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「デマこいてんじゃねえ!」というブログの移転先です。管理人Rootportのらくがき帳。

ゲームで考える「リタイア世代にカネを使わせる方法」/ラブプラスにプラスすべきもの

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先日、新宿ルミネの豚カツ屋さんで友達三人とごはんを食べた。ゲーム開発会社のスタッフが二人にライトノベル作家、泡沫ブロガーという組み合わせだ。どう考えてもブロガーが場違いすぎる。三人でヒレカツをもさもさと食べながら、「最近ゲームで遊ぶ時間が無いよね」という話をしていた。ゲームの開発やライトノベルの執筆は、どちらも時間に追われる仕事だ。三人ともとびっきり忙しい。泡沫ブロガーたる私は「俺だけはヒマだぜ!」なんて打ち明けられなかった。


とん匠(新宿ルミネ7F)
http://r.tabelog.com/tokyo/A1304/A130401/13019978/


年々、消費者がゲームに時間をかけなくなってきている――。ここ10年ほど、ゲーム業界のマーケティング部門では熱く議論されてきた。その原因としてしばしば指摘されるのは「消費者の高年齢化」だ。かつては子供のおもちゃだったテレビゲームだが、その子供たちが大人になったことで、より広い年齢層を相手に商売をするようになった。これは日本に限らず、世界的な傾向らしい。


「時間をかけてクリアするゲーム」はもう流行らない? -スラッシュドット・ジャパン
http://slashdot.jp/article.pl?sid=11/08/20/2141257
※ゲームの「プレイ動画」が流行している現状を憂いている。


ニートゲー」が幸福増大を実現する -狐の王国
http://d.hatena.ne.jp/KoshianX/20110822/1313970415
※この記事も「大人になるとゲームに時間をつっこめない」という問題意識のもとに書かれている。


日本だけに的を絞れば、子供から30歳ぐらいまでの若年層では余暇の時間がどんどん減っている。子供たちは塾と習い事に忙殺され、若い大人たちは低所得にあえいでいる。ゲーム業界がこれらの層を商売相手に設定している限り、「消費者がゲームにかける時間」はこれからも減り続けるだろう。
その一方で、現在の日本にはヒマをもてあましている層がいる:そう、リタイア世代だ!
仕事を辞めた彼らは、膨大な余暇の時間と、若年層には想像もつかないほどの預金残高を持っている。商売の相手としてこれほど魅力的な人たちはいない。
リタイア世代の魅力はChikirinさんが以前から指摘なさっている。


・“若者的なる者が消費する”という概念
http://d.hatena.ne.jp/Chikirin/20090326
・高齢者向けビジネスあれこれ
http://d.hatena.ne.jp/Chikirin/20090328
・超有望ビジネス)高齢者向け宅配ごはん
http://d.hatena.ne.jp/Chikirin/20110819


リタイア世代にはカネがあり、なおかつ消費行動に使える「余暇」を持て余している。低賃金な若者を相手にしたって儲からない。これからの日本ではリタイア世代をターゲットにした商売が儲かるはず、とChikirinさんは分析している。振り込め詐欺がまだ「おれおれ詐欺」と呼ばれていた頃、10代の不良少年が何億円も儲けていた。その理由は、きちんと儲かる相手をカモにしていたからだ。




余暇を持て余すとヒトは娯楽を求めるようになる。リタイア世代こそ、エンターテインメント業界がターゲットにすべき人々だ。


リタイア世代には孤独な男性が多い、らしい。
核家族化のため、子供が独り立ちすると実家には老いた両親だけが残される。しかし妻は長い主婦生活でたくさんの友達を作り、日中はお茶や買い物で忙しい。結果、旦那はやることもなく一日中テレビを見てすごす――という生活に陥る。
60代向けの習い事が好調だったり、都市部でのボランティア活動が活発化しているらしいが、その背景には「孤独なリタイア世代」がいる。ヒマを持て余したお父さんたちが、第二の“自分探し”をしているのだ。人はコミュニケーションなしには生きていけない。



