知人の公認会計士に「絶対に面白いぞ」と言われた。
だから、日本共産党の政治資金収支報告書を読んでみた。
日本共産党が企業献金も政党助成金も受け取っていないのは知っていた。「しんぶん赤旗」が重要な収入源なのは有名な話だ。しかし、収支の実態までは知らなかった。
上記の記事によれば、2012年の日本共産党の収入は約233億円、支出は235億円、約2億円ほどのマイナスだ。問題は収入の内訳である。「機関紙誌・書籍等」は約204億円、収入のじつに88%を占めている。収入源だけを見れば、日本共産党は政党というよりも「新聞屋」といったほうがいい。
機関紙誌・書籍で年間200億円前後の売上高──。
日本共産党の「商売」は、ちょっとした地方新聞よりも規模が大きい。しんぶん赤旗の発行部数は約24万部だというが、たとえば神奈川新聞の売上高は約85億円、発行部数は23万部だそうだ。日本最大の地方紙は東京新聞だが、発行部数は55万部ほどだという。「しんぶん赤旗」の発行数はその半分に迫っている。
※なお、全国紙と比べればさすがに見劣りする。朝日新聞朝刊761万部、毎日新聞朝刊340万部だ。
では日本共産党は、新聞事業で儲かっているのだろうか?
新聞を本業とする一般企業と見なした場合、事業の継続可能性はどれほどだろうか?
日本共産党を「新聞屋」と見なす場合、政治資金収支報告書はそのままでは財務資料として使えない。
たとえば借入金を考えてほしい。カネを借りた直後は預金の残高も増えるが、一般企業はこれを収入と見なさない。ところが政治資金収支報告書では、カネを借りたときの入金も収入に含めてしまうらしい。
同様に、貸付金を回収したときの入金を一般企業では収入に含めないが、政治資金収支報告書では収入に含めるらしい。
また、土地や建物を購入したときの出金を一般企業では支出に含めない。現金がほかの資産に姿を変えただけだと見なすからだ。しかし政治資金収支報告書では、資産を購入した際の出金も支出に含めてしまうらしい。
これらの違いを埋めなければ、日本共産党を「新聞を本業とする一般企業」として評価することはできないようだ。
「らしい」「ようだ」を連発するのは、私が政治資金について完全にシロウトだからだ。
したがって、ここから先の内容は私の憶測にもとづいた事実無根・嘘八百なものだと思って読んでほしい。もしも間違いに気づいたら遠慮なくご指摘いただければ感謝甚大である。
話を戻そう。
一般企業として評価するためには、「貸借対照表(BS)」と「損益計算書(PL)」が必要だ。
まずは公開されている資産報告の内訳書にもとづいて、日本共産党の過去4年間のBSを仮作成してみた。
このBSを見るだけでも、気になる点がいくつかある。
たとえば預貯金の残高が、2010年と2011年で同じだ。カネの出入りは当然あったはずなので、これは恣意的にカネを使って預貯金残高を前年に合わせたと考えるべきだろう。また土地の残高が約2億6000万円増えている。PLを見ないと分からないが、「2011年は何らかの理由でカネに余裕があり、価格変動しづらい土地を購入して資産を守ることにしたのではないか」と推測できる。
続いて2011年と2012年を比較してみよう。預金の残高は約1億9000万円増えており、一方、貸付金は1億2000万円、有価証券は1億3200万円減少している。さらに建物は約2400万円、動産は約3400万円減少している。このことから、「2012年は何らかの理由でカネが必要になり、貸付金を回収したり、有価証券や建物などを売却して現金化したのではないか」と推測できる。
では、「何らかの理由」とは何だろう?
