女騎士、経理になる。／第7話「ブラック・スワン」(7)

──────────
▼最初から読む
▼前回
▼次回
──────────

▼数日後、羚羊号、甲板──。
ﾐｰﾐｰ
　ﾐｰﾐｰ
黒エルフ「見れば見るほど綺麗な船ね」
女騎士「…船べりで何を眺めているのだ？」
黒エルフ「ほら、あれ。黒鳥号よ」
女騎士「帝都商船が入手したそうだな」
黒エルフ「ええ。あたしたちに知らせが届いたころには、すでに落札されてた」

— Rootport (@rootport) 2016年9月4日

黒エルフ「あれが見える？あそこで羅針儀箱を覗き込んでいるのは、眼鏡航海士じゃない？」
女騎士「結局、彼は帝都商船に雇われたのだな」
黒エルフ「いい船も、腕のいい航海士も、向こうの手に渡ったわけ」
女騎士「敵は強いほうが倒しがいがあるのだ」
黒エルフ「まったくもう、楽観的ね」

— Rootport (@rootport) 2016年9月4日

女騎士「それで、向こうに見えるひときわ大きなガレオン船が…」
黒エルフ「…帝都商船の旗艦ね。それこそ、戦争でもできそうなくらいの大艦隊だわ」
女騎士「うわさでは、政府の元関係者も同乗しているらしい」
黒エルフ「財務大臣の手下でしょう。いったい、何をたくらんでいるのかしら…？」

— Rootport (@rootport) 2016年9月4日

女騎士「ところで、お前にも紹介しておこう。今回の航海でこの船を任せることになる朱眼船長(キャプテン・レッドアイ)と…」
朱眼船長「どうも」
黒エルフ「…」ﾌﾟｲｯ
女騎士「…監視を担当する衛兵長さんだ」
衛兵長「ははあ、あなたがダークエルフさんですか。お話はうかがっていますよ」

— Rootport (@rootport) 2016年9月4日

衛兵長「この任務には、私に加えて剣衛兵、槍衛兵、盾衛兵の計4人が就いております。ご友人は私たちが守りますので、ご安心を」ﾆｺｯ
女騎士「はて？私は自分の身は自分で守れるが…」
黒エルフ「そうね。こいつが力任せに暴れて船を壊さないよう目を光らせてほしいわ」
衛兵長「は、はあ…？」

— Rootport (@rootport) 2016年9月4日

朱眼船長「おい、おチビさん。あたしにゃ挨拶はないのか？」
黒エルフ「…別に」ﾂｰﾝ
朱眼船長「ははあ、どうやら嫌われたらしいな」
女騎士「焼き餅を焼いていると見える」
黒エルフ「まさか！ただ、あたしは海賊が嫌いなだけ」
女騎士「私はこの者たちと航海するのだ。そういう態度では困る」

— Rootport (@rootport) 2016年9月4日

黒エルフ「まあ…出港準備の様子を見ていたけど、シロウトってわけじゃなさそうね。あんたも、あんたの手下の海賊たちも」
朱眼船長「お褒めの言葉にあずかり光栄だ」
黒エルフ「この航海には、あんたたちの命がかかってるわ。せいぜい死ぬ気で頑張ることね」
朱眼船長「おっと、そりゃできないね」

— Rootport (@rootport) 2016年9月4日

黒エルフ「は？」
朱眼船長「死ぬ気で頑張るやつは、本当に死んじまうからさ。こういうときは殺す気でやるほうがいいんだ」ﾆﾝﾏﾘ
黒エルフ「殺すって、あんたねえ…」

ｶｰﾝ…ｶｰﾝ…

一同　ハッ
女騎士「灯台の鐘が鳴った」
黒エルフ「いよいよレースが始まるわ」

— Rootport (@rootport) 2016年9月4日

朱眼船長「帆を張れ、錨を上げろぉー!!」

海賊たち「「「アーイ!!」」」

朱眼船長「あんたらもボーッとしてないで働け！キャプスタンを回すぐらい手伝ったらどうだ」
女騎士「キャプスタン？」
朱眼船長「錨を巻き上げる機械だよ」
衛兵長「なぜ監視役の私たちが…」ﾌﾞﾂﾌﾞﾂ

— Rootport (@rootport) 2016年9月4日

水夫「…ボートが出るぞ！西岸港に残る者は早く乗り込め！」

黒エルフ「いよいよ、本当にお別れね」
女騎士「何を言う。すぐに戻ると約束したはずだ。ワープのひもで一発だ」
黒エルフ「そんな簡単に戻ってこられたら困るわよ。それぞれの場所で、それぞれの使命を果たすんでしょう？」ﾆｺｯ

— Rootport (@rootport) 2016年9月4日

黒エルフ「あんたが戻ってくるまでに、港町の商売を何百倍にも大きくしてみせるわ。あんたが驚いて腰を抜かすくらいにね」
女騎士「…楽しみにしておこう」
黒エルフ「あんたこそ、この航海で『特損』を出すんじゃないわよ？」ｶﾞｼｯ
女騎士「もちろんだ。『特益』に期待してくれ」ｶﾞｼｯ