     ◆



ところで、孤独な男たちに救いの手を差し伸べて、大ヒットしたゲームがある:


ラブプラス+ ベストセレクション

ラブプラス+ ベストセレクション


ラブプラスだ。
それまでの「女の子を落とす」ことを目的としたギャルゲーとは一線を画し、落としたあとの恋人気分をシミュレートしているのが特徴だ。膨大な数の“男の子の名前”が登録されていて、キャラクターがプレイヤーの本名をフルボイスで呼んでくれる。このあたりのギミックにやられちゃった男は少なくない。朝にはおはよう、夜にはおやすみと声をかけてくれるのだ。「ラブプラス結婚」が続出したのも無理なからぬことだろう。
人は孤独に耐えられない生き物だ。どんなに無口な人でも、誰かとコミュニケーションを取らずには生きていけない。今日もツイッターのTLには「おやすみ」「おはよう」が溢れている。ラブプラスは、そんなヒトの性質をうまくつかんだゲームだった。


だからリタイア世代にも、ラブプラスのようなゲームが適しているはずだ。
習い事やボランティアに参加できるのは、同世代のなかでも比較的アクティブなおっさんたちだろう。いわばおっさん世代のリア充だ。ならば当然、おっさん世代にも非リア的な行動を取る人たちがいるはずだ。孤独とヒマに包まれながら、ボランティアのような新しい世界に飛び込むことに尻ごみしてしまう――そういうおっさんは少なくない。ゲームの出番だ。
ただし、リタイア世代が二次元キャラのギャルゲーを楽しめるのかどうかには疑問が残る。彼らの多くは「三次元>二次元」という価値観を持っているからだ。
しかし日本には、昔からラブプラス的なものを受け入れる精神性があるらしい。


伊集院光ラブプラスとの恋愛を肯定する日本昔ばなし」 -世界は数字で出来ている
http://numbers2007.blog123.fc2.com/blog-entry-1628.html


伊集院光のこの話を信じるなら、勝算は充分にあるはずだ。





      ◆




とはいえ、60歳のおっさんに『ラブプラス』を渡して「はい遊べ」といっても、楽しんでもらえるとは思えない。
ヒレカツを食べ終わり、キャベツと味噌汁をやっつけながら、四人で問題点をあげていった。
リタイア世代をターゲットとした場合、現在のラブプラスには大きく三つの問題がある。一つは登場キャラクターが若すぎること、二つ目は長く遊ばせる工夫が必要なこと、三つ目は『To Heart』の「マルチ問題」を受け継いでいることだ。順番に見ていこう。




1.キャラクターが若すぎる
すぐに思いつく問題点はこれだ。リタイア世代から見れば女子高生はあまりにも幼い。娘はおろか、孫のような年代だ。恋愛ゲームの攻略対象としては厳しいものがある。
もちろん60歳を過ぎたおっさんだって女子高校生モノのAVを借りていく――と、TSUTAYAでアルバイトしている友人が言っていた。ドン引きである。
しかし、ラブプラスは性欲のはけ口となるゲームではなく、コミュニケーションに重きをおいた作品だ。登場させるキャラクターは「対等な大人」として会話できる年齢が好ましい。


というわけで登場するキャラの最低年齢は40歳にしよう。
それでもリタイア世代とは20歳も離れているわけで……悩ましいところだ。どれぐらいの年齢に設定すればいちばん喜ばれるのか判断に迷う。
一方、キャラクターの種類はいたずらに増やさなくていいだろう。本家『ラブプラス』にも、たった3人しか登場しない。じつは私がいちばん驚いたのはここだ。オタクたちの好みは細分化されており、ギャルゲーの開発者は普通それらの好みをすべてカバーしようとする。ところが「母性的なお姉さんタイプ」「優等生でアイドル的な同級生タイプ」「思わず手を差し伸べたくなるネコ系年下タイプ」の三種類だけで、ラブプラスはオタクたちの需要を満たしてしまった。(※ここには「プレイヤーのアドバイスで髪型や服装を変える」というゲームシステムの存在も大きい)
血液型占いは「人間をたった4タイプに分けるなんて乱暴だ!」という批判を受ける。が、それを下回る3タイプで、男たちの「理想の彼女像」を満たすことができてしまう。


