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デマこい!

「デマこいてんじゃねえ!」というブログの移転先です。管理人Rootportのらくがき帳。

可愛いは、正義。/「美少女日常系」の作り方

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 放映中のアニメ『ご注文はうさぎですか?』がすごい。
 何がすごいかといえば研究されつくされてる感だ。いわゆる「日常系」に欠かせない要素を分析・研究して、絶対にウケるコンテンツとして練り上げられている。秋葉原の中央通りには『ごちうさ』の巨大な広告が出ているが、キャッチコピーは「かわいさだけをブレンドしました」だった。「萌え豚どもエサの時間だ!どうせお前らこういうのが好きなんだろ?」という企画者の声が聞こえてくるようだ。ぶひぃぃいい大好きれすぅぅうう!!



 何を日常系の元祖と呼ぶかは悩ましいが、現在のそれに連なる系譜を開いたのは『あずまんが大王』だと言っていいだろう。日常系は誕生した時から「少女だけの世界」で描かれていた。が、当時はまだセカイ系が幅をきかせている時代だった。セカイ系を終わらせて日常系の時代を作ったのは『涼宮ハルヒ』シリーズだ。その後、『らき☆すた』や『生徒会の一存』シリーズのヒットを通じて、日常系は無視できない一大勢力へと成長して行く。
 そして『けいおん』のメガヒット。日常系は「数字を取れるコンテンツ」として地位を確かにした。
 現在では『けいおん』のころよりも研究が進み、「必ずウケる仕掛け」が定式化されている。
たとえばキャラクターの相互関係だ。『らき☆すた』『けいおん』『超電磁砲』の時代には、メインキャラクターは4人が鉄板だった。しかし現在ではメインキャラクターは5人が主流になり、それぞれの役割分担もハッキリしている。すなわち【牽引型】【振り回され型】【お姉さん型】【ガチ百合型】【トリックスター型】だ。最近流行った美少女日常系では、キャラクターの人間関係は必ずこの5パターンに割り当てられている。



     ◆



ゆるゆり (2) (IDコミックス 百合姫コミックス)

ゆるゆり (2) (IDコミックス 百合姫コミックス)

1.【牽引型】のキャラクター
行動的な性格で、ストーリーを前進させる役割。ボケキャラになる場合が多い。
ゆるゆり』歳納杏子
きんいろモザイク』大宮忍
のんのんびより』越谷夏海
ご注文はうさぎですか?』ココア





2.【振り回され型】のキャラクター
牽引型のキャラクターに振り回される役割。ボケに対するツッコミを担う場合が多い。
ゆるゆり』赤座あかり
きんいろモザイク』アリス
のんのんびより』越谷小鞠
ご注文はうさぎですか?』チノ





[asin:B00JYVYZXO:detail]
3.【お姉さん型】のキャラクター
年上っぽい行動をする役割。ボケとツッコミの両方をこなすマルチロール・キャラクターだが、基本的に常識人なのでツッコミに回りがちである。
ゆるゆり』船見結衣
きんいろモザイク』猪熊陽子
のんのんびより』宮内一穂
ご注文はうさぎですか?』リゼ





ゆるゆりのうたシリーズ♪04 まるごと!(歌:吉川ちなつ/CV:大久保瑠美)

ゆるゆりのうたシリーズ♪04 まるごと!(歌:吉川ちなつ/CV:大久保瑠美)

4.【ガチ百合型】のキャラクター
同性愛を思わせる行動を取るキャラクター。男を登場させない世界で、「恋する少女の可愛らしさ」を提供するために存在しているのだと思われる。
ゆるゆり』吉川ちなつ
きんいろモザイク』小路綾
のんのんびより』一条蛍
ご注文はうさぎですか?』シャロ





[asin:B00HYTLD06:detail]
5.【トリックスター型】のキャラクター
独自の価値観で行動してストーリーを引っ掻き回す役割。自分の世界を持っているAB型タイプのキャラクター。
ゆるゆり』池田千歳
きんいろモザイク』カレン
のんのんびより』宮内れんげ
ご注文はうさぎですか?』千夜





