世界は狭くなった。様々な国や地域の生活ぶりを、リアルタイムで覗き見できるようになった。言葉の壁はあるけれど、翻訳ソフトの高性能化は止まらない。マイケル・ジャクソンがWe are the Worldと歌い上げた世界が、きっともうすぐやってくる。現在でさえ、海外で生活している日本人の言葉を通じて、現地の空気を感じることができる。
ほんの100年前、海外赴任は今生の別れだった。
ほんの50年前、海外旅行は“選ばれし者”だけに許された特権だった。
ところが今はどうだろう。Googleストリートビューと現地在住者のブログやTwitterを併読すれば、お茶の間にいながら地球を一周できる。世界中に散らばった日本人のブログを、いつも興味深く拝読している。
ところで、そういう「海外居住者の言葉」に目を通していると、大きく二つのタイプの人がいると気づかされる。
一つは、現地を褒める人だ。日本人のアイデンティティーを捨てている人もいれば、日本人として現地の空気を愛している人もいる。どちらにせよ、習慣や常識の違いを理解したうえで、「その地域が好きでたまらない」と書き込んでいる。現地に馴染むことができる人だ。
もう一つは、現地をけなす人だ。たとえばバンコクの屋台の不衛生さをdisり、ロンドンの人々の怠惰さをdisり、サンパウロの商店の不便さをdisる。「日本は最高!」という高慢さを捨てることができず、その地域を嫌悪するか、あるいは上から目線で侮辱する。一言でいえば、現地に馴染むことができない人だ。
当たり前だが、海外での生活には前者のほうが向いている。後者のタイプは、ハッキリ言って不幸だ。
たとえばインドネシア共和国は「Bhinneka Tunggal lka(多様性のなかの統一)」を国の標語に掲げている。イスラム教徒、キリスト教徒、ヒンディー教に儒教。さらにマレー人に華人、プラカナン、そしてインド系移民……。多様な宗教・民族を抱えるインドネシアならではの標語だろう。この言葉が示すような「お互いの違いに対する理解」や「多様性を乗り越える意識」を、後者タイプの人はどうして持てないのだろう。
たとえば現地駐在員の夫についていった女性などは、後者タイプになりやすい(という印象がある)。もともと興味が無かった地域なのに、無理やり移住させられたパターンだ。組織に逆らえない日本の人事習慣が問題であり、彼女たちはある意味、被害者だ。
あるいは、現地に対する理解が不十分なまま移住してしまった場合だ。これは完全に本人の責任だろう。うっかり現地人と結婚などしてしまい、帰国できなくなるのが最悪のパターン。その地域に対するいらだちを、ひたすら鬱積させることになる。
現地を褒めるタイプの人でも、その地域に対するいらだちを吐露することはある。が、完璧な街など存在しない。やる夫やのび太が欠点だらけだからこそ愛されるように、うまくいかない部分まで含めてその地域を愛している:それが前者タイプの人だ。
ところが後者タイプの人には、それができない。
貶めて、嘲笑するだけで、その地域を愛することができない。
読んでいて痛々しいし、どこまでも不幸な生き方だと、私は思う。
また、後者タイプの人にはもう一つ特徴がある。
他人を貶めることで、自分を高めようとするのだ。人気ブロガーのChikirinさんが指摘なさっているとおり、「批判の方向」には許されるものとそうでないものがある。「格上」の相手を下から突き上げるのならいざ知らず、自分と同レベルか「格下」の相手をdisって自尊心を慰めている。それが後者タイプの人の特徴だ。ここでいう「格上・格下」には所得水準や、経歴、学歴など、様々な基準が用いられる。
さらに、その人の痛快な「格下dis」を、拍手喝采して喜ぶ人たちがいる。そして彼(もしくは彼女)のフォロワーが増えていく。ポケモンでたとえるなら、さしずめフシギソウをdisることでフシギダネからの人気を獲得しているフシギバナ……といったところだろうか。
なんという承認欲求の強さだろう。なんという自尊感情の枯渇だろう。海外生活のストレスが原因なのかもしれないが、その人の性格にやや難があるのは明らかだ。
少なくとも、同じ日本人である私ですら「この人と友だちになりたくねーな」と思う。
いわんや、外国人をや。
現地をひたすらdisる在外日本人は、きっと現地人の友だちに恵まれていないのだ。その理由は、本人の性格によるところが大きい。おそらく「この人と親しくなりたい」というオーラに欠けており、むしろ人を遠ざけるような負のオーラを放っているのだろう。そして類は友を呼ぶ。日本に日陰者の日本人がいるように、現地での日陰者たちが近寄ってくる。そしてますます、その地域の“非リア”としての精神性を深化させていく。
日本で“非リア”だった人が、海外に移住したらリア充になった……なんて事例はいくらでもある。日本のニートが海外就職で大・成・功! という話をしばしば耳にする。ということは、その逆の事例だっていくらでもあるはずなのだ。
◆
ブログやTwitterから察するに、海外在住者には二つのタイプがいる。現地を褒める人と、けなす人だ。前者のほうが明らかに幸福な海外生活を送れるし、後者はどう考えても不幸だ。性格に難があるせいで現地に馴染めない“非リア”なのではないかと、私はついつい斜に構えた視線を向けてしまう。
日本を最高の国だと信じるのは構わない。が、そういう自分の常識にとらわれて、他国のすばらしさを探す努力を放棄してはいけない。他者のすばらしさに敏感でなければいけない。
Bhinneka Tunggal lka。
国際社会の一員としての自覚が足りない人は、日本から出ないほうがいい。
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