処女のほうが童貞よりも少ない。
現在日本の20代では女性の21%が処女だという。一方、童貞はその倍の42%に達するらしい。人類が一夫一妻制の動物であることを考えれば意外な事実だ。なぜ、このような男女差が生まれるのだろう。
処女が童貞よりも少ないのは、女性が淫乱なのではなく、男性のほうが「モテる/モテない」の差が激しいからだ。日本の20代でいえば、58%の男が、79%の女と関係を持ったと考えるべきだ。一部のモテる男性が複数人の女性と関係を結ぶため、結果として童貞よりも処女のほうが少なくなる。
「体育会系の男子はモテる」という説がある。
しかし、この説は疑わしい。すべての女子が体育会系の男子を好きなわけではない。足が速いだけでモテるのは小学生までだ。体育会系だろうが文科系だろうが、モテるやつはモテるし、モテないやつはモテない。
問題は、そういう「モテる/モテない」の差がなぜ生じるのか、だ。
動物がどのような相手をパートナーに選ぶのかを、生物学では「性選好」と呼ぶ。
たとえばクジャクのオスは美しい羽根を持つ。これはクジャクのメスが、より派手な羽根を持つオスをパートナーに選ぶ習性があるからだ。美しい羽根を持つオスしか子孫を残せないため、世代を重ねるごとに生まれる子供の羽根も派手になっていく。そして現在のクジャクのオスの羽根が進化した。
多くの動物で、オス側により強い性選好がかかる。
これは子孫を残すのに負担するコストが、オスよりもメスのほうが大きいからだ。哺乳類であれば妊娠・出産の期間があるし、鳥類なら抱卵・育雛(いくすう)の期間がある。そもそも卵細胞を作るのは、精細胞を作るよりもリソースを消費する。支払うコストが大きいぶん、メスのほうが配偶者の選択に慎重になる。結果としてオスのほうが性選好の影響を強く受ける。
いささか不適切なたとえをすれば、オスにとって交尾は「マクドナルドにするか吉野家にするか」という選択であるのに対して、メスにとって交尾は「高級フレンチにするか叙々苑にするか」という選択だ。支払うコストが大きくなるほど慎重な行動を取るし、そうでない個体は競争に勝てず淘汰されてしまう。
逆にオスのほうが負担するコストが大きい場合、メス側により強い性選好が働く。ほとんどの動物ではオスのほうが「モテる/モテない」の差が激しいのに、それが逆転してしまうのだ。
たとえばミフウズラという鳥は、メスのほうが美しい羽根を持ち、オスに対して求愛行動を取ることが知られている。ミフウズラの場合、メスは卵を「産みっぱなし」で、オスが抱卵・育雛をする。つまりオスの負担するコストが大きいのだ。その結果、メスのほうが「モテる/モテない」の差が激しくなり、より美しいメスだけが子孫を残せるという状況になった。クジャクとは逆だ。
このほかにもモルモンコオロギが性選好の逆転した例として有名だ。この昆虫のオスは交尾の際に巨大な「精包」を生産してメスに与えるが、そこに含まれる栄養分はメスの繁殖にとって重要であるらしい。そのため食料が欠乏する環境では、メスはオスをめぐって競争するようになるという。結果としてメスのほうが、オスよりも「モテる/モテない」の差が大きくなる。
より大きなコストを負担する側がパートナー選びの決定権を握る。
コスト負担の軽い側が「選ばれる性」になり、「モテる/モテない」の差が激しくなる。
これは多くの動物に共通する法則と考えていいだろう。
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より大きなコストを負担する側がパートナー選びの決定権を握る。
もしもこの法則が人間社会にも当てはまるとしたら、マッチョな集団ほど女子の「モテる/モテない」の差が激しくなるはずだ。
たとえば男は女を養って当然、デートの時は男がおごるのが当然──。そういう「マッチョな考え方」に染まっている集団では、男子の負担するコストが大きくなる。結果として男子の側がパートナー選びの決定権を握るようになり、より魅力的な女子でなければパートナーにありつけなくなる。反面、男子はそういう集団では「モテる/モテない」の差が小さくなるので、生まれつきの美醜や性格、能力などに関係なくパートナーを得られるだろう。
一方、「男女の負担はできるだけ平等にすべき」と考える自由主義的な集団ほど、男子の「モテる/モテない」の差が大きくなるはずだ。