 以上、【牽引型】【振り回され型】【お姉さん型】【ガチ百合型】【トリックスター型】の5パターンのキャラクターを配置するのが、現在の美少女日常系の基本だ。
 なお、この5パターンはあくまでも「役割」に着目したものであって、キャラクターの「個性」に注目したものではない。【振り回され型】キャラクターのうち、『ごちうさ』のチノはクーデレっぽい属性を持っているのに対して、他のキャラクターにはそれがない。また【ガチ百合型】のキャラクターには妹・年下の属性が付与されがちだが、『きんいろモザイク』小路綾はどちらかといえば姉・年上っぽい属性を持っている。
 たとえば同じ「前菜」という役割でも、イタリア料理のサラダと中華のザーサイはまったく別のものだ。同様に、上記5パターンはメインキャラクターの人間関係のなかでどのような立場を占めるかを決めたものであり、同じ役割であってもそれを演じるキャラクターには様々な属性を盛り込むことができる。
 また、この5パターンの自由度についても考えておきたい。
 たとえば【ガチ百合型】キャラクターの恋愛対象には、【お姉さん型】のキャラクターが選ばれやすい。しかし『のんのんびより』の一条蛍の場合は、【振り回され型】の越谷小鞠を憧れの対象にしている。【ガチ百合型】キャラクターが誰に興味を持つのかは、ある程度の自由度がありそうだ。
 キャラクターが「欠ける」場合もありうる。『ゆるゆり』の池田千歳や『のんのんびより』の宮内一穂は登場頻度が少なく、メインキャラクターとは言いがたい。美少女日常系では5人が鉄板であるにも関わらず、メインキャラクターが4人になってしまうのだ。では、この欠落をどう補っているかといえば、メインキャラクターの誰かが足りない役割を補っている。
 たとえば『ゆるゆり』の場合、【トリックスター型】のキャラクターが欠落しがちになる。【トリックスター型】の役割は独自の価値観で行動してストーリーを引っ掻き回すことであり、赤座あかりや吉川ちなつ、歳納杏子がそれぞれ少しずつこの役割を分担している。
 また『のんのんびより』の場合、【お姉さん型】のキャラクターが欠落しがちになる。【お姉さん型】の役割は「常識的な意見」を提示することだ。『のんのんびより』では【ガチ百合型】の一条蛍が、同時に【お姉さん型】の役割も果たしている。
 このように、欠落しているキャラクターを他のキャラクターで補うことができるので、メインキャラクターの人数にもある程度の自由度がある。



     ◆



ゆるゆり』『きんいろモザイク』『のんのんびより』『ご注文はうさぎですか?』……今回例に挙げた4つのアニメのうち、シチュエーション・コメディとしてのデキがいちばん手堅いのは『のんのんびより』だ。

フルハウス 1st シーズン 前半セット(1?11話収録) [DVD]

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 たとえばシットコムの傑作ドラマ『フルハウス』がサンフランシスコという舞台設定を存分に活用していたのと同様、『のんのんびより』は田舎の村という舞台設定を上手に活かしている。また、いい意味で手アカのついた定番のギャグが多く、安心して笑うことができる。都会出身の一条蛍と、田舎の人々との文化的ギャップが笑いを誘う。
 一方、『きんいろモザイク』はシチュエーション・コメディとしてはかなり危うい橋を渡っている。イギリス人が日本に留学してくるという状況設定にもかかわらず、イギリスと日本との文化的ギャップに基づいた笑いはあまりない。第9話には「お料理シーン」があるが、フィッシュ&チップスは出てこないし「何にでもモルトビネガーをかける」といったボケもない。味付けで笑いを誘うのは猪熊陽子と小路綾の日本人コンビである。
 さらに『きんいろモザイク』は、コメディの禁忌を犯している。
 一言でいえば「正義がない」のだ。
 大宮忍はファンの間では「鬼畜こけし」と呼ばれているが、他のキャラクターを傷つけるようなドSな行為を頻繁に取る。しかし、天然キャラだからしかたないよねで流されてしまう。彼女は平気で人を傷つけておきながら、まったく反省しない。これは正義に適わない。
 コメディは不真面目なストーリーだと思われがちだが、じつはコメディほど正義と悪に敏感でなければならない。
 たとえば先述の『フルハウス』にもクソ回と呼ばれる回がある。5thシーズンの第20話「ドライビング・ミスDJ」だ。高校生になった長女DJが「免許を取りたい」と言い出して、真面目な父親とお気楽な叔父がそれぞれ正反対の方法で運転方法を教えようとする。父親のダニーはとにかく安全第一で、神経質すぎるほど注意深い運転を教える。一方、叔父のジェシーはノリとセンスで運転させようとする。二人の教え方のギャップが笑いを誘う。
 では、なぜこの回が「クソ」と呼ばれているかと言えば、見終わったあとにモヤッとしたものが心に残るからだ。
 まず「免許を取りたい」と言い出したことからしてDJのワガママだし、父親の教え方に反発するのは「親切を仇で返している」ように見えてしまう。おまけに叔父が大切にしている車に傷をつけてしまう始末だ。にもかかわらず、DJは最後まで反省しない。言い換えれば、正義に適う行動を取っていない。だからこそ観客の心にモヤッとしたものを残すことになるのだ。
 コメディほど「正義と悪」には敏感でなければならない。そのいい例がアニメ『俺の彼女と幼なじみが修羅場すぎる』の第4話に見つけられる。不良に絡まれた主人公・季堂鋭太を、幼なじみの春咲千和が助けるシーンだ。千和は剣道が得意で、不良たちをボコボコにする。しかし、このシーンで彼女が武器にしているのは工事現場で使うコーンバーなのだ!

