デマこい!

「デマこいてんじゃねえ!」というブログの移転先です。管理人Rootportのらくがき帳。

円高のいま、すべきこと。/日本を滅ぼす「働かざる者食うべからず」という強迫観念

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シムシティというゲームには面白い機能が実装されていて、スタジアムを建造すると低所得な市民の幸福度が上がり、証券取引所を設置すると裕福な市民の幸福度が上がる。貧乏人はスポーツを好み、金持ちは投資を楽しむという現実世界の傾向が、きちんとゲームの世界に反映されているのだ。たしかに、スポーツ紙と日経新聞のどちらを長く読んでいるかは、そのお父さんの年収に響きそうだ。かっこつけた言い方をすれば、中日スポーツ日経新聞の購読率とその人の所得には優位な相関が見られるはず(キリッ 中日スポーツに罪はない。


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円高は、言い換えれば日本人全員がお金持ちになることを意味している。
日本円を日常生活に利用しているすべての人が、世界的に見ればとんでもない富豪になったのだ。だからこそ私たちはお金持ちらしく、投資を楽しんでもいいんじゃないか。あなたがパチンコでスッてしまったその10万円、国によっては五人家族が1年間遊んで暮らせる額なんだぜ? 経済大国のお金で新興国の成長を手助けする。すばらしいことじゃないか! 銀色玉入れに無駄金を流し込むのとどちらが「イイコト」なのか考えてみたい。
※物価を考慮した実質的な為替ではそこまで円高とも言えないらしい。けど、以前と比べて日本人が海外資産を購入しやすくなったのは間違いない。




     ◆ ◆ ◆




政府・日銀が為替介入、78円割れ防ぐため終日続くと市場の声
http://jp.reuters.com/article/topNews/idJPJAPAN-22530720110804


8月4日、政府/日銀は単独での為替介入に踏み切った。その結果、為替レートは一時的に持ち直し、1ドル78円台半ばまで急上昇した。ところが為替介入は往々にして失敗に終わる。今回の為替介入もご多分に漏れず。現在、ドル円は76円〜77円前後で推移しており、まだしばらく78円台まで戻るそぶりは見せない。1ドル90円台だった頃が懐かしい。
日本の産業界は、製造業のおえらいさんに牛耳られている。そういうおっさんたちは円高になるとすぐ悲鳴を上げる。「このままでは輸出が死ぬ! さっさと介入しろ! ちょっとでも円安にしろ!」しかし焼け石に水なのは明らかだ。
ところで為替介入って、どうやるのかご存じだろうか。まず政府が国債を発行して(つまり借金して)円を調達する。その円を売りさばいてドルを買い集める。これが為替介入だ。現在のように介入に失敗して円高ドル安が進んでしまうと、当然、買い集めたドルの価値も下がり、為替差損が発生する。元手となる円を国債で調達している以上、この損失は将来の国民の負担となる。



今を守るために未来を売り払う――この国は何度おなじことを繰り返せば気が済むのだろう。



自分の産業のことしか見えていないおっさんたちの声に耳を貸すべきではない。過去の事例をちょっと調べるだけで、為替介入は相手国の協調があっても成功するとは限らない、とても難しいものなのだと分かる。安易な介入は厳しく批判されるべきだろう。



