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専業主婦「パンがなければ男を食べればいいのに」

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「専業主婦」という生き方は、経済的・文化的な変遷のなかで登場したものであって、ヒトの本能的・生得的な特性にもとづくものではない。どちらかといえば、人類史上に彗星のように現れて消えていく「一時代を象徴する生活スタイル」だったと考えるべきだろう。
しかし、当の専業主婦自身で、その自覚がある人は稀だ。



ニッポンの専業主婦 55.3%は「生まれ変わっても専業主婦になりたい」
http://wafutsushin.com/news/2013/02/13/1000-76/



日本には、専業主婦を優遇する制度が多い。
行政に限らず、たとえば大企業の給与形態では「夫だけが働く」という家族形式を前提としている場合が珍しくない。福利厚生や手当の面で、「結婚相手を扶養している者にたくさんカネが支払われる」という仕組みになっている。逆に言えば、「共働きの者・未婚の者にはあまりカネが支払われない」という仕組みだ。同一労働同一賃金の理念からすれば著しく不公平な制度だが、10人中9人以上が結婚する時代ならば承服されていた。
しかし現在、日本人はあまり結婚しなくなった。たとえば30代の日本人のうち、3割強〜4割が結婚していない。



年齢別未婚率の推移
http://www2.ttcn.ne.jp/honkawa/1540.html



ここ20年ほど日本経済は不況にあえぎ、日本人の所得は下がり続けていた。にもかかわらず「専業主婦」という生き方が成り立っていたのは、未婚者との所得配分の不均衡があったからだ。あえて意地の悪い言い方をすれば、未婚者を搾取することによって「専業主婦」の生活は成り立っていた。
結婚するのが当たり前でなくなった現在、こうした所得格差を正当化できるのだろうか。同一労働に従事する既婚者・未婚者の間に所得格差を設けることに、倫理的・道徳的な正当性はあるのだろうか。




        ◆




聞きかじった知識にもとづく個人的な感触としては、人類文明は18世紀の末ごろからギアを一段上げたかのような急発展を遂げている。
私たちの知識・技術・経済は今後も指数関数的に規模を拡大しつづけ、日常生活に大きな変革をもたらし続けるだろう。ほんの5年前、私たちの多くはiPhoneを持っていなかった。タブレットPCがあらゆる家庭のリビングに置かれている世界を想像できなかった。人類史上初めてのテレビを見たのは、私たちの親の世代だ。人類史上初めての電話で喋ったのは、祖父母の世代だ。
わずか3世代でも、私たちの生活はがらりと変わる。
「男は外に出て仕事をし、女は家で家事をする」という発想も、じつは産業革命以降のものだ。工作機械の発達によって「単純労働」が生まれ、「被雇用者」「労働者」という生活スタイルが確立した。それまでは、生産活動と家事労働の明確な区別は無かった。昔の農村生活をイメージしてもらうと解りやすいが、少なくとも一般人の家庭では、家族全員が生産活動に従事していた。日本で工業化・近代化が進んだのは19世紀末〜20世紀の初頭、いまから100年ほど前だ。わずか5世代前のできごとだ。
そして戦後の安定した経済成長のなかで、終身雇用・年功序列といった習慣が醸成されていった。「専業主婦」という生き方も、こうした経済的・文化的な変遷の中で生まれた一時的な生活スタイルだ。たとえばヒトは暗くなると眠気を覚えるし、空腹を感じると神経が鋭敏になって落ち着きを失う。「夜に眠る」「一日に2〜3回の食事を取る」という生活スタイルは、ヒトの生理的な特性にもとづいている。しかし「専業主婦」という生き方が、このような生得的な特性から生まれたものだとは考えづらい。
生得的なものでない以上、環境が変われば「専業主婦」という生き方も変わらざるをえない。ここでいう環境とは、経済や文化などのことだ。20世紀半ばから女性の地位向上運動が燃え広がり、1970年代には女子サッカーが復活し、日本では勤労婦人福祉法が施行された。1985年には男女雇用機会均等法が制定された。
ここにバブル崩壊後の不況が結びつけば、結婚するカップルが共働きを志向するのは当然の流れだ。
共働きが当たり前になった近年では、カップルは同程度の収入同士で結婚する傾向があるという。高収入の男は同じぐらい高収入の女と結婚し、低所得の人は同じぐらい貧乏な相手を人生の伴侶とするようになった。その結果、世帯間の所得格差はますます拡大しようとしている。逆に言えば、「専業主婦」という生き方が個人間での所得格差を平準化し、「一億総中流の時代」を成立させる一因となっていた。



