ネットには「やらせ」が溢れている。
App Storeのアプリ、Amazonの書籍、食べログの飲食店……。あらゆるサービスが、やらせのレビューから逃れられない。一般消費者のふりをしてコンテンツを褒めちぎる。あるいはbotにブクマさせて、はてなブックマークの新着記事に表示させる。そういうのを「やらせ」という。
世の中には「やらせレビューを書くサービス」を提供する企業があり、組織的にウソを書き込んでいる。新しいアプリや書籍をリリースするときにせよ、飲食店を開店するときにせよ、そういうサービスを利用するのが常識になりつつあるようだ。
たとえばアプリの便利さは、少なくとも数日、普通は一週間ぐらい使ってみないと分からない。リリース翌日から☆5のレビューが連投されるほうが、本当はおかしいのだ。
■「食べログ」だけではない ネットでやらせがはびこる理由
■Amazonレビューをお金を払って書いてもらったら、かなり問題になっていた件について
では、そもそも「やらせ」は悪いことなのだろうか。
こうした「やらせ」は、万が一発覚した場合には激しい批判にさらされる。消費者の立場からは、許しがたい不正義として扱われる。これはなぜだろう。
レビューの本来の目的を考えれば、理由は明白だ。
消費者がレビューに求めるのは、自分と同じ目線からの評価だ。コンテンツにカネを支払うべきか、あるいはコンテンツの視聴に時間を割くべきか、同じ消費者の意見にもとづいて判断しようとしている。
カネの力で供給者側に都合のいいレビューが書かれているのだとしたら、それは消費者の判断基準を歪めていることになる。いわば、消費者を積極的に騙して、カネを払わせよう、時間を浪費させようとしている。誰かを騙して利益を得ることを、一般的には詐欺と呼ぶ。
消費者の視点からは「やらせ」にはメリットがない。信頼できるはずのものが信じられなくなるというデメリットしかない。だから「やらせ」は厳しく批判される。
一方で供給者側の視点に立つと、「きれいごとを言っていられない」という実情がある。
日本の人口は減り続けているのに、アプリのユーザーは増やさなければいけない。Googleの検索上位や、はてなブックマークの「ホッテントリ」は、人気サイトで埋め尽くされている。にもかかわらず、新規サービスのPVを稼がなければいけない。目標を達成するためには手段を選んでいられない。これが供給者側の本音だろう。
ネット上で人を集めるには、何よりも「ランキングに入ること」がすべてだ。
生命保険からポルノ動画に至るまで、ネットユーザーはランキングの上位から順番にクリックする。いまの私たちはランキングに支配されて生きている。したがってコンテンツに人を集めるには、何がなんでもランキングに食い込まなければならない。
その手段として「やらせ」はとても魅力的なのだろう。☆5のレビューを大量につけておけば、「評価が高い順」のランキングに潜り込める。
だから供給者側は積極的に「やらせ」を利用するのだ。
しかし問題はここからだ:やらせは、本当に効果があるのだろうか?
たしかに、やらせを駆使すれば、見栄えのいいレビュー欄を作ることができる。はてなブックマークの「ホッテントリ」を偽造できる。ランキングに無理やりねじ込んで、一定のアクセスを叩き出せる。アクセス数やダウンロード数を、ある程度の水準に引き上げることができる。これは間違いない。
本当の問題は、その先に進めるかどうかだ。
世の中には、信じられないほどたくさんの人を引きつけるコンテンツがある。では、そういった爆発的なヒットに「やらせ」は必要不可欠なのだろうか?
言うまでもなく、広告宣伝費をいくらかけても人気コンテンツが作れるわけではない。コンテンツそれ自体が便利で面白くなければ、人は集まらない。ウソのレビューをつけたからと言って、すべてのアプリが『Candy Crush』になれるわけではないし、すべてのブラウザゲームが『艦隊これくしょん』になれるわけでもない。超人気ブログ『Chikirinの日記』は月間数百万PVを達成しているらしい。が、Chikirinさんがはてブやイイネ!を“買って”いるとは思えない。
(……と誤解を招くような文章を書いてしまったが、「Candy Crushや艦これにはウソのレビューが書かれている」と言いたいのではない。高品質なコンテンツはにきちんと人気が集まる実例として、この2つのゲームタイトルをあげた)
やらせとウソによる集客は、爆発的なヒットに必要不可欠なものではない。
◆
ネット上で人を集めるには、どうすればいいだろう。「やらせ」ではそこそこのアクセス数しか稼げないとしたら、爆発的なヒットを叩き出すためには何をすればいいのだろう。ぼくのかんがえたさいきょうの三原則を書こう。
1.ランキングに入れ
すでに書いたとおり、ネットの世界ではランキングがすべてだ。
たしかにランキングに頼らなくても、たとえばパワーブロガーの記事によって人が殺到することはある。書評ブログ『私の知らないスゴ本は、きっとあなたが読んでいる』は、まさにそういうブログの代表だ。ランキングに載らないようなニッチな本を掘り起こしては、しばしばAmazonの在庫切れを誘発している。
しかし、どんなパワーブロガーだろうと、ランキングの力には及ばない。
