デマこい!

「デマこいてんじゃねえ!」というブログの移転先です。管理人Rootportのらくがき帳。

私がケーブルテレビを契約しなかった理由/「○○離れ」した若者にいかにしてモノを売るべきか

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私がいま住んでいるマンションが、テレビアンテナを地デジ対応のものに取り替えた。それにあわせて、BSやCSなどの有料放送も、個人でアンテナを買わずに契約できるようになった。
そして今日、有料放送会社の営業さんがうちに来て、いろいろと説明してくれた。が、紹介されたプランがあまりにも残念だったのだ。ワンルームマンションに住む単身者は、もとからターゲットに含まれていない……そう思わせるような料金体系だった。
結局、契約はしなかったのだけど、その理由をまとめてみる。



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まず、紹介されたプランは3つ。
細かいオプションプランがたくさんあるみたいだけれど、骨格になっているのは次の三つのコースだ。


1.62チャンネル見放題:月額4,180円


2.72チャンネル見放題:月額4,980円


3.常設インターネットサービス+1ch見放題+オンデマンド:月額4,980円




上記の1、2については、見たい番組は最初からセットになっており、選ぶことができない。番組一覧を見せてもらったのだが、見たいと思えたのはせいぜい5〜6チャンネルだった。ディスカバリーチャンネルナショジオ、あと映画系のチャンネルをいくつかに、MTVぐらいは見るかも知れない。だけどスポーツ放送や子供番組専門チャンネルなんかは絶対に見ない。
3については少し説明が必要だろう。ケーブルテレビと同様に、高速インターネット回線を利用できるようになる。それに併せて、1チャンネルだけ好きな番組を見放題にでき、さらに見たいテレビ番組をダウンロード購入する権利も付く。ただし見放題にできるチャンネルは限られており、30チャンネルの中から選ばなければならない。全部で72チャンネルのコースがあることを考えれば、半分以下だ。またオンデマンド(ダウンロード購入)はかなり高くつく。映画なら1本420円、テレビドラマなら1話315円ぐらいが相場だそうだ。当然、人気作なら高くなる。これならTSUTAYAで借りたほうが断然安い。


まず1,2のコースについては論外だ。見たくもない番組が大半なのに、なぜ5,000円近く支払わなければいけないのだろう。典型的な「利用しない人からお金を徴収する」という商売のモデルだ。詳しくはChikirinさんのブログ参照。
お金の儲け方講座(おちゃらけ編)http://d.hatena.ne.jp/Chikirin/20100610
もし私が契約するとしたら、3のコースになるだろう。ネットサービスに+αの金額でテレビ番組も楽しめるとなれば、けっこうおトクな感じがする。しかし話を聞いてみると、接続速度は若干遅くなり、なおかつオンデマンドは高い。プロバイダを乗り換えるのは「めんどうくさい」ので、その労力を上回るほどの魅力を感じなかった。


問題点は2つある。


ひとつは「ニーズの多様化に対応できていない」こと。膨大な数のチャンネルを準備して「どれでも見放題!」と銘打っても、売れるわけがない。たとえば「72チャンネルの中から見たい番組を5チャンネルだけ選べる」というプランなら、1チャンネルあたりの値段が少々高くても契約していた。
要するに、カローラが売れた時代の発想なのだ。商品開発の段階で、「すべての消費者の需要を満たす」ことだけを考えたのだろう。だから「スポーツが見られます、時代劇が見られます、洋楽のライブ映像が見られます、アニメも見られます、全部見られますおトクでしょう?」というセールストークが飛び出す。だけど私は、必要ない番組が含まれている時点で、おトクだなんて思わない。


もうひとつは、「魅力を見せる営業が出来ていないこと」
例えば生命保険の営業ならば、ノートパソコンを片手に外回りするのが当たり前になってきているそうだ。その場でお客さんの必要なプランをパソコンに入力し、月額を試算してみせる。そしてお客さんが現在入っている保険のプランと比較して、自分のところがいかにトクかを説明する。少なくとも保険・金融の業界では、そういう営業方法が主流になってきている。
複雑な料金体系を持つのは、なにも保険だけではない。たとえば携帯電話にも、うんざりするほどの料金プランが準備されている。昔、つきあっていた恋人と遠距離恋愛になった時に、電話料金が莫大なものとなり問題になった。そのときはわざわざエクセルを使って、自分たちの負担がいちばん小さくなるプランを考えた。つまり消費者が真剣に考えるのは、必要に駆られたときだけだ。そうでなければ「めんどうくさい」の一言で流されてしまう。
インターネットサービスも同じだ。もしも今日、営業さんが目の前で料金を計算・比較してくれたなら、契約していたかも知れない。ネット接続料が多少高くなっても、ディスカバリーチャンネルが見放題になるなら嬉しい。しかし実際には、今日の営業さんは紙の資料しか持ってこなかった。携帯電話でも同じみの「料金一覧」を見せられて説明を受けたが、それをもとに自分で計算することを考えたらうんざりした。そして(めんどくせ、ディスカバはDVDをレンタルすりゃいいや)という結論にいたった。
そもそも紙の資料だけで「映像の魅力」を伝えるには限界がある。ノートパソコンを持ち込んで、紹介VTRを見せたほうがお手軽なはずだ。それをしないのは、営業努力が足りないと言わざるを得ない。営業方針を決めている上司が「パソコンを持たせろ、映像を見せろ」という判断をしていないのだ。個々の営業スタッフで解決できる問題ではない。


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一般的に言って、いまの20代は生活が厳しい。携帯電話が爆発的に普及し始めたのは、たった10年前のことだ。ケータイにインターネット、数年に一度のパソコン買い換え。固定費は一気にふくれあがった。通信技術の発達と共に、生活に必須のインフラは自動車から通信機器へと移行した。そういった生活スタイルの変化と同時進行で、若年層の低所得化が進んだ。
そういう若年層のお財布事情を考えれば、固定費が増えるのはいちばん避けたい事態だろう。見たくもないチャンネルに、一銭たりとも払いたくない。払えない。カローラ的なサービスが売れるはずがない。
じつは「チャンネルごとに契約できる」有料放送の会社もある。しかし今回の会社とは別のところだ。1チャンネルあたり700円程度とさきほどの料金と比べてあまりにも割高であり、なおかつアンテナを購入しなければいけない。そういった初期投資も含めて考えれば、やはり「TSUTAYAでいいや」という判断になってしまう。


若者のテレビ離れの理由として、番組の質の低下があげられる。たしかに民放の番組では、そういった現象も起こっているのかも知れない。でも、次に挙げる予告動画を見て欲しい。どの番組も「すっげー見たい!」と思わせるものばかりだ。(とくにディスカバが好き。DVDを借りてまで見る価値があると思う。安ければ今すぐにでも契約したい)




※ドキュメンタリー番組はもともと好き。


※海外ドラマも一通り見られる。



20代だって映像コンテンツを楽しむし、できるだけ質の高いものを見たい。ニコニコ動画に素人がアップロードしたものよりも、有料放送の番組のほうが魅力的に決まっている。それでも契約をしないのは、売り方に問題があるからだ。
鄯.大味な商品展開をやめて個々のニーズに対応すること
(私のような20代は、食べ放題よりも回らないお寿司屋さんを喜ぶ)
鄱.適切な方法で商品を紹介すること
(料金体系が複雑ならばその場で計算すべき。映像コンテンツなら映像を見せるべき)
以上の2点を解決できれば、○○離れした若者にもモノが売れるはず。



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