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デマこい!

「デマこいてんじゃねえ!」というブログの移転先です。管理人Rootportのらくがき帳。

駄作小説からの脱出する(?)ツールを作ってみたよ/インパクトのあるシーンの基本法則

創作
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小説で大切なのは、書き出しだという。ミステリーなら「冒頭数ページ以内に人を殺せ」と言われるし、ボーイ・ミーツ・ガールなら「最初のページからヒロインを登場させろ」なんて言われている。まあ、ワナビならみんな知っているよな。
で、魅力的な導入シーンにはいくつか法則がある。
「続きが気になるシーン」=「舞台の設定」+「異質なモノ」
この公式は、そういった法則の一つだ。
この公式は、書き出しだけでなく作中のシーンすべてに応用できる。「読者にとって、ストーリーよりもドラマやキャラクターが大事だ」という仮説とも一致する。インパクトのあるシーンを作り上げることこそ、作品を面白くする近道だろう。





本日のメニューはこちら。
1.宮部みゆき『スナーク狩り』の書き出し
2.東野圭吾『天空の蜂』の書き出し
3.伊坂幸太郎グラスホッパー』の書き出し
4.小学校のレクリエーション・ゲーム
作品のチョイスが微妙に古いのは気にしない方向で。


1.宮部みゆき『スナーク狩り』の書き出し
このお話は「結婚式場に、若いお姉さんがショットガンを持って乗り込む」というシーンから始まる。ものすごく続きが気になる書き出しだ。

スナーク狩り (光文社文庫)

スナーク狩り (光文社文庫)

宮部みゆきは(とくにこの時期の作品では)書き出しがとても上手い。単にショッキングなだけでなく、「この先どうなってしまうの?」と思わせる書き出しになっている。
たとえば『レベル7』の書き出しは「若い男女がマンションの一室で(同じベッドで)目を覚ますが、二人とも記憶喪失だった」というシーンだ。(プロローグがあるので、厳密には書き出しとはいえないのだけど)
レベル7(セブン) (新潮文庫)

レベル7(セブン) (新潮文庫)

このシーンは二つの謎を読者に与える。「どうしてこうなった?」という過去に対する疑問と、「この二人はどうするの?」という未来に向けた疑問だ。「朝起きたら隣に美女がいて……」というのは桃色系ライトノベルにありそうな書き出しだ。が、主人公の記憶も奪ってしまうことで「謎」の大きさを増している。



2.東野圭吾『天空の蜂』の書き出し
著者の最高傑作だと思うけれど、なぜか映像化されない作品。原発問題を取り扱ったからスポンサーがつかないのだろうな、たぶん。

天空の蜂 (講談社文庫)

天空の蜂 (講談社文庫)

書き出しはこうだ:
「試作機の軍事用大型ヘリが、遠隔操作によって勝手に飛び立ってしまう。ヘリの中には子供が一人乗っていた」
たとえば福井晴敏なら、「試作機の大型ヘリが、遠隔操作によって勝手に飛び立つ」というシーンだけで書き始めてしまうと思う。(で、しっかり面白く仕上げると思う)子供が勝手に格納庫へ入れるわけないじゃん! というリアリズムに従えばそうなる。
・場所:試験飛行場
・できごと:大型ヘリが飛び立つ
これだけなら、何の不思議もない。単なる舞台設定だ。だがそこに「遠隔操作で勝手に」という一文が加わると、お話が動き始める。その舞台にあってはならない「異質なモノ」だからだ。つまり、
=「舞台設定:試験飛行場と大型ヘリ」+「異質なモノ:遠隔操作で勝手に」
という式が成り立つ。
東野圭吾はさらに「異質なモノ2:子供」を付け加える。そして数ページ先で、ヘリコプターは原子力発電所のうえでホバリングを始める。マスコミ各社にはテロリストからの脅迫状が届く、「あのヘリにはダイナマイトを積んであり、要求を聞かなければ、原発へと墜落させるぞ」と。
最初の舞台設定に「異質なモノ」をどんどん付け加えることで、のっぴきならない状況を作り出している。これが「続きが気になるシーン」の基本法則だ。先ほどの宮部の例に戻れば、「結婚式場と若いお姉さん」だけなら何の不思議もない。そこに「ショットガン」という異質なモノを投げ込むことで、お話をスタートさせている。
つまり「異質なモノ」について、2つの事が分かる。一つは「いくつか重ねると謎が大きくなる」ということ。もう一つは「異質さが“際立つ”ほど良い」ということ。
たとえば結婚式場に持ち込むのがナイフなら、異質さという点でショットガンよりも弱い。ナイフは誰でも手に入れられる。ああ、余興でナイフ投げのジャグリングでもすんのかな。あるいは思い入れのある特別なナイフだから、ケーキ入刀に使うとか……。だがショットガンでは、そういう生ぬるい展開は予想できない。「間違いなくヤバいことが起こる」と想像させる。「軍事用大型ヘリ+子供」の組み合わせも同じだろう。ただの「一般人」ではなく「子供」であることに注目すべきだ。できるだけその場にふさわしくないモノを持ちこむのが、「異質なモノ」を際立たせるアプローチの一つだ。
なお異質なモノを際立たせるアプローチには、もう一つの方向がある。それは「舞台設定」を固めることだ。試験飛行場のセキュリティがいかに強固なものかを書いておけば、「遠隔操作で勝手に飛んだ」というだけで充分な訴求力を持ちうる。




3.伊坂幸太郎グラスホッパー』の書き出し

グラスホッパー (角川文庫)

グラスホッパー (角川文庫)

