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朱眼船長「いいや、いくらあたしでもそこまで楽観的じゃないよ。奇跡でも起きない限り、それは無理だ。…あたしは、仲間たちが処刑されるとは限らないって言ってるのさ」
— Rootport (@rootport) 2016年9月5日
女騎士「…ふむ?」
朱眼船長「まずはあの衛兵たちを、無事に陸地まで送り届ける。やつらは王様直々に命を受けてるんだろ…」
朱眼船長「…そいつらの命を助けたとなれば、多少は見直してもらえるんじゃないかい?」
— Rootport (@rootport) 2016年9月5日
女騎士「だと、いいのだが…」
朱眼船長「それで無理なら、海賊らしいやり方を選ぶね。力ずくで牢屋を抜け出して、海の上へおさらばさ」
女騎士「な!それは困るのだ!」
朱眼船長「あたしらに関わったのが運の尽きだと思って諦めるんだね」
— Rootport (@rootport) 2016年9月5日
女騎士「だ、だが──!」
朱眼船長「がはは!からかいがいのある人だ」
銀鱗航海士「…お話中に失礼します」
朱眼船長「どうした?」
銀鱗航海士「お耳に入れておきたいことが…。女騎士さんにも」
女騎士「ふむ」
銀鱗航海士「先ほど測量をしたのですが…。どうやら私たちは、かなり南に流されています」
— Rootport (@rootport) 2016年9月5日
朱眼船長「やはり、そうか…」
女騎士「私にも分かるように説明してくれ」
銀鱗航海士「嵐の晩にひときわ大きな波をかぶったのを覚えてますか?」
女騎士「もちろんだ。危うく転覆するところだったのだ」
銀鱗航海士「じつは…あの大波をかぶったときに、船の位置を知るために必要な計算表が流されてしまったのです」
— Rootport (@rootport) 2016年9月5日
女騎士「…測量器具なら、船長が予備をボートに積んだはずでは?」
朱眼船長「あいにく、あの箱に計算表は入っていない。測量器具しか入っていなかったんだよ。うかつだった…」
銀鱗航海士「ですから、あの夜以降、推測航法で進んできました」
— Rootport (@rootport) 2016年9月5日
女騎士「推測航法とは…」
朱眼船長「船の速さと航行時間、進行方向から、船の現在位置を推測する方法さ。北西に向かって1ノットで1時間進めば、1海里北西の場所にたどり着く」
女騎士「理屈は分かった。それが何か問題なのか?」
— Rootport (@rootport) 2016年9月5日
朱眼船長「推測航法は、ズレが大きいんだよ」
銀鱗航海士「たとえば船の速さは、砂時計とこの測定器を使って計ります」スチャ
女騎士「ふむ、大きな糸巻きのような道具なのだ」
銀鱗航海士「この糸に浮きを付けて、船尾(とも)から流します…」
銀鱗航海士「砂時計の砂が落ちきるまでに糸がどれだけ流れたか…から、船の速度を調べるわけです」
— Rootport (@rootport) 2016年9月5日
朱眼船長「この糸は当然、波や風の影響を受ける。船の速度を精密に知ることはできないのさ」
女騎士「なるほど…」
銀鱗航海士「わずかな距離の航海なら、小さなズレは問題ないのですが…」
銀鱗航海士「…長距離の航海では、小さなズレが積み重なって、大きなズレになります。実際の船の位置と、計算上の船の位置とが、かけ離れてしまうんです」
— Rootport (@rootport) 2016年9月5日
朱眼船長「あたしらの難破した地点から昇天諸島まで、たっぷり800海里以上あった。一方、あの島は大洋に浮かぶケシ粒みたいなものだ…」
朱眼船長「…推測航法で昇天諸島を目指すのは、大きな広間の片隅から小指の先ほどのガラス玉を転がして、部屋のもう一方にあるガラス玉にぶつけようとするようなものだ」
— Rootport (@rootport) 2016年9月5日
女騎士「では、南に流されていたというのは…」
銀鱗航海士「恐れていた通りのことが起きた、ということです」
銀鱗航海士「たとえば月の高さを見れば一目瞭然です。私が計算したよりも、ずっと高い位置に昇っています」
— Rootport (@rootport) 2016年9月5日
女騎士「ふ、ふむ?」
朱眼船長「まさか、この大地が平らだと思ってないだろうね…」
女騎士「まさか!この大地は球形だ。不思議な力で、あらゆるものが大地に引き寄せられているのだろう」
銀鱗航海士「大地が球形だからこそ、赤道から離れるほど月の位置は地平線に近くなり、赤道に近い場所では空の高い場所を巡ります」
— Rootport (@rootport) 2016年9月5日
女騎士「つまり月の位置だけで、南に流されたことが分かる、と」
女騎士「それで、私たちは実際にはどのあたりにいるのだ?昇天諸島にはきちんと近づいているのか?」
— Rootport (@rootport) 2016年9月5日
銀鱗航海士「そ、それは…」
朱眼船長「…」フルフル
女騎士「そんな…まさか…」
朱眼船長「そのまさかだ。このボートの位置が分からなくなった。あたしらは、海のうえで迷子になったんだよ」
銀鱗航海士「こうなると、無事に昇天諸島にたどり着けるかどうかも危ぶまれます…」
— Rootport (@rootport) 2016年9月5日
朱眼船長「運良く、他の船に見つけてもらえればいいが…。覚悟を決めておいたほうがよさそうだね。いずれ、くじ引きが必要なときが来るかもしれない」
