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デマこい!

「デマこいてんじゃねえ!」というブログの移転先です。管理人Rootportのらくがき帳。

お前ら電子書籍リーダーを使ってみろ、色々と捗るぞ。/青空文庫のオススメ10選

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 先日、Kindle paperwhiteを購入した。
 あまりの便利さに涙が出るほど感動した。
 私はもともと「紙派」で、電子書籍に対して食わず嫌いを起こしていた。しかし分厚いハードカバーの本を気軽に持ち歩ける便利さは、一度経験するとやみつきだ。

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 私の場合、社会人になってからのほうが勉強に対するモチベは高くなった。休日に、呪文書みたいに分厚い本を自宅でゆっくりと読む習慣もついた。けれど、ほんとうは文庫本サイズに縮小して、好きな場所でちょっとしたスキマ時間に読みたかった。
 Kindleなら、それができる。
 どんなに重たい本でも手軽に持ち歩ける。
 また、旅行にいく機会の多い人にもオススメだ。いままでの私は、海外に行くときは文庫本を10冊くらいトランクに放り込んでいた。たとえばヨーロッパ便なら片道で4〜5冊は読める。私は読むのが遅いほうなので、もっとたくさん読める人もいるだろう。しかし、問題は重量だ。いくら文庫本といっても、それなりの重さになってしまう。
 しかしKindleなら、もはや重さを気にしなくていい。
 実際に触ってみるまでは、「紙の本よりも眼が疲れそう」という不安があった。ところがKindle paperwhiteの液晶は、紙と見まちがうほど読みやすい。じつは、これがiPadや他のタブレットPCではなく、Kindle paperwhiteを選んだ理由だ。あと安いし。
 ページにふせんを貼ったり、マーカーを引いたり……紙で出来ることは、大抵の電子書籍リーダーでもできる。さらに辞書をリンクさせて、分からない単語をすぐに検索することもできる。他国語の文献を読むときは、むしろ紙よりも便利だ。なぜもっと早く買わなかったのだろうと今では思う。食わず嫌いは機会損失のもと。
 知人の作家は、紙の書籍を片っ端から処分しているという。空間の無駄づかいだと開き直っているらしい。私の場合は本棚に並ぶ背表紙を眺めてニヤニヤする趣味があるので、さすがにそこまで出来ない。けれど、いずれ紙で買う書籍よりもダウンロードする書籍のほうが増えていくのだろう。
 色々と褒めちぎってきたが、利点ばかりではない。電子書籍にも弱点はある。
 たとえば、情報の検索性は下がった。
 もちろんKindleにも検索機能はあって、調べたいテキストを入力すれば、一発でそのテキストが書かれたページにジャンプしてくれる。しかし、だ。検索機能を使いこなすには「正しい文言」を覚えている必要がある。
 そして正しい文言を暗記しているなら、そもそも検索する必要はないのだ。
「なんとなく○○って感じのことが書いてあったような……」という曖昧な記憶を正したいから、本の中身を検索するのだ。正確な記述を確認するために本を開くのだ。そういう「曖昧な記憶にもとづく検索」に、電子書籍はあまり適していない。
 一方、紙の本は直方体なので、情報の書かれている位置をXYZの座標で表現できる。私はあまり頭が良くなくて、とくに暗記力が低い。だから本の情報を探すときは、空間把握能力に頼るしかない。表紙から何mmぐらい先のページの左上にこんな感じのことが書いてあったような……という形でしか覚えられない。
 だから私の場合、電子書籍よりも紙の本のほうが情報の検索性は高い。
 だいたいこのあたり……とページに指をつっこめば、前後数ページの誤差で望みの情報にたどり着ける。電子書籍にも、この「指をつっこむ感覚」があればいいのにな……と思う。