この作品の書き出しは、「妻を殺された中学校教師が復讐を果たすために闇社会に片足を突っ込んだら目の前で妻の仇が殺された」というシーンから始まる。かなりカオスだけど、ここまでワンシーンなのだ。いままで出てきた法則の合わせ技で、もう説明することがあんまり残ってない。できるだけ異質なモチーフを組み合わせていること。そして異質なモノを重ね塗りしていること。この二つから、読者を引き込むような書き出しになっている。


「続きが気になるシーン」=「舞台の設定」+「異質なモノ」


この公式は、書き出し以外にも適用できる。書き出しのシーンと作中シーンとの違いは「舞台設定」にある。書き出しでは「読者の常識」に基づいて舞台が設定され、作中では「作品のルール」に基づく。
作品を読み始めるとき、読者はその物語の世界観を知らない。読者が持っている常識に基づいて、シーンを想像していく。たとえば「結婚式場に危険物はふさわしくない」という常識がある。「同じベッドで目覚めた男女は、お互いをよく知っている」という常識。「軍事用ヘリに子供は乗らない」という常識――。
ところがお話が展開するに従って、作中のルールが次なる舞台を作り始める。「要求を飲まなければヘリを原発に墜落させるぞ」というルールに基づいて、その先のシーンが設定されていく。舞台設定ではなく「状況設定」と言ったほうが適切かもしれない。そのシーンにたどり着くまでのストーリーによって、状況がデザインされていく。
伊坂幸太郎グラスホッパー』は、最初のワンシーンでこれをやっている。「舞台設定+異質なモノ」を組み合わせながら、読者の常識を覆すような「作中のルール」を提示していく。だからこそ「仇が死んだ→目標達成」とはならず、そこから物語をスタートさせられるのだ。



4.小学校のレクリエーション・ゲーム
小学生の遊ぶレクリエーション・ゲームに、「いつ・どこで・だれが・どうしたゲーム」というものがある。別名5W1Hゲーム。


いつ・どこで・だれが・どうしたゲーム
http://www004.upp.so-net.ne.jp/chiharu/doushita-game.html


ルールは簡単。子供たちにメモ用紙なりカードなりを4枚配る。それぞれのカードに「いつ」「どこで」「だれが」「どうした」を書かせ、文を作らせる。たとえば「放課後に」「教室で」「鈴木君が」「着替えた」という具合だ。
書き終わったらカードを回収して、ランダムに組み合わせる。くじ引きをするみたいにカードを引くのだ。すると、「早朝に」「女子トイレで」「校長先生が」「着替えた」みたいな意味不明な文ができあがり、子供たちは爆笑する。実は小学六年生のころ、私は「レクリエーション係」なる役職についていた。遠足のバスのなかで遊ぶゲームを決める係りだ。テレビからこのゲームの存在を知った私は、さっそくクラスメイトに紹介した。このゲームは大流行し、その後、事あるごとに催された。


なぜこのゲームは面白いのだろう。
言うまでもなく、組み合わせの「意外性」が笑えるからだ。これは、「小説の魅力的なシーンには異質なモノが登場する」ことによく似ている。きっとヒトの脳みそは「意外性」を楽しむようにできているのだろう。


「意外性を出しなさい」「オリジナリティを出しなさい」という言葉は、もう耳にタコができるほど聞いているはずだ。いまさら繰り返すまでもない。ではなぜこんなエントリーを上げたかと言えば、自戒のためだ。ストーリーの作り方に注目するあまり、魅力的なシーンを描くという一番大切なことを忘れていた。
まずは「カッコいいシーン」をいくつか考えてみる。で、それを論理的に接続するためにストーリーを作る。こういう順番でプロットを立てた作品のほうが、自分で読んでも面白いと感じられる。小説の書き方は人それぞれだろうが、私にはこの方が向いているのかも。また「カッコいいシーン」をデザインするためには、バックグラウンドとして「登場人物の設定」が必要だ。以前『とある科学の超電磁砲』の二次創作をした時には、「こんなシーンを書きたい!」というアイディアが次々に湧いてきた。初春と美琴がケンカするシーン。美琴と佐天さんの立場が逆転するシーン。そういうシーンを楽々と思い浮べることができたのは、アニメとマンガで各キャラクターの設定をインプットできていたからに他ならない。


話は戻るが、意外性のある組み合わせを作るために、カードがよく使われる(らしい)。「小説の書き方」みたいな本には必ず載っているアイディアジェネレーターだ。これをストーリーだけじゃなくて、シーンをデザインするのにも使えるのではないか、というのがこのエントリーでの主張。
紙のカードを使わなくても、わりと簡単に作れそうだ。「ストーリージェネレーター」とか「シーンジェネレーター」みたいなツール。5W1Hゲームを自分一人で遊ぶというかなり暗〜いソフトになるけれど。



※で、作ってみた。
http://u10.getuploader.com/hatena/download/23/Lonely_5W1H_game.zip
F9キーを押すたびに文が変わります。
デフォルトでは例文を記入してある。けれど実際にオリジナル作品の創作に用いる場合は、作中の地名や、時間帯、登場人物なんかをリスト状に記入して使えばいいんじゃないかな。






<参考>

物書きが悪魔と契約する前に試すべき7つの魔道具
http://readingmonkey.blog45.fc2.com/blog-entry-148.html
※モチーフの「組み合わせ」を生みだす古典的な道具が紹介されている。

ストーリージェネレーター@wiki
http://www6.atwiki.jp/plotmaker/pages/1.html
※この方はお話の全体像をツールで作ろうというアプローチをしているみたいだ。散発的に「意外な組み合わせ」を作りたいだけの私とは、ちょっと方向性が違うかも。