なぜオウム真理教には高学歴の信者が集まったのか。賢いはずの彼らがどうしてコロリと騙されたのか――。これらの言説は高学歴という部分に注目しすぎだ。とくに「高学歴特有のエリート思想」を絡めた分析は的を外している。どうして低学歴なら騙されないと断言できるのか。「エリート思想」という言葉でオウム真理教を語る人たちは結局、自分だけは絶対に騙されないという根拠のない自信からそういう分析をしている。
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ヒトは終末論が大好きだ。オウム真理教に限らず、誰もがカルトにハマる可能性を持っている。根拠のない自信がいちばん危険だ。
それこそ大昔から、ヒトは「世界の終わり」を語ってきた。ラグナロクにせよハルマゲドンにせよ、神話には必ずと言っていいほど世界の終末が描かれている。数千年前、組織的な社会が成立した時代には、すでに終末論は存在していたと考えていいだろう。日本に仏教が深く根付いたのは終末論のおかげ……ってのはさすがに言い過ぎだろうか。
最近の話をすれば、明治時代のハレー彗星の接近で帝都の人々がパニックになり、ウェルズの『宇宙戦争』をラジオドラマにして放送したらパニックが起きたという。「世界の終わり」の物語にヒトは感化されやすい。
1970年代には「石油の枯渇による現代文明の終焉」が語られたし、氷河期の周期によって地表が凍り漬けになると語られた。当時の終末論で唯一現実味があったのは核戦争だ。が、「40年後、世界規模で核軍縮が進みますよ」と言っても誰も信じなかっただろう。(※1)
あるいは人口爆発によって食糧難が来るといわれ、中国では一人っ子政策が、インドでは政府による不妊手術が行われた。酸性雨によって地球上から植物が消えると言われた時期があるし、地球温暖化による人類滅亡を信じている人は少なくない。
たしかに地球は温暖化しているのかもしれないが、石油だけが原因とは思えない。人類の自然環境に与える影響は、たとえば太陽の活動周期や地球の公転軌道のゆがみ等に匹敵するのだろうか。技術水準がいまのままだと仮定すれば、温暖化により砂漠化や大飢饉が発生するかもしれない。しかし「技術水準が不変」という仮定がそもそも成り立たないし、人類滅亡は言いすぎだ。人類文明は環境に適応して生きのびるはずだ、いままでもそうしてきたように。
現代でも同じだ。いわゆる「放射脳」な人は汚染によって日本人が滅びると言うし、「安全厨」の人は石油やガスに依存すれば日本経済は崩壊するという。どちらも誇張しすぎで、終末論と大差ない。日本を不景気のどん底に突き落としたのはオイルショックではなく無軌道な投機だった。(※2)
たぶん「世界の終わり」が好きなのはヒトの習性みたいなもので、末法思想の時代から日本人は変わっていないのだ。
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大事なのは、「終末論が好き」だと自覚することだ。
簡単に騙される可能性があるということを、いいように使われる可能性があるということを認めることだ。「カルトにハマる危険性は誰にでもある」その覚悟があるのとないのとでは大違いだ。
ヒトは終末論が大好きだ。たぶんこれは生まれ持った性質のようなもので、組織化された社会の誕生した数千年前から変わらない。オウムに限らず、「世界の終わり」はそこらじゅうで語られている。騙されないためには「自分を知る」しかなく、学歴は関係ない。
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(※1.核兵器については、数は減ったものの高性能化や拡散が進んでいるなど問題山積で、引き続き「世界を終わらせかねない脅威」として監視が必要だと思う)
(※2.米仏のように民主主義を血肉としている国家ならいざ知らず、戦後、棚ぼた的にそれを手に入れた日本は「絶対に事故を起こしてはいけないモノ」を運用できるほど政治制度が成熟しておらず、産官の癒着と腐敗が起こりやすい。五歳児にライターを持たせる親はいない)
(※また「カルト」と「宗教」は違うという点には注意すべきだろう)
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