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「デマこいてんじゃねえ!」というブログの移転先です。管理人Rootportのらくがき帳。

10分でわかる「遺伝子」と「DNA」の違い

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 新聞やテレビでは「遺伝子」と「DNA」は同じ意味で使われている。しかし高校レベルの生物を学べば、この二つがまったく別次元のものだと解るだろう。とはいえ自分にとっての常識が、しばしば世間の非常識だったりする。中学生以下の人は「遺伝子」と「DNA」の違いを学校で教わらないし、高校で生物の代わりに地学を履修した人も多いはず。
 と、言うわけでざっくりと解説してみる。

※なお、今回の記事は古い記憶をたどりながら書きます。間違いにお気付きの場合はぜひご指摘ください。




 ずばり、「遺伝子とDNA」は、「音楽とカセットテープ」のような関係だ。DNAとは物質の名前であり、記録媒体の名前だ。そこに記録されたデータのことを遺伝子という。遺伝子とは、DNAデオキシリボ核酸という物質に刻まれた生物の設計情報なのだ。
 これだけでは何のこっちゃ分からないので、もう少し詳しく説明していこう。


1.生物の原材料
 テレビや新聞では「遺伝子は生物の設計図だ」と言われている。これって、具体的にはどういうことだろう。設計図と呼ぶからには、何らかの素材の組み立て方が書かれているはずだ。では、「何らかの素材」って何だ?
 私たちの体の設計図について考えるためには、そもそも私たちの体がどのような材料から作られているのかを知る必要がある。私たちの筋肉や皮膚、髪や眼はいったい何からできているのだろう。
 大雑把な説明になるが、私たちの体は大部分がタンパク質でできている。おっと、人体の7割は水じゃないかって? 総体積で言えばたしかに水がいちばん多い。が、高層ビルの素材を訊かれて「空気」と答える人はいないだろう。空気は鉄筋コンクリートで組み立てられた部屋の一つひとつを満たしているけれど、材料には含めない。私たちの肉体は――細胞の一つひとつは主にタンパク質で組み立てられていて、そのすき間を水が満たしているのだ。
※なに? 骨はカルシウムで出来ているじゃないかって? それは……えっと、その、例外として今は目をつぶってほしい。
 ともかく、生物の素材はタンパク質なのだ。

 ところでコーンスターチをご存知だろうか。
 トウモロコシから採れる粉で、高純度のでんぷんだ。スプーン一杯のコーンスターチ数万年ほど放置すると、でんぷんがバラバラに分解されて糖分へと化学変化する。気が遠くなるほどゆっくりとした化学変化だ。
 ところが唾液を一滴たらすと、スプーン一杯のコーンスターチわずか数秒で糖分へと分解される。唾液にはアミラーゼという名前のタンパク質が含まれていて、でんぷんの分解を恐ろしく加速する能力を持っているのだ。あなたも小学生のころに、ジャガイモをヨウ素液で染める実験をしなかっただろうか。唾液に触れたジャガイモがヨウ素液に染まらなくなるのは、でんぷんが糖に分解されてしまうからだ。
 世の中にはアミラーゼのような「化学反応を加速するタンパク質」がある。
 そういう特別なタンパク質のことを「酵素」と呼ぶ。
 あなたのワイシャツが真っ白に洗濯できるのは、皮脂を分解する特別なタンパク質が――酵素が洗剤に含まれているからだ。
 私たちの体には膨大な種類の酵素が含まれている。というか、「生きている」ということは「酵素が(体のなかで)働いている」ということだ。「生きている」とは、つまり私たちの細胞一つひとつが化学反応を続けているということだ。この化学反応は絶妙なバランスのうえで連鎖反応を続けている。まるで化学反応のピタゴラ装置だ。わずかなバランスが崩れると、一気に化学反応が停まってしまう。それが「死ぬ」ということだ。
 私たちの体には「魂」や「霊」や「謎の生命エネルギー」といったものは存在しない。
 生物とは有機物で作られた機械であり、自然が偶然に生みだしたからくり人形だ。少なくとも現在の科学では、そういうことになっている。なぜなら、霊魂のような超自然的・神秘的なエネルギーを仮定しなくても、物理的・化学的な反応だけで生命現象を説明できるからだ。ある事柄を説明するために、必要以上に多くのものを仮定すべきでない。いわゆる「オッカムのかみそり」と呼ばれる考え方が、科学の世界では適用されている。
 生物に、魂や霊などの神秘的なエネルギーは働いていない。これを「生物機械説」という。
 私たちが「生きている」のは、体のなかで化学反応がうまく続いているからだ。そして体内の化学反応は、酵素という特別なタンパク質によって制御されている。つまりタンパク質は、私たちの体の建築素材というだけでなく、私たちの「命」にもっとも深く関わっている物質なのだ。
 タンパク質の重要性についてお解りいただけただろうか。

