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誰がために新聞は書かれるか/「ヒカク読み」のすすめ

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新聞は基本的に、誰かの代弁者にすぎない。どんなに客観的な(ように見える)記事にも、かならず「偏向」が含まれている。それを見抜く唯一の方法は、複数の新聞を比較することだ。「自分の頭で考える」ための第一歩として「ヒカク読み」を習慣づけたい。





たとえば、こちらの記事:


1月の貿易赤字、過去最大の1兆4750億円日本経済新聞
http://s.nikkei.com/A8mPEk


私たちは「赤字」という文字を見るとドキッとする。そして「輸出が伸びないのは問題だ → 円高が悪い → だから為替介入して円安に導くべき」という一連の主張を鵜呑みにしてしまう。
けれどご存じのとおり、貿易赤字それ自体は問題ではない。しかも為替介入は、国債を発行して――つまり借金をして得た「円」を売りさばいて行われる。
そうした事実が新聞記事に書かれないのは、「円安になるとトクする人たち」がスポンサーだからだ。彼らがトクをするからといって、私たち全員のトクになるとは限らない。本来なら「為替操作のためにいくらまでの借金なら許せるか」という議論をしなければいけないはずだ。が、経済学の基礎知識がない読者は「赤字」という言葉の「悪いイメージ」に引きずられて、無批判に賛成してしまう。言葉の「イメージ」には要注意だ。
こういう「偏向」から脱出するには、複数の新聞を比較するしかない。「ヒカク読み」はニュース読解の第一歩だ。


※とまあ、こんな具合で今日は陰謀論を書きます。いつも以上に壮大なデマですので、決して真に受けないでください。約束だよ!




       ◆




そもそも貿易収支とは、輸出額から輸入額を差し引いた金額のことをいう。輸出額が上回っていれば「黒字」、輸入額が上回っていれば「赤字」になる。たとえば米国では、好況になればなるほど輸入額が増えて、貿易収支は赤字になる。「黒字=好景気」「赤字=不景気」という等式はなりたたないし、消費者の視点からすればどっちでもいい。「安くて・いいもの」を買うだけだ。
ところが日本では、貿易赤字は忌むべきものとされている。なぜなら日本は「モノづくりの国」で、「外需に依存して経済発展をしてきた」と信じられているからだ。海外でモノが売れなくなれば、大手製造業の経営状態が悪くなり、子会社、下請け、孫請けの中小企業までも景気が悪くなる。そういう物語を私たちは内面化している。
たしかに、この物語には一片の真実があるのだろう。
しかし一口に「貿易赤字」と言っても、3つのパターンが考えられる。
1.国外で日本製品が売れなくなった。
2.国内で外国製品が売れるようになった。
3.その両方。
なぜかマスメディアでは「1.」だけが問題視される。海外でモノが売れないのは円高のせいだ、景気を良くするためには円安を誘導するしかない――と、まことしやかに語られる。
空前の円高だ。国内消費者は安くなった輸入品を選好するはずだし、キャッシュリッチな企業は今のうちに燃料を買い貯めておこうとするかもしれない(※「かもしれない」ベースなので各自で調べてください)。いずれにせよ「2.」についてもきちんと考察すべきだ。
問題は為替相場だけではない。外国製品よりも魅力的な国産品が生まれないことこそ、最大の問題ではないか。価格競争で負けてしまうような(つまり付加価値の薄い)モノしか作れないのが問題なんじゃねーの? いまの日本は「いいモノ」は作れても「愛されるモノ」を作れていないんだよ、たぶん。
「モノづくりの国」の神話は根強く信仰されている。たとえば日本の株価は、円安になると上昇し、円高になると値下がりする。ご存じのとおり、株価の変動は人々の感情に左右される。自己成就型の予言のように、この神話は人々の心を支配し、日本経済を牛耳っているのだ。
しかしこの通説にも、最近ようやく懐疑の目が向けられるようになった。



プロジェクトXが日本の技術立国を神話にした。‐ブックマクロ開発に
http://d.hatena.ne.jp/takuya_1st/20120217/1329474019



また、人気ブログ「スゴ本」のライター・Dainさんが印象的なことを書いてらっしゃった。


日経新聞中毒症だったこともあり、経済は避けたい話題だった。なぜなら、嘘と統計の区別がつかないから。詐欺師と経済学者の区別がつかないから。その場のレトリックや明快さに騙されて、嘘に気づくのえらい年月を要するから。