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したがって、「いまこそ政府は“強い円”を使って海外資産を買い集める時だ!」という指摘は、為替介入よりは的を射たものだといえそうだ。
ただし、この指摘には「政府の役目とは何か・政府は誰のために働くべきか」という政治哲学が欠けている。財閥や大手企業のように海外に投資して利ざやをかせぐ、それが本当に政府のすべきことなのだろうか。そのカネがあるなら、もっと別の場所に使うべきではないだろうか。
円高が続けば、間違いなく輸出が死ぬ。日本の労働人口の10人〜5人に1人は自動車業界とつながりのある産業で働いている。このことを鑑みれば輸出死亡は由々しき事態だ。このとき困るのは、財務官僚の横でハゲ頭を真っ赤にしながら「為替介入しろッ!」と叫んでいるジジイどもではない。やつらはみんな遊んで暮らせる個人資産の持ち主だ。本当に困るのは、彼らの会社の下請け・孫請けをしている中小企業だ。円高が続けば大企業は生産拠点を海外に移し、トカゲがしっぽを切るがごとく町工場を切り捨てる。(で、これは経済的に正しい対応だし責められない)
倒産した中小企業の社員にせよ、“派遣切り”にあった労働者にせよ、輸出業が死ねば大量の失業者がでる。そういう貧困者に対する富の再分配こそ、「政府」という存在に求められる役割だ。
といっても、価格統制による所得補填とかそういうトリッキーなことはせずに、粛々とお金を手渡すべきだ。政府が町工場を守るためにネジやバネを買い集めるなんてバカげている。なんでこんな話をするかといえば、実際にこういうバカげたことをした過去があるからだ:そう、農家に対する所得保証だ。政府が市場の機能を歪めたため、日本の農業は世界的にみて立ち後れたものになってしまった、らしい。
日本人は「働かざるもの食うべからず」という言葉を固く信じている。仕事をしていない人に直接お金を渡すことに抵抗があるのだね。だからすでに食っていけない産業であっても、価格統制等で無理やり食えることにしてしまう。「なにもせずにカネだけ受け取ってください」とは言えず、「(本当はやらないほうがいいのだけど)とりあえず働いてください、生産物を買い上げますから」と言ってしまう。もとは世界屈指の技術・生産性をもっていた産業が、政府にスポイルされて、いつの間にか穴を掘って埋めるような産業になってしまう。
日本の製造業を農業の二の舞にしてはならない。
「働かざるもの食うべからず」という考え方が日本を滅ぼす。わりとマジで。




        ◆




海外のものを買いあさるのは政府のすべきことではないと書いた。では誰がすべきだろうか:
日本人全員。国民レベルでするべきなんじゃないかな−。
先日、メガバンクの個人営業担当の人と飲んだ。顧客はみんなお金持ちばかりだ。私のような貧乏人と商売することなんてないんだろうなー、と思っていたのだけど、なぜかインドネシア株の投資信託を熱烈に勧められた。この円高は止められないし、製造業から大量の失業者が出るのも不可避だろう。こんな世の中で私たちにできるのは、新興国の株主になることぐらいだ。
聞いたところによると、インドネシア株投信は10万円から始められるらしい。(銀行によってはもっと少額からスタートできるところもあるかも)10万円は、はした金ではない。けれど、のけぞるほどの大金でもない。高校生のアルバイトですぐに貯まる金額だし、社会人なら可処分所得をちょっと集めれば二ヶ月足らずで作れる。これを新興国への投資に向けてみてはどうだろうか。
10万円なんて、パチンコでスれば一瞬で消えていく額だと聞く。競馬・競輪好きの人だって数年でそれぐらい使ってしまうらしい。新興国への投資はギャンブルよりもずっと健全だ。ここでいう「健全」には二つの意味がある。
一つは、ギャンブルは平均すれば必ず負けること。一般的にギャンブルは参加者全員を平均すれば、必ず胴元が勝つようにデザインされている。(だけど全員が平均値を出すわけではないので、中にはとんでもなく大勝ちする人も現れる。ギャンブルはそういう確率のゆらぎを楽しむエンターテインメントだ)しかし株式への投資は、総平均すれば必ず参加者が勝つ。バブルが崩壊しない限り。
もう一つは貧しい新興国に対して“豊かな”経済大国が投資する社会的な意義だ。あなたにとっては一月分の給料である10万円は、かの国ではものすごい大金だ。あなたの手助けで貧しい国が豊かになるのなら、こんなにすばらしいことはない。
なぜインドネシアがおすすめかといえば、中国やインド以上に発展の余力があるからだそうだ。タイやカンボジアのような政治不安も無いし、労働人口の増加率は中国に匹敵するのだとか。白物家電の普及率もまだまだこれからだし、二十年ぐらいのスパンで保有するつもりならインドネシア株が絶対にいい! と熱弁された。
私はインドネシアの現状について無知なのでもう少し自分で調べてみなくちゃダメだなーと思った。発展の余力があるって……それは「遅れている」をよさげに言い換えただけにも聞こえる。とはいえ、新興国への投資がかなり安い金額から始められることには驚いたし、すごく興味を引かれた。
ここまで円が強くなった今だからこそ、シムシティでの「お金持ちの遊び」を楽しむべきではないだろうか。





で、ちょっと余裕のある中間層が海外に投資したところで「日本の若者たち」には一切うまみがないという現実に、えっと、なんつーか、もにょる。
すげーもにょる。








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