Kindle Paperwhite Wi-Fi、ブラック

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 なお、電子書籍リーダーはKindle以外にもたくさんの種類が販売されている。そのうち手に入れてレビュー記事を書くかもしれない。また、電子書籍の販売サービスもAmazonだけではない。たとえばBOOK☆WALKERは、マンガやラノベ、ハーレクイン等では圧倒的に強いらしい。こちらもチェックしておきたい。


BOOK☆WALKER




     ◆




 繰り返しになるが、ハードカバーを何冊も持ち歩ける便利さは一度経験したほうがいいと思う。電子書籍に食わず嫌いを起こしている人は、とくに。
 知識を身につけるのにいちばん効率のいい方法は、教科書を読むことだ。しかし大抵の教科書はアホみたいに重たいし、文庫本にもなっていない。それらをいつでも・どこでも読める。これって、ちょっとすごい。
 インターネットの利点は膨大な情報にいつでもどこでもアクセスできることだった。反面、情報の信頼性には難があり、結果として「バカと暇人のもの」になってしまった。
 しかし電子書籍の存在は、インターネットの意義を変えるだろう。バカと暇人の手から、もう一度、人類を賢くする方向にかじを切り直すだろう。
 電子書籍があれば、いつでもどこでも信頼のおける情報にアクセスできる。街角の汚れたマクドナルドでハンバーガーをかじりながら、大学図書館並みの知識をあつかえる。ハイレベルな知識にもとづいて議論できる。前世紀の中高生やブルーカラーの労働者には不可能だったことだ。
 知識は、上流階級に独占されるべきものではない。社会のあらゆる階層に広まってはじめて、人類を進歩させる力になる。
 かつて「消毒」や「予防接種」という概念は知識階級に独占されるか、あるいは邪法として迫害されていた。ほとんどの人は加持祈祷に頼っていた。ところが今では、世紀末的な世界でヒャッハーしているアフリカの強盗たちでさえ、消毒を知っている。
 それが教育というものだ。
 知識の威力だ。




     ◆



青空文庫、私はまずこれをダウンロードした!■


Kindleを買って、私はまず青空文庫を片っ端からダウンロードした。
知らない人(なんているのか?)のために説明すると、青空文庫とは著作権切れになった古典文献をネットで読めるようにしているボランティア団体だ。Kindle用の電子書籍も発行しており、魅力的な古典作品がすべて無料で読める。
※ちなみにマンガ『ブラックジャックによろしく』をはじめ、Kindleでは無料で読める書籍がかなり豊富に揃っている。無料キャンペーンを行っている本も珍しくない。それこそ、しばらく課金の必要を感じないほどだ。
ここでは青空文庫のなかから、私が最初にダウンロードした10冊を紹介したい。
なお、意外と知られていないがKindleの本はKindleを持ってなくても読めるiPhoneAndroidにアプリをインストールすれば、誰でも読めるのだ。ここで紹介する作品たちもお手元のスマホで読めるので、ぜひ試してみてほしい。



1.『こころ』夏目漱石

まず真っ先にダウンロードしたのは、夏目漱石の残したBL小説の最高傑作だ。主人公「私」と先生のプラトニックな愛のかたちは何度読んでも心がハスハスする。先生がKに対して抱いている感情は間違いなく愛の一種だし、したがって主人公の「私」がKに対して抱くのは、おそらく嫉妬だ。

「こころ」の手紙を実際に書いてみる

私の彼氏が夏目漱石を読んで「まどマギのパクリ」と激怒しています





2.『モルグ街の殺人事件』エドガー・アラン・ポー

モルグ街の殺人事件

モルグ街の殺人事件

世界で最初の推理小説といわれている作品。これも何度も読み返している。面白いのは、世界最初の推理小説でありながら、すでに「寡黙で謎めいた天才探偵」と「平凡で読者の代弁者になる語り手」の構図があることだ。これはホームズとワトソンの関係性そのもので、コナン・ドイルがこの作品の影響を受けたのは間違いない。お話としてもミステリアスで非常に面白い。ちなみに犯人は猩々だ。(ネタバレ)