女騎士「くじ引きだと…。な、何の話をしているのだ?」
朱眼船長「誰を海に落とすかを決めるくじ引きだよ。水や食糧が足りなくなったら、ボートに乗っている者の数を減らすしかない」
— Rootport (@rootport) 2016年9月5日
女騎士「そんな残酷なことはできない!何か他に手はないのか?」
朱眼船長「…」
銀鱗航海士「…」
女騎士「そ、そんな…」
銀鱗航海士「…残念ですが」
女騎士「…!?」
— Rootport (@rootport) 2016年9月5日
??? ワォーン… ワォーン…
女騎士「なんだ、今の音は…?」
朱眼船長「音というより、何かの鳴き声のようだったが…」
??? ワォーン… ウワォーン…
銀鱗航海士「…海鳥や海獣の鳴き声ではなさそうですね」
女騎士「2人にも聞き覚えがないのか?」
朱眼航海士「海のうえであんな声を聞くのは初めてだ。どうやらあたしたちは、知らない海域に流れてきてしまったらしい」
— Rootport (@rootport) 2016年9月5日
銀鱗航海士「あの声の正体は分かりませんが…間違いないでしょう」
??? ワォーン… ワォーン…
女騎士「この広い海原で、私たちは本当に迷子になってしまったのだな…」
女騎士「…分かった。私も覚悟を決めよう。いざというときは、くじ引きを引くしかないのだな」
— Rootport (@rootport) 2016年9月5日
朱眼船長「言っておくが、あたしらのくじ引きにズルはないよ。誰でも平等に『ハズレ』を引く可能性がある」
女騎士「ズルなどなくて当然だ。だが、もしも私がくじ引きで『ハズレ』を引いたときは──」
女騎士「そのときは、これを新大陸に届けてほしい」ガサッ
— Rootport (@rootport) 2016年9月5日
銀鱗航海士「それは…?」
朱眼船長「精霊教会が新しく作ったとかいう『暦表』だな」
女騎士「これを新大陸に運ぶと、友人と約束したのだ。その約束を破るわけにはいかない…」
銀鱗航海士「暦表?ただのカレンダーではなさそうですね」
銀鱗航海士「日付と季節を書いただけにしては、ずいぶん分厚い…。まるで百科辞典のような厚さですが…?」
— Rootport (@rootport) 2016年9月5日
女騎士「暦は天体の観測によって決まるそうだ。この暦表には、その観測結果も細かく記載されているのだ。新しい暦の根拠としてな」
銀鱗航海士「少し、中を拝見してもよろしいですか?」
女騎士「ふむ、かまわんが…」
— Rootport (@rootport) 2016年9月5日
銀鱗航海士「…これは…はぁ…。なるほど…」ペラッ
朱眼船長「ふぅむ…」
女騎士「何か、役立つことが書かれているか?」
銀鱗航海士「それは…分かりません…。分かりませんが、この表をしばらくお借りしてもよろしいですか?もう少し詳しく読みたいのです」
女騎士「かまわんが…。波にだけは注意してくれ」
— Rootport (@rootport) 2016年9月5日
銀鱗航海士「もちろんです!この本が、私たちの命綱になるかもしれません!!…ふむふむ、なるほど…」パラパラ
女騎士「命綱に?どういうことだ…」
朱眼船長「さてね…。まあ、ここはあいつに任せてみようじゃないか」
▼港町銀行──。
— Rootport (@rootport) 2016年9月5日
衛兵たち「「…動くな!責任者はどこだ!」」
衛兵たち「「どこだー!」」
黒エルフ「ちょ、ちょっと!何なのよ、あんたたち。今は業務中なんだけど──」
衛兵「貴様が例のダークエルフだな!」グイッ
黒エルフ「きゃっ!痛っ…は、離して…離せーッ!」ジタバタ
客たち ワーワー!! キャーキャー!!
— Rootport (@rootport) 2016年9月5日
衛兵「お前たちも動くな!客にまぎれて、魔族のスパイが逃げ出すかもしれん!1人ひとり調べるぞ!」
黒エルフ「魔族のスパイ…って何の話よ!」
衛兵「知らん!我々は命令に従っているだけだ!」
黒エルフ「まさか、あの海賊に味方したから…?」
衛兵「貴様たちは、これより帝都に移送される!」
— Rootport (@rootport) 2016年9月5日
黒エルフ「待ちなさいよ!それじゃ銀行の業務が──」
衛兵「できるだけ傷つけず生きたまま運べとの命令だ!…銀行の業務とは、のんきだな。命があるだけありがたいと考えるのだな!」
黒エルフ「そんな…」
衛兵「それで、この銀行の当主は?」
衛兵「…何?旅に出ているだと?…よし、追っ手をかけろ!」
— Rootport (@rootport) 2016年9月5日
黒エルフ「ていうか、約束が違うわ!もしもレースで負けたら、あたしたちの会社を取り潰す…。そういう約束だったはずよ!まだ結果は出てないじゃない!」
衛兵「何だ?貴様はまだ聞いてなかったのか?」
黒エルフ「聞いてない…って…」
黒エルフ「ま、まさか…」サアッ
— Rootport (@rootport) 2016年9月5日
衛兵「レースの航路上にシーサーペントが出現した。貴様たちの羚羊号は沈没したことが確認されている!」
黒エルフ「う、うそ…」
衛兵「おい、立て!行くぞ」
黒エルフ「…うそよ…うそ…そんなの、うそ…」ガタガタ
衛兵「何をブツブツと…。さあ、立て!」
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