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司祭補「あなたはお金に厳しい人だと聞いております。目の前のテーブルに10万Gが出しっぱなしであれば、不用心だと思うでしょう」
— Rootport (@rootport) 2016年9月15日
黒麦屋「ええ、まあ…。そうでしょうな」
司祭補「だから安全のために自分の鞄に入れた。しかしティコ博士の見送りのごたごたで白麦屋に返すのを忘れてしまった…」
司祭補「…そんなところではありませんか?」
— Rootport (@rootport) 2016年9月15日
黒麦屋「え、えっと…それは…」
若旦那「お父さん、司祭補さまはきっとすべてお見通しでいらっしゃいます。ここは正直にお答えしたほうが…」
黒麦屋「だから黙ってろって!」
司祭補「どうです?よく思い出してくださいな♪」
黒麦屋「う…ぐぐ…」
司祭補「白麦屋さんから10万Gを借りっぱなしではありませんか…?」
— Rootport (@rootport) 2016年9月15日
白麦屋「…司祭補さまは、いったい何を?」
栗髪少女「分からん。あの小娘、どういうつもりじゃ…?」
黒麦屋「お、覚えておりません…」
司祭補「覚えていない?」
黒麦屋「はい!どうしても思い出せません!ははは…」
栗髪少女「貴様(きしゃま)ぁ!まだ嘘をつくのじゃな!?」
— Rootport (@rootport) 2016年9月15日
黒麦屋「嘘だなんてとんでもない!思い出せないものはしかたないじゃありませんか?そうでしょ、司祭補さま…へへへ…」
若旦那「お父さん…」
白麦屋「あんた、変わってしまったよ。黒麦屋さん、あんたはそんな人じゃなかったのに…」
司祭補「どうしても思い出せませんか?」
— Rootport (@rootport) 2016年9月15日
黒麦屋「なにぶん昔のことですからな!はっはっは!」
司祭補「分かりました。では、本件には不可解な点がまだ残っています。この場で審判を下すことはできません」
栗髪少女「…!?」
白麦屋「!」
若旦那「それは…」
黒麦屋「…どういうことで?」
司祭補「ティコ博士があの本を書いたのは白麦屋さんを助けるため。そして、白麦屋さんが助けを要したのは自らの店を失ったため。そのきっかけになったのは20年前に消えた10万Gです。このお金の行き先が分からなければ、ティコ博士が異端に染まった背景をすべて洗い出したことにはなりませんわ♪」
— Rootport (@rootport) 2016年9月15日
黒麦屋「ま、待ってください!ティコ・ケプラーを火刑に処すしかないと、先ほどおっしゃったではありませんか!」
— Rootport (@rootport) 2016年9月15日
司祭補「ええ。大司祭さまによれば、精霊様のお告げがあったそうです。その審判を覆すことはできません」
黒麦屋「でしたら…!」
司祭補「…刑の執行は次回の審理に持ち越しですわ」
司祭補「10万Gの行き先について、次回までに思い出してきてくださいね。黒麦屋さん?」
— Rootport (@rootport) 2016年9月15日
黒麦屋「は、はは…。かしこまりました。とはいえ思い出せる見込みは薄いでしょうがね…。ははは!」
若旦那「…」
白麦屋「…」
栗髪少女「…ふん!」
▼夜、黒麦屋の寝室──。
— Rootport (@rootport) 2016年9月15日
黒麦屋「ふう、ようやく1人になれた。まったく、裁判のためとはいえ精霊教会に呼び出されるとは。おかげで仕事がまったく片付いていない」
ゴソゴソ…
黒麦屋「10万Gのことを訊かれたときは肝を冷やしたが…。私が打ち明けなければ、真実は誰にも分かるまい」
黒麦屋「ええと、これが今日の売上票だな。売上額の合計は──」
— Rootport (@rootport) 2016年9月15日
コンコン
黒麦屋「?」
コンコン
