デマこい!

「デマこいてんじゃねえ!」というブログの移転先です。管理人Rootportのらくがき帳。

本を選ぶときは、広く・浅くをモットーに!

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僕の小規模な失敗

僕の小規模な失敗

※失敗が小規模ですめばいいよね。





強くなりたい新大学生が本当に読むべき本100冊
http://anond.hatelabo.jp/20100127001517


こちらの記事で紹介されていた100冊がずいぶんと片寄っている印象を受けた。この100冊を読んでバランスのいい教養を身につけられるとは思えない。良識ある大人なら「ああ、こういうジャンルのああいう人たちが読むべき100冊なんだな」と、すぐにピンとくる。良識のない私もピンときた。
でも純真無垢な高校生だって、この記事を読んでるかも知れないんだよ?
誰もがネタをネタとして笑えるわけではない。こんなラインナップを信じたら、非リアへの道まっしぐらだ。少なくとも合コンではモテないし、サークルの飲み会でコールの一つでも覚えたほうがまだマシだ。(あ、でも、ここで紹介されている著者はみなさん本当にすごい人たちなので、各著書を一冊ずつぐらいは読んでみるといいかも)



そもそも、教養ってなんだろう。



人生を豊かで楽しくしてくれる知識のことだと、私は思う。飲み会のコールしか知らない人は、そういう相手としか知り合うことができない。サブカルにどっぷり浸かった人は、メインカルチャーな人とは話が合わない。だけど言葉を交わす前から仲良くなれないことが決まっているなんて、すごくもったいないじゃんか。
というわけで、私は「広く・浅く」の教養をオススメしたい。
たとえば「躊躇」って漢字で書けなくても、とりあえず読める。教養ってそういう「とりあえず」の知識でいいと思う。あんまり気張らず、テストで点は取れないけど話は合わせられる程度の知識で。肩の力を抜いて楽しみましょうよ。


まずは何よりもサイエンス、そして数学。
理系学部の人はイヤでもクリアしなくちゃいけないハードルだけど、ぜひとも文系の人にも挑戦してもらいたい。最先端までいく必要はないけど、微積分と線形代数の基本は"教養として"どんな感じのものか知っておいてソンはない。「ヒトって生物は頭がいいんだなぁ」と感動まちがいなしだ。高校数学みたいに「問題を解く」というレベルまでいかなくてもおっけーなのである。
ことに数学に関しては、学部によっては中学生レベルの知識で止まってしまう。これって、すごくもったいない。せっかくヒトとして優れた脳みそを持って生まれてきたのに。私たちの頭蓋骨に入っているシワだらけの豆腐は、地球でいちばん知性的な脳みそだ。せっかくそんなすごいモノを持っているんだから、使わないと損じゃない?
ゆっくりでもいいから、数学苦手な人も少しずつ勉強するといいんじゃないかな。そのうち面白さが見えてくるはずだ。大人になったらテストなんて無いし、時間はいくらでもあるんだから。
そしてサイエンスの分野はとりあえず生物学から入るのはいかがだろう。身近だし、なにより数学があんまり要らない! 最先端のバイオサイエンスを研究している先生たちだって、線形代数を解けない文系脳なヒトは多いぞ!(超失礼
文系ど真ん中な学問といえば哲学だけど、俺の個人的な見解としてはサイエンスをやらずに哲学から学びはじめるのは危険だ。人生を損しそうだから。
観測からモノを考える習慣をつけるのがサイエンスで、観測とはそもそも何かを考えるのが哲学だ。観測ベースの思考法を身につけたほうが、人生、器用に渡っていける。
逆に、観測ベースでものを考える習慣をつけないままいきなり哲学をやってしまうと、「観測の価値」をうまく理解できなくなってしまうのだ。すると現時世界をうまく観測できなくなり、生きるのが不器用になる。もちろん偉大な思想家たちはそんなことなかったんだけど、一般ぴーぽーである私たちには危険すぎると思うのです。素人にはオススメできない。


