デマこい!

「デマこいてんじゃねえ!」というブログの移転先です。管理人Rootportのらくがき帳。

中国での商標登録を急いだほうがいいという話

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全国数万人のパトリオットたちは、このニュースに怒り心頭のことだろう。



中国が「森伊蔵」の異議認めず 商標局、伊佐美なども - 47NEWS
http://www.47news.jp/CN/201204/CN2012041801001032.html



日中関係についての議論は「政治」にご熱心なみなさまに任せるとして、ここでは実利的な話をしたい。日本のブランドが勝手に中国で商標登録されてしまうという問題は、今後も多発するだろう。唯一の対策は、無断登録される前に自分たちが登録することだけだ。



       ◆



このニュースからは断片的な情報しか分からないが、「中国での販売実績がない」ために「商標登録に悪意が認められない」とされている。森伊蔵酒造からすればとんでもない裁決だろうけど、一応、中国側の言い分は筋が通っている。
そもそも「中華」とは、「世界の中心」という意味だ。つまり中国政府は自分たちのことを、そういう存在だと考えているわけだ。したがって日本などという「世界のすみっこ」で商標登録があろうとなかろうと彼らには関係ない。
たとえば私が小学五年生のころ、クラスでは大貧民が流行っていた。大貧民といえばローカル・ルールがたくさんあることで知られている。そして私たちは「八流し」のことを「エイトカット」と呼んでいた。なんでも英語にするのがカッコいいと信じていたのだ。中二病ならぬ小五病。
ある日、いつものように児童館で大貧民をしていたら、隣の小学校の生徒からケンカを売られた。私たちが大声で遊んでいるのを耳に挟んだのだろう。「エイトカットと言うのをやめろ」と難癖をつけられた。「エイトカット」という言い方を使い始めたのは自分たちだから、使いたいなら許可を取れ、と。
そんなん知らねーよ、と返事をして大喧嘩になった。



商標登録に対する中国政府の姿勢は、これと同じだ。「商品の名前」がたまたま外国のものと重なってしまっただけで、いまさら登録を取り消す道理はない――というわけだ。現実には「森伊蔵」は日本国内で絶大なブランドを確立している。中国での商標登録も、このブランド力をパクるために違いない。しかし中国国内での販売実績がない以上、中国政府は「知らんがな」という態度をつらぬくことができる。(※ほんとうに販売実績がなかったのか? という疑問は残るけど)そしてこの商標登録に成功した中国企業は、合法的に「森伊蔵」という商品を作れるというわけだ。



しんちゃん著作権侵害で賠償命令 中国企業に約380万円
http://www.tokyo-np.co.jp/s/article/2012041701002283.html
※一度、商標を取得されてしまうと、取り消すのに多大なコストがかかる。



こうした事態を避けるには、中国企業よりも先に商標を登録するしかない。
日本のインターネッツを見ていると、中国は「一切の理屈が通じないめちゃくちゃな国」という印象を持ってしまう。しかし実際に中国で商売をしている人の話を聞くと、案外そうでもないらしい。たしかに文化的な違いは無視できないし、法律の理解よりも実力者と親しくなるほうが大切――といった独特の慣習もある。けれど、それら「中国ルール」さえ理解してしまえば、中国は意外なほど「話の通じる」国なのだという。
商標登録もその一つだ。
中国国内で商標を取得しておけば、それを反故にされることはまず無い、らしい。中国企業が後からパクリブランドを登録しようとしても、きちんと撥ねのけてくれるという。すでに登録された商標を取り消して、後から申請してきた者に商標を認める――。そんなの誰がどう見ても筋が通らない。だからきちんと撥ねのけてくれるのだ。たかが酒の銘柄で国際問題を引き起こしたくないのは中国政府も同じだ。また中国国内でニセブランドを発見した場合にも、商標登録さえしてあれば取り締まってくれる、らしい。※ただし政府関係者との親しさ次第だ、という都市伝説がまことしやかに囁かれているのだが。
いずれにせよ商標登録がなければ手も足も出ない。それが現実だ。
森伊蔵」のような例は今後も頻発するだろう。中国での中流層拡大は、つまり日本製品を購入できる層の拡大を意味している。20年前に商標登録の問題が目立たなかったのは、日本の商標をパクっても需要がなく、「うまみ」が無かったからだ。しかし現在では違う。中国政府が「世界の中心」という立場を崩さない以上、スキあらば日本のブランドをパクろうとする現地企業があとを絶たないはずだ。
日本のパクリブランドであっても、中国での商標登録があれば合法的に作れる。そして市場にニセモノが出回るようになる。日本政府は輸入禁止の措置を取って、国内の産業を守ろうとするだろう。しかし密輸が頻発するようになり……。そんな未来を想像してしまう。将来の中国進出を予定していようがいまいが、日本企業は中国での商標登録をしておいて損はない。



       ◆



日本製品は、中国で人気だ。
中国人がみんな反日感情に染まっているなんて、マスメディアの作った幻想だ。実際には多くの中国人が、よろこんで日本製品を使っている。時計やカメラなどの工業製品だけではない。洗剤やシャンプーといった日用品、そして震災以前ならば食品も、日本製のものが好まれていた。
なぜなら信頼できるからだ。
たとえばシャンプーを使っていたら頭皮がかぶれて、ハゲてしまったとしよう。不良品だ。もしもそのシャンプーが中国製だった場合、消費者は泣き寝入りするしかない。日用品の多くはいまだに国営企業が生産しているため、文句を言おうにも国を相手にした裁判になってしまう。どんな国でも「政府」がバックについた企業はろくでもない。
その点、日本企業は違う。不良品を一つでも出したら大炎上して、つるし上げをくらう。日本企業は不良品を撲滅するため、日夜、涙ぐましい努力を続けている。



歴史上、日本はたくさんのモノを中国から学んできた。密林に覆われた辺境の島国は、やがて中国並みになり、中国を追い越していった。そして今、中国は「日本並み」になろうとしている
今度はこちらが教えてやる番だと、私は思う。



大地の子〈1〉 (文春文庫)

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世界市場 新開拓‐チャイナ・リスクに警鐘を鳴らす‐

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