黒麦屋「…誰かが窓を叩いておるのか?」
???「ごめんください…。ごめんください…」
黒麦屋「若い女の声だ。いったい誰だ、こんな時間に…」
バサッ
幽霊少女「ごめんください…」
黒麦屋「ひいっ!お、おお、お前は…白麦屋の一人娘…!」
— Rootport (@rootport) 2016年9月15日
幽霊少女「ごめんください…」
黒麦屋「何年も前に、お前は風疹で死んだはず!」
幽霊少女「うーらーめーしーやぁー…」
黒麦屋「は、入ってくるなぁ!」ドサッ
幽霊少女「あ゛あ゛あ゛あ゛…」ギロッ
黒麦屋「ひえぇ~」ジョロロ
幽霊少女「返して…」
— Rootport (@rootport) 2016年9月15日
黒麦屋「ま、待ってくれ!私が何をしたというんだ!お前が死んだのは病のせい。私が恨まれるいわれはないはずだ!」
幽霊少女「返して…返して…」
黒麦屋「か、かか、返せ?…いったい何を?」
幽霊少女「返してよぉ…」ギロッ
黒麦屋「まさか、カネのことか!?」
幽霊少女「嘘つき…嘘つき…」
— Rootport (@rootport) 2016年9月15日
黒麦屋「ああ、やはりあの10万Gのことだな…!」
幽霊少女「嘘つきぃ~!!」
黒麦屋「私が裁判で嘘をついたから、そ、それを恨んで、出てきたのだな!」
幽霊少女「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛」
黒麦屋「ひぃ~!分かった!私が悪かった!この通りだぁ~」ガバッ
幽霊少女「…正直に、なる…?」
— Rootport (@rootport) 2016年9月15日
黒麦屋「もちろんだ!次回の審理では、し、正直に…真実を話そう!」
幽霊少女「…本…当…?」
黒麦屋「ほ、本当だとも!だから、どうか帰ってくれ!後生だぁ~!」
幽霊少女「そう、良かった…約束よ…?」
黒麦屋「約束だ!約束しよう!」
幽霊少女 スゥー
黒麦屋「…き、消えた?」
— Rootport (@rootport) 2016年9月15日
シーン
黒麦屋「ははは…助かった…。あははは…」ヘナヘナ
▼帝都、路地裏──。
— Rootport (@rootport) 2016年9月15日
幽霊少女「…お待たせ」
侍女「いかがでしたか、黒麦屋の様子は」
幽霊少女「正直になるって約束したわ…」
ボフッ
司祭補「作戦成功ですわ~♪」
侍女「さすがは司祭補さま。しかし、あの黒麦屋がちゃんと約束を守るでしょうか?」
司祭補「うーん、どうかしらぁ?」
侍女「喉元過ぎれば熱さ忘れると言います。幽霊との約束を、審理の場でも守るとは思えません」
— Rootport (@rootport) 2016年9月15日
司祭補「約束を破る可能性は大いにあるでしょう。でも、そのほうがいいのです♪」
侍女「そのほうがいい?どういうことですか」
司祭補「審理のときのお楽しみですわぁ~♪」ニコニコ
侍女「はぁ…?」
▼精霊教会・異端審問所──。
— Rootport (@rootport) 2016年9月15日
司祭補「…さてと、黒麦屋さん♪例の10万Gについて何か思い出したかしら?」
黒麦屋「はい、お時間を頂戴しましたが…思い出すことができました」
若旦那「お父さん、やっと正直に答えてくれるのですね!」
白麦屋「…」
栗髪少女「盗みを認める気になったか…」
黒麦屋「ゆっくり考えてみたのですが…。やはりあの日、私は10万Gを預かったようです。司祭補さまがおっしゃったようにね。へへへ…」
— Rootport (@rootport) 2016年9月15日
栗髪少女「き、貴様(きしゃま)!この期に及んで──」
司祭補「あらあら、まあまあ。黒麦屋さんがきちんと覚えていてくださったようで嬉しいですわぁ~」
司祭補「10万Gを借りっぱなしになっていると認めるのですね」
— Rootport (@rootport) 2016年9月15日
黒麦屋「おっしゃるとおりでございます」
