- 出版社/メーカー: ユービーアイ ソフト
- 発売日: 2007/11/29
- メディア: Video Game
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『アサシンクリード』というゲームが面白い。
精密に再現された中世ヨーロッパの都市を歩きまわりながら、悪いやつらをやっつけるゲームだ。アサシンとは中近東に暮らしていた暗殺教団のこと。彼らがじつは世界中に勢力を伸ばし、悪の陰謀団と戦っていた――という設定があるのだけどわりとどうでもいい。とにかく街をふらふらと散策するのが楽しいゲームなのだ。
シリーズ一作目は12世紀末の中東。マシャフ、ダマスカス、アッカ、そしてエルサレム――。実在の都市を歴史考証をしたうえで再現している。時代は第三回十字軍が猛威を奮っていた頃だ。主人公の“伝説のアサシン”アルタイルは戦乱に巻き込まれていく。日本人には馴染みの薄い地域だけれど、「海外旅行ゲー」という新ジャンルを確立した(違)
そして特筆すべきはシリーズ第二作目『アサシンクリードⅡ』だ。
舞台は15世紀末のイタリアで、ルネサンス華やかなりし頃のフィレンツェやサン・ジャミーノ、フォルリ、そしてヴェネチアが登場する。当時の姿が再現された街を、縦横無尽に走り回ることができるのだ。フィレンツェのドゥオーモやサン・ジャミーノの尖塔、フォルリの要塞――観光客に人気のスポットが1490年代の姿でよみがえる。ヴェネチアではゴンドラに乗ることもできるぞ!
※暴力表現注意!
※この映像はムービーシーンではない。普通のプレイ中の画面だ。この画質で再現された街を自由自在に走り回れる! 楽しい!
この『アサシンクリードⅡ』はストーリーも秀逸だ。主人公のエツィオ・アウディトーレは17歳、フィレンツェの銀行家の次男坊として生まれた。典型的なイタリアの伊達男として育った彼を、ある日、突然の悲劇が襲う。何者かの陰謀により、家族を皆殺しにされてしまうのだ。辛くも難を逃れた母、妹と三人で、エチィオはフィレンツェから旅立つ。そして陰謀をあばこうと奮闘するなかで、家族の秘密、そして世界の秘密に近づき、“最強のアサシン”と呼ばれる男へと成長していく。何も知らない少年が故郷を追われて、冒険を通じて一人の男として目覚める:まるでジャンプまんがのような王道ストーリーなのだ。面白くないはずがない。ニコロ・マキャベリやロレンツォ・メディチ、ロドリゴ・ボルジアなどの歴史上の実在の人物も次々に登場する。レオナルド・ダ・ヴィンチは主人公の大親友(まぶだち)だ。
シリーズ三作目『アサシンクリード・ブラザーフッド』では16世紀のローマを舞台に、エツィオ・アウディトーレのその後が描かれる。さらにシリーズ四作目『アサシンクリード・リベレーション』では舞台をコンスタンティノープル(現イスタンブール)に移し、老年を迎えようとしているエツィオの物語がつづられる。いずれも街並みの精緻さ・美しさにはため息を漏らすほど。美術スタッフのこだわりを感じる。
短く紹介するつもりがずいぶん長くなってしまった。ごめんなさい、好きすぎるんです、このゲーム。
とにかく語りつくせないほどすごいゲームなのだが、ひとつだけ問題がある。それはプレイ時間がとにかく長いこと。寄り道せずにまっすぐクリアしても20〜30時間、普通にプレイすれば100時間はかかる。そして寄り道をしないなんて、ショートケーキのいちごだけ食べて満足するようなものだ。このゲームの魅力の1/10も味わうことができない。きちんと楽しもうとすれば、300時間ぐらいは軽く遊べる。
小学生の頃ならいざしらず。
クリアに300時間かかるゲームを手に取るのは、いささか勇気が必要だ。
少なくとも私は悩んだ。300時間を遊びに使ってしまうのなら、資格試験の勉強でもしたほうがいいんじゃないのか。当時は勝間和代先生の本が流行っていた。 人生は短い。一分一秒が大切なのだと気づいてしまったら、そんな長時間を浪費できなくなる。
では、ゲームを遊ぶのは本当に時間の浪費なのだろうか。