そもそもパートナー選択においては、女性の負担するコストのほうが重くなりやすい。女性がメイクやプロポーションの維持にコストをかけるのは、男にモテるためだけでなく、社会的な要請でもある。ヒトは大人になると近所のコンビニに行くだけでも化粧を求められるのだ。まして出産、育児となれば、多大なコストを女性側が負担する。「一家を養う」などのルールを作らないかぎり、男性の支払うコストが女性のそれを上回るのは不可能……とは言わないものの、きわめて難しい。
結果として、自由主義的な集団ほど女子がパートナー選びの決定権を握りがちになり、男子の「モテる/モテない」の差が激しくなるはずだ。
これは偏見だが、体育会系の集団では「マッチョな考え方」が強くなりがちだ。個人的な経験から言えば、運動部の出身者にはミソジニーに染まった人が多い。また地方出身者のうち、とくに厳格で家父長的な風土の地域で育った人にもミソジニーが多い。男は大黒柱として一家を支えるべき──。そういう「マッチョな考え方」は、都市部よりも田舎のほうが強いのだろう。
もしもあなたが男で、なおかつ「モテる」ことに価値を認めるのなら、迷わず体育会系の集団に所属するべきだ。
学生なら運動部に入ればいいし、社会人なら、できるだけ家父長的な風土の田舎で仕事を探せばいい。都市部でも、会社によっては極端に「マッチョな考え方」に染まったところがある。そういう集団では男子の「モテる/モテない」の差が小さくなるので、生まれつきの美醜や性格、能力、個性によらず、パートナーを獲得しやすくなるはずだ。
ところで「マッチョな考え方」の集団は、女子に不利な集団だ。
少なくともパートナー選びにおける決定権を握れなくなり、女子の「モテる/モテない」の差が激しくなる。「人間は誰でもモテたい」と考えれば、かしこい女性ほどそういう集団を倦厭するはずだ。
体育会系の女が全員バカだと言いたいのではない。ただ、もしもあなたが男だったとしたら、かしこい女と出会う確率は下がるだろうと推測できる。マッチョな環境に身を置いてきた男は、しばしば「女はバカだ」と口にする。おそらく彼は、かしこい女の少ない環境で生活しており、バカな女しか知らないのだ。これは女性にも当てはまる。「男って絶対に浮気するよね」と言う人は、浮気する男ばかりが集まる集団に属しているのだ。
そういうマッチョな男に比べて「ぼくのほうが女性に優しいのだからもっとモテてもいいはず」と考える男性がいるようだ。自分はDQNのようにヤリ捨てをしない、だから女性が自分を選ぶのは合理的なはず……と考える男性オタクがいるらしい。
しかし、この考えは深刻な矛盾に直面する。
女性に優しくすればするほど、言い換えればパートナー選択において女子に有利な環境を目指すほど、男子の「モテる/モテない」の差は激しくなる。モテない男は、ますますモテなくなってしまう。この差を小さくするには、女子に不利なマッチョな環境を目指すしかない。
パートナー選びの市場では、男と女はお互いに自分の利益を最大化しようとする競争関係にある。今後、女性の社会的な力が拡大するほど、モテる男とモテない男の差は広がっていくだろう。
とはいえ冒頭の資料によれば、非童貞が男性の6割に対して非処女は女性の8割、非童貞1人につき非処女1.3人の割合だ。人類が一夫一妻の動物であり「嫉妬」の感情を持つ以上、この比率が極端に崩れることはないだろう。ライオンやゾウアザラシのようにオス1頭につきメス数十頭のハーレムを作ることは、現代日本では極めてまれな例であり、まずありえない。
なにより、モテる男とモテない男の差が多少激しくなったところで、私はそれを悪いことだとは思わない。
パートナー選びだけが人生ではないし、社会の目的でもないからだ。
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※生物学の知識をそのまま人間社会に当てはめるのは危険です。優生学の例を見ればそれは明らかです。今回の記事はあくまでも与太話として笑い飛ばしてください。
※QT「そうでないということが証明されない限り、複合的なすべての活動は社会的に決定されているのであって、遺伝的ではないと仮定しなければならない」――フランツ・ボアズ
※なお、恋愛を市場としてとらえたり男女の行動を生態学的に分析したり今回の記事みたいなことばかり考えていると性別を問わず最高にモテません。