司祭補「その10万Gは、もとはといえば龍玉の指輪を質に入れて作ったお金。であれば、指輪の持ち主だったティコ博士に返さねばなりません。よろしいかしらぁ?」
黒麦屋「ぐぬ…」
若旦那「お父さん、相手は司祭補さまです」
— Rootport (@rootport) 2016年9月15日
黒麦屋「か、かしこまりました。借りたお金は返済いたします」
司祭補「ティコ博士もよろしいかしら?」
栗髪少女「もとより、そのカネはこの豚野郎のものではない。当然じゃ」
黒麦屋「ふ、ふふ…どうせ10万Gなど、今の私には大した金額ではない…」
司祭補「あら?何を勘違いなさっているのかしら」
— Rootport (@rootport) 2016年9月15日
黒麦屋「勘違い、ですか…?」
司祭補「借りたお金には利子がつきます。当然のことですわ♪」
黒麦屋「!?」
司祭補「利率は、そうですわねえ…。年利10%でいかがかしら?」
黒麦屋「そ、その利率では高すぎます!」
司祭補「あらあら…」
司祭補「…不服があるようなら、あなたが本当に10万Gを『預かった』のかどうか、もっと詳しく調査してもいいのですが──」
— Rootport (@rootport) 2016年9月15日
黒麦屋「いいえ!適正な利率かと存じます!不服などございませんっ」
司祭補「あなたは10万Gを年利10%で20年間借りていた。そうですわね?」
黒麦屋「…はい」
黒麦屋「10万Gの10%なら、1年に発生する利子は1万G…。20年で20万Gですが、元金と足しても30万Gでしょう」
— Rootport (@rootport) 2016年9月15日
若旦那「手痛い出費には違いありませんが、うちの店なら支払えない金額ではありません」
司祭補「イヤですわ。勘違いなさらないでくださいな♪」
黒麦屋「…ほへ?」
司祭補「誰が『単利』だと言いましたか?」
— Rootport (@rootport) 2016年9月15日
黒麦屋「い、いや…しかし…」シドロモドロ
司祭補「黒麦屋さん。あなたが誰かにお金を貸すときは、必ず『複利』にするそうですわね~」
黒麦屋「えっと…ええっと…」ダラダラ
司祭補「でしたら、今回も複利にしないと筋が通りませんわ♪」
司祭補「10万Gを年利10%で20年間借りっぱなしだったのです。複利計算をすると、ティコ博士に対するあなたの負債は67万2750Gになりますわ」
— Rootport (@rootport) 2016年9月15日
黒麦屋「ろ、ろくじゅ…!」パクパク
若旦那「そんな…」 pic.twitter.com/95yd2Te6sy
若旦那「お、お言葉ですが!そんな金額を支払ったら、さすがに店の経営に悪影響が出てしまいます!」
— Rootport (@rootport) 2016年9月15日
黒麦屋「司祭補さまは私どもの店を取り潰すことをお望みなのですか!?」
司祭補「わたしも悪魔ではありませんわ。いかがでしょう、年賦で返済するというのは?」
黒麦屋「年賦でございますか?」
司祭補「年に1回、一定額を支払って、少しずつ返済していくのですわ。たとえば毎年7万Gずつの返済でいかがかしら?」
— Rootport (@rootport) 2016年9月15日
黒麦屋「ご慈悲に感謝いたします。ええと…。毎年6万Gずつなら、お支払いできるのですが…」
司祭補「あら、値切るおつもりですの?では、6万5000Gならどうでしょう?」
黒麦屋「いいえ、6万1000Gでお願いします!」
— Rootport (@rootport) 2016年9月15日
司祭補「でしたら6万2000Gでは?」
黒麦屋「では6万1500Gでどうかご勘弁を!これ以上は無理でございます!」
司祭補「いいですわ、毎年6万1500Gずつの返済ですわね。約束ですわ~♪」
黒麦屋「ご配慮ありがとうございます…」
若旦那「67万2750Gの借金を、毎年6万1500Gずつ返していくとなると…。全額を返済するまでに11年かかりますね」