考えてみてほしい。『スゴ本』ブログで紹介されるのと、Amazonセールスランキングで1位を取るのの、どちらがより売上を伸ばすだろう。具体的な数字は知らないけれど、ランキングのほうが効果的だと容易に想像できる。
だから、なにか人を集めたいコンテンツがあるのなら、まずはランキングに載らなければならない。すべてはそこから始まる。ランキング圏内に入ることができたら、次はランキングページのファーストビューに載るまでランクアップするべきだ。それが出来たら、より上位を目指し、最終的に1位を取るべきだ。そこまでたどり着ければ、もはや放っておいても人が集まるはずだ。
2.信者を作れ
「信者」というと聞こえが悪いが、要するに「ファンを獲得しろ」という意味だ。
人間には、「自分の好きなコンテンツは他の人にも好きになってもらいたい」という習性がある。だから、あなたのコンテンツの熱烈なファンは、自主的に他の人を集めてきてくれる。Twitterでつぶやいたり、Facebookでイイネ!したり、熱心な紹介記事を書いたり……。あの手この手で人を呼び込んでくれる。
ファンが増えるほど、ランキング圏内に入るのは容易になる。はてなブックマークでいえば、ブログを更新するたびに必ず「新着記事」に表示されるようになる。
ネット上のランキングには、正のフィードバックが働いている。ランキングの上位になるほど人が集まって、ますます上位に食い込みやすくなる。だからこそ、何はなくとも「ランキング圏内に入る」ことが大切だし、ファンはその第一歩を支えてくれる。
たとえばはてなブックマークなら、3ブックマークあれば「新着記事」に表示される。だから熱烈なファンが3人いればアルファブログは(将来的に)作れる。必要なファンの人数は、コンテンツの種類によってまちまちだ。世界的な宗教を作りたいのなら、まず12人〜13人の熱烈なファンを見つければいいだろう。(※イエス・キリストにならうなら)
3.正直者であれ
ネットは、うそが通用しにくいメディアだ。
たとえばアプリをやらせのレビューで褒めちぎっても、ダウンロード数が少なければユーザーは「面白くなさそう」と判断する。では、なぜダウンロード数が伸びないのか。レビュー欄以外からの流入が少ないからだ。要するにSNSの口コミが盛り上がっていないからだ。では、なぜ口コミが盛り上がらないのか。身もふたもないが、アプリの質がイマイチだからだ。
これはアプリに限らない。WEBサービスから個人のブログに至るまで、ネット上のあらゆるコンテンツに共通する原則だろう。どんなにやらせを駆使しようとも、面白くないコンテンツには人が集まらない。
ネットは、10人の嘘つきを100万人の正直者が圧倒する世界だ。
やらせをしようとしまいと、ユーザーは正直な反応しか返さない。面白いコンテンツ、便利なコンテンツには自然と人が集まるし、そうでないコンテンツからは人が離れていく。
では、ネット上のコンテンツに人を集めるためにはどうすればいいだろうか:
じつは1つだけ必勝法がある。
それは、質の高いコンテンツを供給することだ。
やらせやステマでユーザーを騙すのではなく、コンテンツの質を向上させていくことだ。要するに正直者であることが、ネット上で人を集めるときの唯一にして最高の方法だ。褒めちぎるレビューを捏造しても、実際のクオリティが足りなければユーザーを落胆させるだけ。場合によっては「騙された!」と反感を買うかもしれない。ネット上の「やらせ」はリスクばかりでメリットがない。王道に勝る近道なし、だ。
コンテンツに人が集まらないのは、広告宣伝の方法がマズいからかもしれない。それを必要としている人の目に触れる場所に、そのコンテンツを置いていないだけかもしれない。けれど、どんなに宣伝に力を入れても、うそをつくような真似だけはしないほうがいい。正直にコンテンツを作って、正直に宣伝して、それでも人が集まらないのなら……それは、単にコンテンツの質が低いのだ。
◆
・ランキングに入れ
・信者を作れ
・正直者であれ
以上の3点が、ネット上のコンテンツに人を集めるための三原則だと思う。繰り返しになるが、ネットは10人の嘘つきを100万人の正直者が圧倒する世界だ。よいコンテンツを供給する以外に、人を集める方法はない。
最後に道義的な問題を考えておこう。AmazonやApp Storeに「やらせ」のレビューを書くのは悪いことだろうか? 世間的には、誰かを騙すのは悪徳だとされている。金額と規模によっては詐欺として罪に問われる。あらゆる「やらせ」が許せない!――と息巻く人の気持ちも分かる。
しかし、App Storeのレビューにやらせが増えるほど、その信憑性は落ちていく。すると相対的に、私のような個人ブログの信頼度は高くなる。1件のレビューを書くのはかんたんだが、300日分のブログ記事を捏造するのは難しいからだ。公式のレビュー欄がやらせだらけになれば、それだけ個人ブログの信憑性が高まり、読者は増えるはずだ。私もおこぼれを頂戴できる。
だから正直者の私は、やらせのレビューがどんどん増えればいいと思っている。
やらせもステマも、好きなだけ書けばいいんじゃない?
私はぜったい書かないけれど。
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※そして記事を書き終わったあとに自分のブログのタイトルを思い出して呆然としている。