ブログ「琥珀色の戯言」のid:fujiponさんの感想が興味深いです。
【読書感想】ニートの歩き方 ☆☆☆☆
http://d.hatena.ne.jp/fujipon/20120808#p1
「流行を追う」ことを諦めるだけでも、けっこう安く暮らすことはできるのです。
するどい。思わずため息を漏らしました。
たとえば(株)電通には、かつて「戦略10ケ条」というものがあったそうです。
1.もっと使わせろ
2.捨てさせろ
3.無駄使いさせろ
4.季節を忘れさせろ
5.贈り物をさせろ
6.組み合わせで買わせろ
7.きっかけを投じろ
8.流行遅れにさせろ
9.気安く買わせろ
10.混乱をつくり出せ
これはヴァンス・パッカード著『浪費をつくり出す人々』(1960年)が元ネタだと言われています。まさに大量生産、大量消費の時代における商売のあり方を象徴する言葉だといえるでしょう。商業主義を嫌悪する人が読んだら、めまいを起こして倒れてしまいそうなフレーズが並んでいます。
この10か条は現在ではもう使われていないそうですが、時代性のものだったのだと、私は思います。
つい最近になるまで、私たちは技術的な制約によりマス・カスタマイゼーションを実現できませんでした。消費者がなにを求めているのか、個人ごとのデータを取ることなど不可能でした。ところが今ではアマゾンで当たり前に行われています。私の場合は、なぜか大量のライトノベルが「おすすめ商品」に並びます。正直、意味がわかりません。まるで私がオタクみたいじゃないですか。忘れがちですが、こんなことが可能になったのは最近10年ほどのことです。それまでは、マス・マーケティングに頼った商売をするしかありませんでした。
当社はお好きな色の自動車をご提供できます、お客様が黒をお求めである限り。
Any customer can have a car painted any colour that he wants so long as it is black.
ヘンリー・フォードの名文句を発展させてきただけなのです。
私たちが生きている社会は、いまだにマス・マーケティングの経済体制をベースにしています。
教育も就業も、結婚も子育ても、みんな100年ほど続いた大量生産・大量消費の時代に作られた習慣に支配されています。実際には急激な情報技術の発達により、経済体制は大きく転換しようとしているにもかかわらず、社会体制(あるいは私たちの常識)の側が、それに対応できていないのです。
数十年後、私たちは「本当に欲しいものを/本当に必要なだけ」消費するという、極めて贅沢な生活を送っていることでしょう。それは現在のphaさんの生活に、ところどころ似た部分があるかもしれません。
※なお、情報技術の発達による経済体制の変革に対して、懐疑的な意見をしばしばお見かけします。論拠としてはニューエコノミーの失敗があげられるようです。マス・マーケティング的な生産‐消費が続くのなら、たしかに在庫を極限まで減らすことができたでしょう。しかし実際には、情報技術の発達によりマス・マーケティングそのものが成り立たなくなってしまいました。それを見抜けなかったことがニューエコノミーの失敗です。景気循環がなくなるという主張はどう考えても勇み足でした。
『ニートの歩き方』については、超人気ブロガーのChikirinさんも書評を書いておられます。が、Chikirinさんの最近の記事では以下のリンクが興味深かったです。
「ちょこっと稼ぐ」の復活
http://d.hatena.ne.jp/Chikirin/20120722
「個人の小さな商売」を復活させるべきではないか、という内容です。そういう商売から生まれた経済が、私たちの生活にどのような影響を与えるのか。phaさんのようなアナーキーな生き方と一緒になったとき、どんな社会が生まれるのか。2つを絡めた考察を拝聴したいと思っています。
なお、手前みそですが「個人の小さな商売」については私も以前、似たような記事を書いています。
これからの時代、「ビジネス」よりも「商売」だ! ――たぶん。
http://d.hatena.ne.jp/Rootport/20111217/1324099404
「時代は変わった」という意見は、いつの時代にもありました。「最近の若いやつらは……」という愚痴が、古代エジプトの遺構にも落書きされているそうです。私たちはいつだって未来に不安を抱きます。
そして、現代の私たちが目にしている「社会の変化」は、それこそ農耕の発明や国家の成立に匹敵するほどの歴史的な変曲点です。phaさんの著作を通じて、将来へのヒントを少しでも手に入れられたらいいな、と思っています。
※あわせて(私が)読みたい
- 作者: 坂口恭平
- 出版社/メーカー: 講談社
- 発売日: 2012/05/18
- メディア: 新書
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