サイエンスを学んだら、次は社会学・経済学に手を出そう。これらは「ヒトの生態」を研究する動物行動学の一分野だ(と紹介したら叱られちゃうかな……)。人間ってなんだろう、という問いに対して、その行動を詳細に分析することで答えを見つけようとしている。そして社会学・経済学は私たちの日常生活にも深く関わってくる。
またサイエンスを土台にして学びたいもう一つの分野は、テクノロジーだ。科学的な知識がどのような技術を生み、人間の生活を変えてきたのか。そして変えつつあるのか。社会学や経済学と同時に学ぶことで、新しい驚きと興奮に出会えるだろう。


サイエンスとテクノロジーの関係は、基礎と応用の関係だ。そして社会学や経済学は、ヒトの日常生活の基礎を分析する学問だ。では、応用はなんだろう。日常生活を「営む」のに必要な知識は?
それが会計学経営学だ。とくに会計・簿記の知識は、持っていないと「誰かに雇われる生き方」しかできなくなる。圧倒的に将来が狭くなってしまう。学生のうちに、それもできるだけ早いうちに学んでおきたい(というか、学んでおけばよかったと反省しています)。


あと、これらのいかにも「学問です!」という雰囲気のモノを勉強しながら、芸術に触れてほしい。たとえばクラシックは、多くの学生にとって退屈でつまらないものだと思う。でも何百年も進歩しつづけながら愛されてきたジャンルだ。愛されるには愛されるなりの理由があるはずだ。その「理由」に、ぜひとも触れてみてほしい。
※余談だけど私はハイドンのオラトリオ『天地創造』が大好き、特に第13曲「もろもろの天は神の栄光をあらわし」とか脳汁が出まくる。ワーグナーは全体的に好き。モツレクではラクリモーサでもディーエスイレでもキリエでもなく、サンクトゥスが好き。要するに派手でリッチな感じの曲を愛してる。余談終わり。
そして芸術は、ヒトの文化をひもとく鍵になる。絵画でも建造物でも食器や道具でも、歴史的な遺物は芸術的な価値を持っているものばかりだ。芸術に触れ、過去の人の精神性に触れるということこそが、本当の意味で「歴史を学ぶ」ということなのだと思う。何年に誰が何したとか、ぶっちゃけどうでもいい。そんな情報だけを知っていてもなんの意味もない(とか、また叱られそうなことを……)。大事なのは、その歴史的な出来事の中で当時の人々が何を感じ、何を考えたかだ。そうした精神的な営みが、どういう行動へと結実したか。それを学べば、きっと現在の私たちが直面している問題にどういう思考・感情で取り組めばいいかのヒントになる。そこに歴史を学ぶ意義がある。


と、いうわけで。
専門をとくに問わない「教養」としての学問なら、こんな感じで学ぶのはいかがでしょうか。数学と科学を起点に、社会学・経済学と技術を学び、それらを土台に会計などの実学へと発展させる。それと同時並行で芸術に触れ、歴史とヒトの精神的な営みを学ぶ。そんなプランを私はオススメしたい。
文学は、えーっと、好きなのを読めばいい。文学はよく解らなくても、文芸は楽しめる。哲学は定年退職後の楽しみにとっておくほうがベター、だと思う。
以上が私の独断と偏見に満ちた「身につけたい教養リスト」だ。



教養は、私たち人類がいままで見つけた「すてきなもの」を網羅している。
現在だけに目を向けていると、醜いものばかりが見えてしまう。新聞やブログは、今の社会がいかに腐っているかを解説している。テレビを見ればパーになる。ブンガクは世のはかなさを歌い、映画は定型的で表面的な物語を増産している。現在ばかりに目を向ければ、この世界はあまりにも醜悪だ。
けれど教養は、そうではないと教えてくれる。
過去の人々が見つけた世界のすばらしさ、宇宙の不思議、そして人間の輝かしさ。そういうものを積み重ねて、教養的な知識がある。ヒトの知性はとてつもない思考力で、世の中の真実を見つけ出してきた。
教養を身につけるということは、この世界の美しさを知ることなのだ。




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