余談だけど、男ってそういう生き物なのだ。
私たちは経験的に「男のほうが惚れやすく、女のほうが慎重」だと知っている。実際の調査でもそういう傾向が現われる。
アメリカのある大学で「過去に交際経験があるかどうか」を学生たちに訊いたところ、恋愛経験のある女性の数は、恋愛経験のある男性の数を上回っていた。これだけでは「男性のほうが慎重」であるかのように見える。
ところが「恋愛経験あり」と答えた学生たちに「過去1年間に性交渉をした相手の数」を聞いたところ、女性は「1人〜2人」と答えたのに対し、男性ではもっと多い人数があがった。つまり、一部のモテる男性がたくさんの女性と付き合っているのだ。(※この話のソースになる論文を読んだのは10年近く前で、リンクを張ろうと思ったのだけど検索しただけじゃ見つからなかった。どなたかソースをお持ちの方はいますか!←)
「一部の男性だけがモテる」のは、女性が“いい男”だけを選好するからだ。一方、モテる男性がたくさんの相手と関係を持つのは、男性が「自分を好いてくれる女性ならわりと誰とでも付き合える」からだ。たしかに現在の日本でも、婚活女子は驚くほどたくさんの条件を男性に課すのに対して、独身男性たちは「誰か嫁に来てくれないかなぁ」と、わりとのほほんと構えている――ような気がする。
またギャルゲー業界に話を絞っても、攻略キャラクターの多さは作品の評価とかならずしも一致しない、らしい。私はギャルゲーで遊ばないからあまり詳しくないのだけど、たった1〜2人のヒロインしか登場しない作品でも傑作と名高いものは多いという。どんなヒロインだろうと男は愛せてしまうのだ。
それに対して女性向けの恋愛ゲーム――乙女ゲーはどうなっているんだろう。女性のほうが攻略キャラの好みにうるさそうな気がするけれど、想像もつかないや。なかにはハトを攻略対象としたゲームまで存在する(※同人だけど)。もはやワケがわからない。


ハトが恋愛対象! 超感覚乙女ゲー「はーとふる彼氏〜希望の学園と白い翼〜」 -ギズモード・ジャパン
http://www.gizmodo.jp/2011/08/post_9194.html
※夏コミでは完売したそうです。


以上が、『ラブプラス』がたった3人のヒロインでも大ヒットしたことの、動物行動学的な理由だ。余談おわり。



登場キャラクターはいずれも40歳以上で、3人ぐらい準備すればよさそうだ。黒木瞳さんのような清楚タイプ、杉本彩さんのような魅惑の女タイプ、永作博美さんのような可愛い系の3人を登場させよう。





2.長く遊ばせる工夫
リタイア世代は、若いゲーマーのように新しいゲームに積極的に飛び付くとは考えにくい。一本のゲームを長く楽しんでもらえるようにデザインするべきだろう。


ボンバーマンおばあちゃん】99歳ゲームの達人登場!26年間毎日プレイ
http://jin115.com/archives/51795374.html


このおばあちゃんは極端な例だとしても、ヒトは歳を重ねるごとに「何かをやりこむ」のが得意になる。逆に新しいコトを取り入れるのは苦手になっていく。したがって、新要素をどんどん投入するようなやり方は、リタイア世代向けのゲームにはそぐわない。シリーズの最新作が出るたびに新しい攻略方法を覚えて――なんて楽しみ方はできないのだ。
ただ、そうなると供給側に問題が生じる。現在のゲーム業界ではシリーズ化することで売上を出すのが一般的だ。少しでも売れた作品は、すぐに続編が企画される。ところがリタイア世代にはこの商法が通用しない。上記のおばあちゃんのように、プレイヤーよりも先にボンバーマンブランドが死んじゃったなんてことも起こりうる。リタイア世代に対しては、シリーズ化による売上増が見込めない。
ならば、ダウンロードコンテンツを充実させるしかない。ダウンロードコンテンツが「儲かる!」ことを知らしめたのは『アイドルマスター』の功績だ。それ以前から、MMORPGの追加アイテムや追加シナリオ、FPSの追加マップ等、ダウンロードコンテンツの販売は行われてきた。『アイドルマスター』では、キャラクターの衣装が販売されている。で、その売上がバカにならなかったのだな。全盛期には「なんてアコギな商売をしているんだ!」という批判もあったのだけど、覚えているだろうか。
リタイア世代をターゲットにするならば、ダウンロードコンテンツで儲ける仕組みを作りたい。