答えを知るために、損益計算書(PL)を作成してみよう。
まず一般企業の「売上高」にあたるのが、「機関紙誌・書籍等」による収入だ。一方、「機関紙誌・宣伝等事業費」による支出は、一般企業でいう「売上原価」になるだろう。この二つの数字があれば粗利益が算出できる。
また「経常経費」とは、人件費、光熱水費、備品・消耗品費、事務所費などの支出を指す。一般企業でいう「販管費」のようなものだと推測できる。ここまでの数字で、営業利益が算出できる。
続いて「営業外収入」と「営業外支出」を算出してみよう。
新聞業の売上以外にも、日本共産党には「党費」「寄付」「その他」の収入がある。ただし、「その他」には資産の売却による入金も含まれている。土地や建物、動産、有価証券、貸付金が前年に比べてどれだけ減ったのか調べれば、それらの売却による入金がどれだけ含まれているのか推測できるはずだ。したがって日本共産党の「営業外収入」は、「党費」「寄付」「その他」の合計額から、資産の減少額を引いたもので代替できるだろう。
「営業外支出」にも、同じような計算が必要だろう。資産の購入や借入金の返済による出金は、一般企業では支出に含めない。土地や建物などがどれだけ増えたかを調べれば、資産の購入による出金額が推定できる。また借入金がどれだけ減ったかを調べれば、負債の返済による出金額が推定できる。したがって日本共産党の「営業外支出」は、「その他の政治活動費」から資産の対前年増加額を除き、さらに借入金の対前年減少額を除いた金額で代替できるだろう。
営業外収入と営業外支出が分かれば、経常利益を算出できる。
以上の方法で作成した日本共産党の「損益計算書(PL)」がこちらだ。
新聞事業で儲かっているかといえば、そうでもなさそうだ。
2012年の営業利益は約19億円だ。ここには党費・寄付による収入は含まれていないし、選挙関連の経費も含まれていない。党費と寄付の合計金額は約13億円。営業利益と足した約32億円を、選挙などの政治活動の経費にあてていたはずだ。
政治活動に使える32億円のうち、新聞事業の利益は6割。たしかに重要な資金源なのは間違いないが、それだけで活動経費をまかなえるほどではない。彼らの政治活動には党費と寄付が不可欠だ。
続いて、事業の継続可能性を考えてみよう。
まず指摘できるのは、売上の急減だ。2009年の約214億円から、過去4年間で10億円も減少している。たしかに2012年には売上急落に歯止めがかかった。が、新聞・出版の業界全体の傾向として売上縮小は続くものと思われる。
しかし、それだけで事業が行き詰まるとは限らない。本業の儲けである営業利益が黒字を維持しているので、かんたんには倒産・事業撤退しないはずだ。規模を小さくしながら事業を継続する道もある。
たとえば売上原価をみると、2010年から2011年の1年間で約9億円も減っている。経営効率化が進み、原価の圧縮に成功したのだろう。2011年の売上高は過去5年間で最悪だったにも関わらず、粗利益は増益だった。
2012年は売上高がわずかに回復した。また経営効率化がさらに進んだらしく、売上原価と販管費は減少している。結果、営業利益は過去5年間で最高益となった。ところが最終的な経常利益は赤字になってしまった。
なぜだろう?