 遺伝子とDNAの話に戻る前に、もう一歩だけタンパク質について踏みこんでおきたい。私たちがタンパク質から作られているのは分かった。ではタンパク質とは、そもそもどんな物質なのだろう。
 タンパク質は、アミノ酸という分子が鎖状につながった物質だ。タンパク質の素材になるアミノ酸は全部で21種類あり、それらの並び順によってタンパク質の性質が決まる。アミラーゼにはアミラーゼならではのアミノ酸配列があるし、ケラチン(髪の毛に含まれているタンパク質)にはケラチンならではのアミノ酸配列がある。アミノ酸が数珠つなぎになった物質:それがタンパク質だ。
 そして遺伝子は、アミノ酸の配列を決めている。
 どんなアミノ酸を、どのような順番で並べるのか――という情報が「遺伝子」だ。


2.遺伝子が決めているもの
 DNAは正式にはデオキシリボ核酸(Deoxyribo-nucleic Acid)という物質で、細胞の中心「細胞核」という部分に主に存在している。二重らせん構造をしていることで有名だ。らせん部分は五炭糖という糖分の一種からできている。そして、らせんの内側には塩基と呼ばれる部分が並んでおり、この塩基の並び順によって情報を記録している。カセットテープの磁気テープが0と1の並び順によって音楽を記録していたように、DNAは四種類(A、T、G、C)の塩基の並び順によって遺伝情報を記録している。
 四種類の塩基A、T、G、Cは、それぞれアデニン、チミン、グアニン、シトシンという物質の略称だ。二重らせん構造の内側では塩基同士がペアとなって向き合っている。が、アデニンはチミンと、グアニンはシトシンとしか向き合うことができない。「ペアを作れる相手」が決まっているのだ。
※ペアが決まっている理由については説明しないが、気になる人は「水素結合」で検索してほしい。
 ふだんは二重らせん構造を保っているDNAだが、時々、らせんがほどける。そして並んだ塩基がらせんの外側にむき出しになる。すると、とあるタンパク質が目ざとく近寄ってきて、RNA(DNAによく似た物質)の合成を始める。このタンパク質のことをRNAポリメラーゼと呼ぶ。
 RNAポリメラーゼはただ闇雲にRNAを合成するのではなく、DNAのほどけた部分の塩基配列にしたがってRNAを作っていく。たとえばDNAのシトシン(C)の部分にはグアニン(G)を、アデニン(A)の部分にはウラシル(U、チミンの代わり)を並べていく。DNAの「TAC」という配列に対しては「AUG」という配列のRNAが合成される。
 こうして合成されたRNAのことをメッセンジャーRNA(mRNA)と呼ぶ。文字通り、このRNAは遺伝子の情報を細胞核の外へと運び出すメッセンジャーの役割をしている。
 DNAは細胞核に包まれているが、じつは細胞核の表面は穴だらけのスッカスカだ。mRNAは(DNAよりも短くて小さいので)簡単に細胞核の外側へと流れ出てしまう。細胞核の外側では、リボソームと呼ばれる器官が待ち受けている。リボソームは、いわば細胞内の化学工場だ。タンパク質の合成を一手に請け負っているのが、リボソームという細胞内小器官だ。
 リボソームに捕らえられたmRNAには、別のRNAたちが近寄ってくる。トランスファーRNA(tRNA)と呼ばれる可愛らしいやつらで、mRNAよりもずっと短く、小さな毛玉のようにくしゃくしゃになっている。毛玉の一端には3つの塩基がむき出しになった部分があり、もう一端にはアミノ酸をくっつけている。
 tRNAは3つの塩基が合致する部分でmRNAに付着する。たとえばmRNAの「AUG」という配列には、「UAC」という塩基を露出したtRNAがくっつく。大事なポイントは、一つのtRNAが持っているアミノ酸は一種類だけ、という点だ。たとえば「UAC」という3塩基を露出させたtRNAは、必ずメチオニンというアミノ酸を持っている。「AAA」という3塩基を露出させたtRNAは、必ずフェニルアラニンというアミノ酸を持っている。つまり、mRNAの塩基配列にしたがって、アミノ酸が並ぶことになる。mRNA上の「AUG」という配列にはメチオニンを持ったtRNAが、「UUU」という配列にはフェニルアラニンを持ったtRNAが付着する。メチオニンフェニルアラニン……それぞれのアミノ酸は特別な酵素でつなぎ合わされ、アミノ酸の鎖になる。こうしてタンパク質が合成される。
 込み入った話になってしまったが、簡単にまとめよう。
 mRNAの配列はアミノ酸の並び順を決めており、精製されるタンパク質の種類を決めている。mRNAの配列には、3塩基ごとに対応するtRNAとアミノ酸がある。(※詳しくは「コドン」で検索してほしい)そして、そもそもmRNAの配列は、DNAから転写されたものだ。つまりDNAの配列は、アミノ酸の並び順を――タンパク質の種類を決めているのだ。
 タンパク質が私たちにとっていかに重要な物質であるかは、前半で書いたとおりだ。
 私たちの筋肉が動くのは、筋細胞のなかでアクチンとミオシンという二種類のタンパク質が“滑り合う”からだ。私たちの血が赤いのは、ヘモグロビンというタンパク質の塊が酸素を運んでくれるからだ。私たちが思考できるのは、カリウムイオンチャネルというタンパク質の巨大な複合組織が神経細胞の表面にあるからだ。私たちの体は、必要なタンパク質が必要なタイミングで作られることで完成する。そして一つひとつのタンパク質の作り方(=アミノ酸の並び順)は、DNAに記載されている。そういう「作り方」のことを遺伝子と呼ぶ。
 遺伝子は情報であり、DNAはそれを記録する記憶媒体なのだ。


