先日、ニコニコ動画で『ドリームクラブ』というゲームの実況動画を見た。
このゲームの存在自体は以前から知っていたが、あらためて驚かされた。
何に?
ムッチリしたキャラクターデザインに、である。
手足はわりと短めで、胴体は太めに描かれている。少女マンガによくあるようなスレンダーな体型ではない。もちろん流行廃りはあるだろうが、男性向けのコンテンツには、しばしばムッチリした体型の美少女キャラクターが登場する。『ダンまち』のヘスティアにせよ、『艦これ』の愛宕にせよ、世間では美しいとされているファッションモデルの体型からはほど遠い。スマホ用アプリ『スクールガールストライカーズ』のキャラクターたちも、わりとムッチリ体型だ。
一昔前のフェミニストに言わせれば、ファッション誌を飾る細身のモデルたちは、男性から女性への「美意識」の押しつけではなかったのか? にもかかわらず、なぜ男性向けのコンテンツに、ムッチリとした太めの美少女が登場するのだろう?
心理学者ポール・ロージンらは、望ましい体型について男女に大きな意識の違いがあることを明らかにした。「極めて肥満している」から「極めて痩せている」までの9段階の女性の写真を準備して、被験者に見せたのだ。
まず女性の被験者に対しては、彼女たちが理想とする体型と、男性が理想とするであろう体型を選んでもらった。すると、どちらの場合でも、平均よりも痩せ形の体型が選ばれた。一方、男性被験者に対して理想の体型の女性を選ばせると、多くの男性は痩せても太ってもいない平均的な体型を選んだ。つまり女性たちは、男性は痩せた女性を好むものだと実際以上に思い込んでしまっていることになる[1]。
女性が理想とする女性の体型は、男性が理想とする女性の体型よりも細い。
もちろん、これはあくまでも平均の話だ。なかにはガリガリに痩せた女性を好む男性もいるだろうし、もっと太りたいと考えている女性もいるだろう。しかし全体の平均的な傾向を取ると、男たちは、女たちが考えているよりも太めの体型が好きだという結果が現れるのだ。
雑な言い方をすれば、「男はオードリー・ヘップバーンの体型に興奮するだろう」と女たちは考えるが、実際に男たちが興奮するのはマリリン・モンローの体型である。個人の好みの差はあれ、平均的にはそういう傾向になる。ドリームクラブの登場人物たちや、ヘスティア、愛宕の体型を見ると、この実験結果を見事に反映しているように思える。
女性の体型に関しては、もう一つ面白い話がある。
心理学者デヴェランド・シンは、『プレイボーイ』誌のグラビアに登場したモデルとアメリカ各地の美人コンテストの優勝者を、過去30年にわたって分析した。その結果、彼女たちは時代があとになるほどスリムになっていく傾向が見られたが、ウエストとヒップの比率は0.70で一定だった。
どのような女性を魅力的と見なすかには、文化的な影響が大きい。肌が白いほうがいいとされる地域もあれば、黒いほうが魅力的な地域もある。くせ毛が美しいとされる時代があれば、直毛が美しいと見なされる時代もある。流行にも大きく影響される。その一方で、普遍的な美の基準もある。滑らかな肌やつややかな唇など、健康さを示すものだ。
ウエストとヒップの比率0.70も、そういった美の基準の1つだ。時代や地域を問わず、男たちは「くびれた女を好む」らしい。なぜなら、ウエストのくびれは現在妊娠中ではないことを示す指標であり、今すぐ妊娠可能であることを示しているからだ。さらに糖尿病等の疾患が少ない指標でもある。くびれたウエストを好む男は、そうでない男よりもうまく子孫を残すことができた。結果として、女性の細いウエストに魅力を感じる男ばかりが生き残ったというわけだ。
なお、男がウエストのくびれを好むのは、西洋文化の影響だという指摘もある。南米ペルーの農耕民Matsigenkaは、世界でもっとも西洋文化から隔絶された人々だ。そして、彼らはウエストがくびれていない女性を魅力的に感じるというのだ[2]。
しかし、この反論は眉唾だ。というのも、ペルーの農耕民が何を代表しているのか、さっぱり分からないからだ。彼らを人類のスタンダードだと見なす理由はなんだろう。私たち人類の根源的な性質を彼らが持っていると、なぜ言えるのか。むしろ彼らのほうが珍しい例外なのではないか。ペルーの農耕民を例に「くびれ説」を否定するのは、いわゆる「例外の過大評価」に陥っているとしか思えない。
話を戻そう。
『プレイボーイ』誌のモデルたちは、時代を追うごとに細くなった。(※余談だが、年齢層も高くなっていたそうだ、意外なことに。)ところが、ヒップとウエストの比率は変わらなかった。男にとっては、ただ痩せているかどうかではなくて、健康的なくびれがあるかどうかのほうが重要らしい。平均的な男性は、ガリガリに痩せた女性を好まない。にもかかわらず、なぜ女たちは痩せたがるのだろう?