ワールドクラフト コーンバー 1m

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 想像してほしい。もしも千和が、鉄パイプや角材で不良をぶん殴っていたら、それは観客の目にどう映るだろう? 不良たちは病院送りになるだろうし、過剰防衛に見えてしまうだろう。背が低くて病弱なはずの千和が、いきなり「暴力ヒロイン」へとランクアップだ。正義に適わないヒロインになってしまう。そうならないために、千和の武器は殺傷能力の低いものでなければならなかった。
 コメディでは、キャラクターは常に正義に適った行動を取らなければならない。正義に反するときは、必ずしっぺ返しを受けなければならない。のび太はしばしば我欲や怠惰に負けて「悪いこと」をするが、物語の最後には必ずしっぺ返しを受ける。正義と悪に鈍感な人にコメディは書けない。日常生活でも目にするはずだ、他人の痛みを知らない人は冗談が下手である。
 にもかかわらず、だ。
きんいろモザイク』の主人公・大宮忍はドSだ。「鬼畜こけし」の名にふさわしく、平気で人を傷つける。しかも彼女は反省しない。しっぺ返しも受けない。ハッキリ言って大宮忍は悪の化身だ。『きんいろモザイク』はコメディの禁忌を犯しているのだ。
 では、『きんいろモザイク』は駄作だったか?
 観客の心を置き去りにした、つまらないアニメだったか?
 もちろん答えはノーだ。刺さる人にはとことん刺さるアニメであり、中毒的な面白さを持っていた。放送終了後には大量の「きんモザ難民」が発生した。コメディとして「やってはいけないこと」を犯しているのに、『きんいろモザイク』は痛快な傑作だったのだ。
 舞台設定を充分に活かしていないこと。
 コメディなのに主人公が正義に適わないこと。
 以上2点は、ともすれば欠点にもなりかねない。にもかかわらず『きんいろモザイク』は傑作だった。これはなぜだろう。どうして大宮忍は、どんな悪事を働いても視聴者から嫌われないのだろう。
 答えは明白だ。可愛いからである。
 可愛いからこそ視聴者は大宮忍に嫌悪感を抱かない。彼女のドSな行動を許してしまう。



     ◆



 現在の日常系では、メインキャラクターは必ず5パターンの役割に振り分けられる。すなわち【牽引型】【振り回され型】【お姉さん型】【ガチ百合型】【トリックスター型】の5つだ。
 また『のんのんびより』がシチュエーション・コメディとして手堅い作りだったのに対して、『きんいろモザイク』はコメディの禁忌を犯している。シットコムスラップスティック・コメディといった伝統的なジャンルに当てはめることのできない、じつに日常系らしい日常系といえるだろう。さらに日常系では、登場人物が正義に反する行動をしても許される場合がある。そのキャラクターが充分に可愛ければ、視聴者は嫌悪感を抱かない。
 要するに、可愛いは正義なのだ。