2012年の収支報告書を見ると「党費」「寄付」があわせて10億円ほど減少している。一方、「その他の政治活動費」は約5億円の増加だ。私の作成したPLでは営業外収入は約8億円の減少、営業外支出は約7億円の増加だった。
「新聞業」以外の収入が減り、支出が増えた:これが2012年の経常赤字の原因だ。
2012年には第46回衆議院議員総選挙があった。
これが営業外支出の増大をまねき、約4億円の経常赤字をもたらしたのだと思われる。
経常利益が赤字になっている年に注目してほしい。2009年、2010年、そして1年飛んで2012年だ。一方、2011年は黒字だった。これは国政選挙の有無と一致している。
2009年、第45回衆議院議員総選挙。
2010年、第22回参議院議員通常選挙。
2012年、第46回衆議院議員総選挙。
以上のように、経常赤字の年には国政選挙が行われている。
日本共産党は1959年から2004年まで、すべての選挙区に候補者を擁立する方針を貫いていた。何らかの理由で候補が立たない選挙区は「共産空白区」と呼ばれるほどだ。
選挙は、ただ候補者の宣伝だけにカネがかかるわけではない。
たとえば衆議院選挙の場合、立候補するだけで300万円の供託金を徴収され、得票数が少ないと返金されずに没収されてしまう。日本共産党は2012年に再び全選挙区擁立の方針に再転換した結果、供託金の没収額だけで7億6200万円に達したという。
ここで2011年と2012年のBSを比較してほしい。
建物が約2400万円、動産が約3400万円減少している。さらに有価証券と貸付金はあわせて2億5200万円減少している。これは選挙活動の経費を賄うために、資産を売却して現金を作ったのだと考えられるのではないだろうか。前述のとおり2012年は党費と寄付が減少しており、新聞業の営業利益だけでは選挙活動のカネを捻出できなかったのだと推測できる。
ここから、日本共産党を潰す──倒産させる──方法が分かる。
国政選挙を増やせばいいのだ。
衆議院の解散総選挙を毎年のように行えば、日本共産党は赤字が続くことになり、早晩、活動を続けられなくなるはずだ。ただし、いたずらに解散総選挙を繰り返せば有権者の政治不信を招き、結果として誰もトクをしないだろう。
◆
最後に、日本共産党の経営再建の道を考えてみよう。
新聞のような売上規模が減少している業界では、「事業をうまく小さくして生き残りをはかる」のが選択肢の1つになる。不採算な部門をリストラして、減収・増益で軟着陸を目指す戦略だ。
では日本共産党の活動のうち、もっとも不採算な部門はどこだろうか。
言うまでもなく、選挙のたびに赤字を垂れ流す政治活動だ。しかし、これをリストラしたら本末転倒である。
したがって日本共産党はこの戦略を選べない。売上高の減少という問題に真正面から向き合うしかない。他の新聞社と同様、インターネットによる情報氾濫に対して、抜本的に商売のやり方を変える必要に迫られている。
たとえば全国紙の新聞社の場合、WEBサイトのトップページに膨大なPVがあるため、広告収入でかなりの収益化が見込める。が、日本共産党の「企業献金を受け取らない」という方針からすると広告に依存するのは難しいだろう。現に、しんぶん赤旗のWEBサイトには外部企業の広告は掲載されていないようだ。
あるいは日経新聞や週刊誌のWEB版に見られる会員登録制はどうだろうか。記事の公開から一定期間は無料で配信するが、バックナンバーは有料会員しか閲覧できないというやり方だ。TwitterやFacebookで拡散されるコンテンツを提供しつづければ、有料会員は着実に増えていくはずだ。
まとめよう:
・日本共産党の収入源は、政党というよりも新聞屋。
・事業規模はちょっとした地方紙よりも大きい。
・営業利益は黒字だが、売上高の急減が課題。
・国政選挙のたびに経常赤字になってしまう。
・経営再建のためには、売上高の回復・増大が急がれる。
私には、複数の新聞を「比較読み」する習慣がある。
なぜなら、どんな新聞にも多かれ少なかれ偏向が含まれているからだ。完全に中立な報道など理想上のもので、現実には存在しない。だからこそ新聞は一紙読むだけでは不充分で、複数紙の記事を比較しなければ真実はつかめない。「自分の頭で考える」には、新聞に書かれたことを鵜呑みしてはいけない。
そして「比較読み」の対象には、しんぶん赤旗も含まれている。
政党助成金も企業献金も受け取っていない政党が母体だからこそ、ほかの新聞には書けない──誰にも遠慮しない──刺激的な記事が書かれている。ある意味で「権力の監視」というジャーナリズムの役割をいちばん果たしている新聞かもしれない。
新聞業界はインターネットの発達により、かつてない変化を味わっているらしい。売上の減少を食い止められない新聞社から順番に消えていくだろう。しかし、しんぶん赤旗のコンテンツは、市場から退場するにはあまりにも惜しいと私は思う。
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