3.『藪の中』芥川龍之介

藪の中

藪の中

推理小説といえば、こちらも外せない。芥川龍之介の作品には、推理小説的なものが多い。謎と答えの構図があり、抜群のストーリーテリングで読者を引き込んでいく。なかでも『藪の中』は出色のデキで、読者は「自分の頭で推理する楽しさ」を存分に味わえる。殺人事件の関係者たちに聞き込み捜査をするという形式で物語は展開する。しかし、関係者たちの証言が少しずつ食い違っていくのだ。
宮部みゆき先生はこの作品を意識した(であろう)「不文律」という短編小説を書いていて、こちらもオススメ。その後の傑作『理由』の習作・布石になった作品ではないか……と私は思っている。

地下街の雨 (集英社文庫)

地下街の雨 (集英社文庫)

※短編「不文律」を収録。



理由 (朝日文庫)

理由 (朝日文庫)





4.『人間失格太宰治

人間失格

人間失格

日本の文庫本の売上げオールタイムベストは太宰治人間失格』だ……という都市伝説がある。学校の国語の課題に選ばれやすいのかな? とにかく『人間失格』はよく売れる、らしい。もしもこの都市伝説が本当だとしたら、高校生の諸君、朗報だ。電子書籍で読めば、もはや文庫本を買う必要はない。青空文庫に感謝しながらダウンロードするだけだ。
なお、手軽に文学してるっぽく見せたいという中二病の患者にも、非常に好かれる作品だ。だって、もうタイトルからして中二病全開。人間、失格、だぜ?
中二病の患者に御用達の文学作品として、このほかに夢野久作ドグラ・マグラ』も外せない。「読んだ人は必ず一度は精神に異常をきたす」というキャッチコピーが中二病の心をわしづかみにするのだ。こちらも青空文庫で無料で読める。
本の内容をまったく紹介してないけど……まあ、いいか。





5.『蟹工船小林多喜二

蟹工船

蟹工船

ほとんどの人がタイトルを知っているけれど、ほとんどの人が読んでいない本。あるいは、読んだことを他言しない本。それが『蟹工船』だ。たとえばTwitterで「蟹工船を読んで感動した」などとツイートしようものなら、「あいつは共産主義者だ! アカだ!」とレッテルを貼られて大炎上するだろう。一部のフォロワーはそっとフォローを外すだろう。レッドパージの時代はいまだに終わっていない。
肝心の内容だが、普通にエンタメ作品として面白い。登場人物たちが逆境に追い込まれ、立ち向かっていく物語は、どんな読者でもすんなり楽しめるはずだ。だからこそ危険だと判断されたのだろう。小林多喜二は、『蟹工船』をエンタメとして誰でも楽しめるように書いてしまった。それゆえに命を落とした。





6.『山月記中島敦

蟹工船とは逆に、誰もが読んだことのある作品。教科書にも載っている。が、高校生が読んでも感情移入できるわけがない。なぜなら『山月記』は挫折の物語だからだ。李徴は自分のあらゆる将来が閉ざされていると気づいたとき、錯乱して虎になる。人間の心を忘れてしまう。将来性豊かな高校生の頃よりも、大人になってからのほうが深く味わえる物語だ。
また、文章の格調高さも魅力だ。現代の大衆小説に比べて、中島敦の作品は漢字が多い。難しい熟語をがんがん使う。たとえばネットのしろうと小説家のうち、とくに京極夏彦西尾維新に影響された人たちは、無駄に難しい言葉を使って自らの文学的素養を誇示しようとする。けれど中島敦の「難しさ」は、それらしろうと小説とは一線を画している。どんなに難しい単語も、それ以外の単語では充分な表現ができないだろうな……と、納得できる使われ方なのだ。