3.遺伝子とDNAの違い
 非常に駆け足だったが、遺伝子とDNAの違いについて説明した。文字だけでは伝わりづらい部分も多かっただろう。時間があれば図を作って解説したい。
 遺伝子とDNAの違いは、情報と記録媒体の違いだ。音楽のことを「カセットテープ」とは呼ばないように、遺伝子のことをDNAとは呼ばない。二つは別次元のものなのだ。混用しないよう、ご注意を。
 ちなみにDNAのうち、大部分には遺伝子が記録されていない。ヒトの場合、1つの細胞には慎重と同じくらいの長さのDNAが収納されている。が、遺伝子はそのごく一部にしか記録されていない。カセットテープでいえば録音された部分はわずかで、ノイズや無音の部分がずっと続くようなものだ。
 ところが不思議なことに、遺伝子が特定の位置に集合する場合がある。たとえば酵素のなかには、複数のタンパク質が組み合わさってはじめて機能を発揮するものがある。そして部品Aの遺伝子と部品Bの遺伝子が、しばしばDNA上で隣り合っていたりするのだ。生物の進化のミステリーとして、多くの研究者がこの不思議に魅せられてきた。
 さらに最近では、DNAのうち遺伝子が記録されていない部分――ノイズだと考えられていた部分にも、どうやら意味があるらしいと明らかになってきた。遺伝子からタンパク質を作るタイミングや生産量を、ノイズ部分が制御しているようなのだ。さらにRNAのなかにはタンパク質に転写されず、それ自体が化学反応に関わるやつらもいるらしいと分かってきた。今いちばん熱い分野の一つとして研究が進んでいる。


 生物とは自然が偶然に生みだしたからくり機械だ。
 化学反応がドミノ倒しのように続くこと、それが「生きている」ということだ。
 風が吹くことに意味や目的はない。雨が降ること、星が光ること、水が低い場所に流れること……、物理現象に意味や目的はない。善悪や正義、道徳、あらゆる主観的なものは物理現象には無関係だ。生物が単なる物理現象でしかない以上、生きていることには意味も目的もない。
 だからこそ、それを決めるのは私たちだ。
 私たちの生きる意味は、私たちが決める。
 あなたが生きる目的は、あなたが決める。
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