— Rootport (@rootport) 2016年9月15日
黒麦屋「お前みたいな若い連中には長く感じるだろうが、実際には11年なんてあっという間。大した時間では──」
司祭補「あらぁ、また勘違いなさっているようですわ」
黒麦屋「ま、またでございますか?」グスッ
— Rootport (@rootport) 2016年9月15日
司祭補「返済期間中にも利子が発生するに決まっているではありませんか!」
若旦那「返済期間中に…」
黒麦屋「利子が…」サァッ
司祭補「そうです。毎年6万1500Gを返済して、その残高に年利10%の利子が発生しますわ♪」
司祭補「たとえば今年は第1回目の返済ですが…。67万2750Gの借金のうち6万1500Gを返済して、残りは61万1250Gです。ここに10%の利子がついて、債務残高は67万2375Gになりますわ♪」
— Rootport (@rootport) 2016年9月15日
黒麦屋「ぜ、全然減らない…」 pic.twitter.com/Hgr62CGPrt
司祭補「この計算方法でいくと…。ええっとぉ…。借金を完済できるのは55年後ですわ♪」
— Rootport (@rootport) 2016年9月15日
黒麦屋「ごじゅうごねん…」パクパク
若旦那「…」アチャー
白麦屋「…」アゼン
栗髪少女「ふん、いい気味じゃ!」 pic.twitter.com/PQbHhz9mgg
司祭補「それから、ティコ・ケプラー博士」
— Rootport (@rootport) 2016年9月15日
栗髪少女「なんじゃ?」
司祭補「わたしはあなたを火あぶりの刑に処しますわ」
栗髪少女「何度も同じことを言わせるでない。心得ておるわ!」
司祭補「しかし、あなたはこの借金の返済を受け取らなければなりません」
栗髪少女「…にゃっ!?」
司祭補「ですから、火あぶりの刑の執行は、借金が完済されるまで延期ですわ♪」
— Rootport (@rootport) 2016年9月15日
栗髪少女「にゃんじゃとぉ!?」
若旦那「ブラウニーの寿命は人間とほぼ同じ…」
白麦屋「ああ…ありがたや…」メソメソ
黒麦屋「…ま、待ってください!火刑を延期するですって!?」
司祭補「何か問題かしらぁ?」
黒麦屋「だったら今すぐ全額を返済します!」
— Rootport (@rootport) 2016年9月15日
若旦那「いい加減にしてください、お父さん!」
黒麦屋「さっさとこいつを火あぶりにしてくださいよぉ!!」
司祭補「毎年6万1500Gずつ返済する。そうおっしゃったのはどなたですか?」
黒麦屋「わ、私でございます…」
司祭補「何か不服が?」
黒麦屋「いいえ。い、異存ございません…」
— Rootport (@rootport) 2016年9月15日
司祭補「あらあら、うふふ♪よかったですわぁ~」
白麦屋「ありがとうございます…本当にありがとうございます…」
栗髪少女「た、多少は感謝してやってもよいのじゃ…」
若旦那「父をどうかお許しください。司祭補さまのご審判、しかと受け止めました」
黒麦屋「うぅ…こんなはずでは…」
— Rootport (@rootport) 2016年9月15日
若旦那「真相はどうあれ、父が不義理を働いたことは事実でしょう。その負い目を返せるなら、毎年6万Gあまりの返済など安いものです」
司祭補「そのお返事を聞けて安心しましたわ」
栗髪少女「しかし55年とはのう。わらわが言うのもなんじゃが…」
栗髪少女「…少し、長すぎるのでは?」
— Rootport (@rootport) 2016年9月15日
司祭補「いえいえ、そんなことありませんわ」
栗髪少女「ふむ?」
司祭補「穀物商だけに、身を粉にして働いていただきますわ♪」
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