それは、ダイエットの真の目的が男を誘惑することではないからだ。
現代では、貧困層ほど肥満が多く、体型の維持には時間とカネが──社会的地位が──必要だ。女たちは、自分が高い社会的地位にいることを他の女たちに誇示するために痩せるのだ[3]。
今の一言で、女性読者がごっそり減ったような気がする。
けれど、もう少しだけ話にお付き合いいただきたい。
もちろんダイエットをしている本人たちは、「痩せればモテる」と考えているだろう。けれど、思い出してほしい。彼女たちの「理想の体型」は、実際の男たちの理想の体型よりも細いのだ。どんなに痩せても、実際にモテるとは限らない。重要なのは、他の女から「あの子はモテそう」と思われることだ。
現代では、高所得の人ほど痩せている。ただ痩せているだけでも、社会的地位の高さを示すシグナルになる。また同時に、「痩せている女ほどモテるはずだ」という価値観を共有することで、「痩せている = 社会的地位の高い配偶者を獲得している and/or 獲得しやすそう」というシグナルにもなる。
当然ながら、健康的な範囲に体重を抑えることは重要だ。健康維持のためのダイエットに対しては、何の疑問も浮かばない。しかし、なかには健康を崩すほど痩せようとする人がいる。それは、痩身であることが女同士における社会的地位のシグナルだからだ。男社会における高級な腕時計や自動車のようなものである。実用性ではなく、他人に見せつけることが重要なのだ。
スマホで何でもできる時代に、時間しか計れない装置に何百万円も支払う。あるいは、公道しか走らないくせに、時速300km/hを出せるクルマに乗る。冷静に考えれば非合理的だし、不可解だ。これらの商品が持ち主に効用をもたらすのは、その実用性によってではない。他人への誇示によって、である。健康を害するほどのダイエットに走ってしまうのも同じ理由だ。そう考えないと辻褄が合わないのだ。
面白いのは、人間たちは社会的地位を誇示しようとするくせに、実際の年収金額や資産残高を開示しようとする人は滅多にいないことだ。これは、すごく面白い。先日ブログに書いた「情報の非対称性」を、人間は本能的に利用しようとしているらしい。
たとえばライオンのたてがみやヒトのあごひげは、顔や体を実際よりも大きく、強そうに見せるためのシグナルだ。実際にどれほどそのオスが強いのかは分からない。実際の強さと、相手に見せつける強さの間で情報の非対称性が生じる。当然ながら、情報をより多く持っている側が──たてがみやあごひげの持ち主が──有利になる。
人間の記号的消費行動はこれに似ている。人間に限らず、植物から細菌までありとあらゆる生物がコミュニケーションを行う。けれど、生き物たちは必ずしも正しい情報を発信しようとはしない。ライオンのたてがみ同様、ときには偽装してでも自分にとって有利な情報を発信しようとする。人間の場合、経済活動にもしばしば同じ法則が当てはまる。
話をダイエットに戻そう。
しばしば「大半の男はガリガリの女を好まない」ことを理由に、いきすぎたダイエットはおやめなさいと言う人がいる。だが、これは極めて男性目線なマッチョな意見だ。健康を害すること以外に、いきすぎたダイエットを批判する論拠はない。女たちがダイエットするのも、服を着飾るのも、化粧をするのも、男の目を楽しませることだけが目的ではない。この記事に書いた通りである。
なんか話が明後日の方向に広がってしまった。
俺はただ、ドリームクラブのムッチリしたキャラデザは最高ですねって話がしたかっただけなのに。。。
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◆参考文献等◆
[1]デヴィッド・M・バス『男と女のだましあい』草思社(2000年)p99
[2]"Beauty and the Bart Simpson effect"
[3]スティーブン・ピンカー『心の仕組み』ちくま学芸文庫(2013年)下p350