引用元)
嘘と統計を見抜けないと、経済は難しい「クルーグマン教授の経済入門」‐わたしが知らないスゴ本は、きっとあなたが読んでいる
http://dain.cocolog-nifty.com/myblog/2012/02/post-512e.html



経済のことは難しい。が、だからといって反論せずに受け入れるのは、ただ洗脳されているだけだ。「日本はモノづくりの国」「外需が減ると景気が悪くなる」だから「為替に介入すべき」――。こういう世界観が崩れたら“困る人たち”が存在していて、そういう人たちがマスメディアの言説を支配している。エル・プサイ・コングルゥ。洗脳を解くには、自分の頭で考えるしかない。
円高を放置すると景気が悪くなるのは、たぶん間違いない。だからといって円安誘導して景気が良くなる保証はない。「本当に日本はモノづくりの国なのか?」「本当に景気が悪くなったのは外需の減少のせいなのか?」「本当に為替介入は必要なのか?」すべてのモノゴトを一度は疑ってみるべきだ。
日経新聞だけを読んで経済のことをわかった気になっているオッサンは多い。「女子供はニッケイを読んでないからダメだ」みたいな発想の人って結構いる。恥ずかしいよね。



しかし「疑ってみる」と言っても、判断基準になる専門知識を私たちは持ち合わせていない。マニアックな知識を得る時間もない。知識ある人たちに「代わりに考えてもらう」のが合理的だ。
そこで威力を発揮するのが、新聞の「ヒカク読み」だ。
どの全国紙もタテマエでは中立報道をうたっている。けれど、新聞社にはそれぞれの立場があり、書かれている内容には偏向がある。そういう「立場の違い」を利用すれば、一つのニュースを多様な視点から理解できる。「賛成・反対」のどちらかに染まる危険を避けられる。
私の場合、興味のあるニュースは6紙を比較するように心がけている。

しんぶん赤旗朝日新聞東京新聞 ←・→ 日経新聞 → 読売新聞 → 産経新聞


メインで読んでいるのは真ん中の2つ:東京新聞日経新聞だ。日経新聞はやはり取材力という点で抜きんでている。東京新聞はその好敵手で、スクープ力と記事の切り口のおもしろさが魅力だ。どんなニュースでも必ずこの2つの新聞をヒカクしている。
またインターネットを触っていると、この2紙以外のニュースも飛び込んでくる。そんなときは「対照的な立場の新聞」を確認している。たとえば朝日新聞におもしろい記事を見つけたら、読売新聞がどう扱っているかを読んでみる。あるいは産経新聞の記事が気になったら、赤旗での書かれっぷりを確認する。このように複数紙を「ヒカク読み」するようになってから、視野が一気に広がった。
※このラインナップの妥当性については議論の余地があると思う。あと毎日新聞の方ごめんなさい。まんたんWEBはいつも楽しみにしています。



新聞はかならず複数紙をヒカクしよう。かつてなら図書館に行かなければできなかったことが、今ではパソコン一つ・ケータイ一台でできる。複数の紙面に目を通すのは、以前よりずっとカンタンになった。
新聞の「ヒカク読み」は、自分の頭で考える第一歩だ。




       ◆




1532年、スペイン人の将軍フランシスコ・ピサロは、インカ皇帝アタワルパと面会し、その場で生け捕りにした。この時、インカ帝国側は8万人の歩兵を率いていたのに対し、ピサロ側の軍勢はわずか168人だった。にもかかわらずピサロインカ帝国の軍勢を蹴散らすことができたのはなぜだろう。そしてアタワルパは、どうして子供だましの計略に騙されてしまったのだろう。
軍馬や火器の有無――。さまざまな理由が考えられる。が、勝敗を分けた一番の要因は「情報」の非対称性だったと指摘されている。ヨーロッパでは文字が発達し、膨大な量の戦記がすでに蓄積されていた。ピサロ自身は文盲だったというが、彼の周囲には知識階層の人がいて、人間の行動・戦場での知略を語り聞かせていたはずだ。一方、インカ帝国では文字文化がまだそこまで成熟しておらず、したがって稚拙な計略を見抜くこともできなかった。


情報の格差とは、つまり支配する側とされる側の格差である。
クラスター化の進む時代だからこそ、情報の仕入れ方には注意を払いたい。





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