そう考えた結果、私は『アサシンクリード』を手に取った。私はもともと社会科系の科目が苦手で、歴史なんてさっぱり興味を持てなかった。しかし旅行をするにせよ、なにかの美術展を見に行くにせよ、歴史を知らなければ魅力の半分も味わえない。目にしたモノの背後にある文化や思想を知らなければ、それこそイチゴだけ食べて満足するようなもの。どうにかして歴史に興味を持ちたいな、と考えていた。
300時間といったら、人生のなかで無視できない長さになる。
その時間を12世紀の中近東や1490年代のイタリアで過ごすことができたなら、人生が変わるのではないか。少なくとも、嫌でも歴史に興味を持たざるをえなくなるはずだ。そして私は教科書を衝動買いして読みふけるに違いない。そう自己分析した結果、『アサシンクリード』シリーズのプレイに踏み切ったのだ。
そして予想は的中した。
世界史の面白さに目覚め、現在進行形で勉強中だ。
いまの社会は歴史の積み重ねのうえにある。私たちが暮らしているのは日本という極東の国だ。けれど、大昔からシルクロードを通じて世界とつながっていた。グローバル化は今に始まった話ではないのだ。またヨーロッパ側では「コンスタンティノープル陥落」と呼ばれる歴史上の大事件を、アジア側では「コンスタンティノープル開放」と教わる、らしい。中東からは遠く離れているけれど、日本は一応アジアの一員だ。では、日本ではこの事件をどんな名前で学ぶだろう? そんなところから、現代日本の背後にある思想に思いをはせるのも楽しい。
シリーズを通じて、すでに1000時間ほどを『アサシンクリード』に使った。しかし損をしたとは、ちっとも思わない。くだらない資格試験などよりはるかに貴重な経験をすることができたからだ。
クリアに長時間かかるゲームは、読書に似ている。人生という限られた時間のなかで、無視することのできない期間を費やすことになる。するとそれは単なる娯楽ではなく、「経験」になるのだ。
「このゲームを遊ぶとどんな経験を得られるだろう」
歳はとりたくないけれど、最近ではそういう基準でゲームを選ぶようになった。そして『アサシンクリード』シリーズでは、得がたい経験ができた。舞台になった都市をいつか訪れて、この経験をバーチャルなものからリアルなものへと変えたい。
アサシンクリードII スペシャルエディション (X360プラチナコレクション) 【CEROレーティング「Z」】
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最後に少しだけ反省すると、経験を「得る」だとか時間の浪費で「損する」だとか、そんな損得勘定で遊びを選ぶのには問題があるかもしれない。ゲームの本質はやっぱり娯楽なのだし、もっと肩のチカラを抜いて楽しむべきだよなー、とも思う。
【追記】300時間は長すぎるのでは? というご指摘をいただきました。おっしゃる通り、50〜100時間も遊べばだいたいの要素はカバーできます。ゲームとしての難易度もあまり高くない(というかチュートリアルが親切な)作品です。/300時間というのは攻略サイトを見ずに実績をすべて解除して収集物などをすべて集めるのにかかった時間です。あと、ぼうっと夕焼けを眺めたりする時間なども含まれています。
※『アサシン・クリードⅡ』の公式トレイラーです。
※続編の『アサシンクリード・ブラザーフッド』ではあのチェーザレ・ボルジアがライバルとして登場!
- 作者: 塩野七生
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チェーザレ 破壊の創造者(1) (KCデラックス モーニング)
- 作者: 惣領冬実
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※エツィオ・アウディトーレの物語の完結編『アサシンクリード・リベレーション』では暗殺教団の聖地マシャフの謎を解くことに! おもな舞台はコンスタンティノープルになります。