3.マルチ問題
これは『To Heart』というゲームに登場する「マルチ」というヒロインにちなむ。


To Heart

To Heart


To Heart』は恋愛シミュレーションゲームの金字塔であり、「普通の青春小説みたいなシナリオ」をギャルゲーに持ち込んだ先駆け的な作品、らしい。マルチはこの作品に登場するヒロインの1人で、幼い容姿の女性型アンドロイドだ(普通の青春小説?)。
ギャルゲーの攻略対象なのだから当然、マルチと結ばれるシナリオも存在し、彼女とのハッピーエンドが用意されている。しかし、ゲーム中に描かれるのは主人公とマルチが結ばれるところまでで、その後の生活については明かされない。果たしてマルチ――アンドロイドと結ばれるのが本当にハッピーエンドなのだろうか? 主人公は生身の人間として老いていき、いつか必ず死ぬ。一方、マルチはいつまでも幼い容姿のままで、死ぬこともない。そんな二人が愛し合うのは、むしろツラすぎるのではないか。
同様の問題提起はSF小説では古くから行われていた。それこそウィリアム・ギブスンとか。/人間が不老不死の存在と恋仲になる物語は、世界各地の神話にも存在している。To Heartのマルチはこの問題を具現化させた。
マルチ問題は、本家『ラブプラス』にもあてはまる。「ラブプラス結婚」が報じられたのは記憶に鮮やかだが、寧々さんは決して歳を取らない。プレイヤーと、どんどん年齢が離れていってしまう。こんなに切ないことはない。まして体力的に急速に衰えていくリタイア世代にとって、これはのっぴきならない問題だ。彼らに恋愛シミュレーションを遊ばせるには、マルチ問題を解決しなければならない。



(※余談だけど、マルチはロリータかつロボットという、とてつもなくアブナイキャラクターだった。あるキャラへの好意を示すだけで「この人病気です」といわれるのも、やはりマルチが先駆けだった、らしい)





      ◆





こうして考えてみると、リタイア世代をターゲットにした場合に『ラブプラス』に取り入れるべき要素が見えてくる。
それは、キャラクターが歳を取ることだ。
まずキャラクターの年齢を、成長よりも老いの目立つ歳に設定する。そうすることでプレイヤーの感情移入を誘えるはずだ。またキャラクターが歳を取れば、それだけでマルチ問題を解決できる。
なによりダウンロードコンテンツの販売が見込める。アンチエイジング・アイテムを使用することで、キャラクターの老化を遅くできるようにすればいい。アンチエイジング効果の高いアイテムほど高額で、安いアイテムは効き目が少ない――。思いっきりアコギな商売だ。
もちろんアンチエイジング・アイテムをあえて使用せずに、一緒に老いを楽しむという「伴侶プレイ」だってできる。ざくろジュースだけでどこまでお肌の老化を止められるかを試す「健康食品縛りプレイ」も楽しめそうだ。やり込み要素も充分で、キャラクターのほっぺたに乳液を塗り込んであげるラブラブなイベントだってあるゾ!






タイトルは

「加齢(エイジプラス)

でいかがでしょうか。




いちばんの課題は“美しい老女”を描ける絵師さんを確保することかも。






ラブプラスのキャラクターに多様な性格の分岐が準備されていることを知ったのは、この記事を書き上げてからだった。





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