「夫婦格差社会」―データから見る二極化する日本の夫婦像
http://atcafe-media.com/2013/02/12/powercouple_weakcouple/




        ◆




同一労働同一賃金の発想からすれば、未婚者と既婚者の間に所得格差を設けるのは著しく不公平だ。しかし、生産活動から女性が排斥され、なおかつ10人中9人以上が結婚している時代だったからこそ、「専業主婦」を優遇する制度は維持可能だった。ところが結婚が当たり前ではなくなり、女性の生産活動への参加が可能になった現在、「専業主婦」という生き方を維持するのは難しい。場合によっては、未婚者や共働き世帯からの搾取によって成立している生活スタイルだと言えるかもしれない。
なお、「同一労働同一賃金」はヨーロッパから広まった考え方だが、17世紀のイギリスではどういうわけか未婚率が高くなっていた。これが人口抑制につながり、イギリスをマルサスの罠から遠ざけ、技術・資本の蓄積が進み、のちの産業革命をもたらしたと言われている。一方、日本では20世紀半ばまで――地域によっては現在でも――家父長制が残っており、文化的土壌はヨーロッパとは大きく異なる。



ここまで書いておいてアレだが、私には「専業主婦」を批判する意図はない。
「専業主婦」の中高年女性は、時代に応じた最適な生活スタイルを選んだだけであり、その適応力の高さには称賛を送りたい。ただし「娘世代・孫世代が自分と同じような生き方はできない」という点だけは、どうか心に留めておいてほしい。
あるいは、私と同世代にも「専業主婦」を選んだ人々がいる。もしもこの記事を読んだ方のなかにそういう人がいれば、今後の人生設計をする一助となれば幸いだ。
たしかに現在の「専業主婦」の生活は、未婚者・共働き世帯との所得不均衡に支えられているかもしれない。しかし、そのことを理由に「専業主婦からカネを奪うべきだ」とは主張できない。私たちが主張すべきなのは「専業主婦の暮らしを悪くしろ」という要求ではなく、「私たちの待遇を専業主婦並みにしろ」という要求だ。
これはあらゆる社会問題に言えることだが、私たちは「トクしている人を引きずり下ろそう」という方向に考えがちだ。しかし、それでは誰も得をしない。
できればカネを奪う方法よりも、使わせる方法を考えたい。
誰かからカネを取り上げれば、その人が不幸になるだけだ。もしも気持ちよくカネを使わせることができれば、その人はモノやサービスを得られて嬉しいし、カネを受け取った側は儲けを出せて嬉しい。商売はしあわせを増産する仕組みだ。


「人口のバランスがとれた未来社会において、たくさんの子供を産むことは国家にとって慶賀すべきことではなく害悪になる。暴力がなく、子孫の生命が保障されている社会では、家族制度の必要性もなく、したがって、育児の必要から生じる両性の区別も消滅しているのだろう」
──H.G.ウェルズ『タイムマシン』(1895年/明治28年)

時間は、つねに未来に向かって流れている。私たちは未来に向かう時間旅行者だ。徒歩の旅だが、この旅は片道切符だ。もう過去には戻れない。ならば、
いい未来を見に行こう。







※参考


この国はいったいどうなってしまうのか未婚率と離婚率が急上昇 2030年みーんな一人暮らし日本から家族が消えてなくなる
http://gendai.ismedia.jp/articles/-/34297



タイム・マシン 他九篇 (岩波文庫)

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