7.『夜明け前』島崎藤村

中島敦の文章は格調高さが魅力だと書いた。では、私が「こんな文章を書きたい!」と憧れているのは誰か:恥をしのんで白状すると、島崎藤村だ。「木曾路はすべて山の中である」から始まる『夜明け前』の冒頭は、無駄も誇張もないすばらしい美文だと思う。
自分が無駄と誇張だらけのブログ記事を書いていることを思い出して、なんというか……消えてしまいたくなった。





8.『だしの取り方』北大路魯山人

日本を代表する美食家であり、マンガ『美味しんぼ』の海原雄山のモデルとなった人物:それが北大路魯山人だ。リズミカルな体言止めで綴られる「だしの取り方」は、グルメコラムでありながら読み物としての面白さ・楽しさを秘めている。じつに美味そうな文章だ。
たかが(と言っては失礼だが)かつお節の削り方に、これほどウンチクを語れるものなのか……と、なかば呆れつつも感心する。この人はほんとうに「食べる」のが好きだったんだろうな。





9.『透明人間』H.G.ウェルズ

透明人間

透明人間

SFの古典だって無料で読める。そう、青空文庫ならね!
とはいえ、SFのラインナップはまだ充分とはいえない。ウェルズの作品で公開されているのは『透明人間』だけだし、ヴェルヌの作品はまだ1つも公開されていない。このあたりがボランティアの限界なのかも。青空文庫で読めるSF小説では、ほかにスティーヴンソンの『ジギル博士とハイド氏』がオススメ。
また、ウェルズの作品で私のいちばんのお気に入りは「盲人国」だ。こちらは岩波文庫の『タイム・マシン』等に収録されている。

タイム・マシン 他九篇 (岩波文庫)

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10.『雪女』小泉八雲

小泉八雲、本名ラフカディオ・ハーンギリシャ出身の新聞記者・文学者・日本研究家だ。日本人以上に「日本的」な物語を書いたことで名高い……というウンチクを知っているだけで、恥ずかしながら一度も読んだことがなかった。読書好きな人はたいてい子供のころに八雲を読んでいるらしいが、私の場合、どういうわけかすっぽりと抜け落ちていた。いつか機会があれば読んでやろうと思っていたら……青空文庫にきちんと揃っているではないか! というわけで、さっそく目にとまった作品をダウンロードした。
読むべき本はあまりにも多く、人生はあまりにも短い。
これからも読みたい本に困ることはなさそうだ。



      ◆



このブログでリスト形式で本を紹介すると、どういうわけか面白みのないリストになってしまう。以前、絶対に読むべきSF小説を10本紹介したときも、誰でも読んだことのありそうな意外性のないリストになってしまった。今回のリストも、その傾向が強いかも。ちょっとでも読書が好きな人なら既読の作品ばかりが並んでいる。
思うに、何度も読み返したくなる本というのはそうそう見つけられるものではなく、だからこそ「絶対に読んでおくべき作品」を紹介しようとすると、誰もが知っているような名作選になってしまうのだろう。
また今回のリストで興味深いのは短編小説が多いことだ。
気合いを入れて読むほどではないけれど、スキマ時間に何か物語を楽しみたい:短編小説はそんな需要を満たしてくれる。紙の本の場合、ある程度の長さの物語でないと出版できない。しかし電子書籍ではそういった制約がない。短く凝縮されたお話を手軽に楽しめるのが電子書籍のもう1つの魅力だ。



繰り返しになるが、電子書籍のいちばんの強みは「信頼のおける情報にいつでもどこでもアクセスできること」だ。青空文庫に限らず、すでに膨大な数の古典的傑作が電子書籍化されている。今回のリストでは文学作品に偏ってしまったが、学術系の本にかんたんにアクセスできることのほうが社会的なインパクトは大きいだろう。電子書籍は、世の中をもっと面白くする。
だからお前ら、電子書籍リーダーを使ってみろ。色々と捗るぞ。