— Rootport (@rootport) 2016年9月4日

水夫「おい、早くしてくれ！もうボートを出しちまうぞ！」

黒エルフ「じゃあ、またね」
女騎士「うむ、行ってくるのだ」

帆布　ﾊﾞﾀﾊﾞﾀﾊﾞﾀ…
舵　ｷﾞｷﾞｷﾞｷﾞｨ…

朱眼船長「ようそろーッ！」
海賊たち「「「アーイ!!」」」
女騎士「はぁー…。すごい光景なのだ…」

— Rootport (@rootport) 2016年9月4日

女騎士「…海を覆いつくすほどの数の船が、一斉に帆をかけた」
ﾜｰﾜｰ!!
　ﾔｰﾔｰ!!
衛兵長「船乗りたちの声で、海の上が賑やかですね。このなかで、真鱈要塞の管理権を手に入れられる船は一隻だけ…」
朱眼船長「敵の数は問題じゃない。問題は、どれだけ自分の船を速く走らせられるか…」

— Rootport (@rootport) 2016年9月4日

朱眼船長「…海の上では自分との戦いだ。覚えときな」

衛兵長「ふんっ、海賊ふぜいが偉そうに」
剣衛兵「そうだ！偉そうに！」
槍衛兵「立場をわきまえたほうがいいぜ。へへへ…」
盾衛兵「ど、どうか大人しくしてくださいね」ｵﾛｵﾛ

女騎士（ううむ、早くも暗雲立ちこめる雰囲気なのだ…）

— Rootport (@rootport) 2016年9月4日

▼西岸港沿岸・ボート──。
水夫「…羚羊号が離れていきますね」
黒エルフ「今日初めて乗った船とは思えないほど帆を張るのが早かったし、すべての帆が無駄なく風を掴んでいる。あの海賊たちの腕は本物ね。…悔しいけど」
水夫「てっきり、ダークエルフさんも一緒に乗っていくのかと思いましたよ」

— Rootport (@rootport) 2016年9月4日

黒エルフ「あたしには旧大陸(こっち)でやることがあるの。…今はただ、航海の安全を祈るだけよ。たとえレースに負けても、無事に帰ってきてほしい」
水夫「負けたら、おたくの会社は潰されるんでしょう？」
黒エルフ「たしかに会社が潰されたら困るわ。だけど、それはそんなに怖くない…」

— Rootport (@rootport) 2016年9月4日

水夫「怖くない？会社が無くなったら、いったい何が残るっていうんですか…？」
黒エルフ「…すべてを失うのは、初めてじゃないわ。商売を知っている者は、たとえすべてを失っても自分自身という財産が残る。だから、あたしが本当に怖いのは──」

— Rootport (@rootport) 2016年9月4日

▼羚羊号、甲板──。
女騎士「むーん」
朱眼船長「何を眺めてるんだ？」
女騎士「あの黒鳥号、世界でいちばん速い船なのだろう？それにしては、ずいぶん鈍足に思えるのだ。私たちの船とさして変わらないではないか」
朱眼船長「そりゃそうさ。あれは付け焼き刃の乗組員で操れるような船じゃない」

— Rootport (@rootport) 2016年9月4日

朱眼船長「黒鳥号は『クリッパー』と呼ばれる型の船だ。華国から茶葉を運ぶために、2代前の人間国王が魔法使いを総動員して造ったそうだ。あの複雑きわまりない帆装を使いこなすには熟練が必要だ」
女騎士「甲板に大砲が並んでいるようだが…」
朱眼船長「あたしらが改造したのさ。海賊用にね」

— Rootport (@rootport) 2016年9月4日

槍衛兵「衛兵長、大変です！海賊どもが積み荷を物色してましたぜ！へへへ」
衛兵長「何ぃ！けしからん！」
剣衛兵「そうだ！けしからん！」
衛兵長「お前がきちんと見張っていないからこんなことになる！」
盾衛兵「す、すみません…」

朱眼船長「…いったい何の騒ぎだ？」

— Rootport (@rootport) 2016年9月4日

衛兵長「しらばっくれるな、海賊！さては反乱を企てているのだろう!?」
剣衛兵「…いるのだろう!?」
女騎士「反乱だと!?」
朱眼船長「バカなことを抜かさないでおくれ」
槍衛兵「だったら、なぜお前の手下どもは積み荷を物色していたんだ？言い訳くらいなら聞いてやるぜ。へへ…」

— Rootport (@rootport) 2016年9月4日

朱眼船長「物色？…積み荷の配置が気に入らないから、移動させていただけだ」
衛兵長「配置だと？」
朱眼船長「あたしは、船尾(とも)が数センチだけ深く沈むようにするのが好みでね。そのために積み荷の配置換えを命じたのさ」
女騎士「そうしたほうが、船が速くなるのか？」
朱眼船長「ああ…」

— Rootport (@rootport) 2016年9月4日

朱眼船長「…波を切り裂いて走る。真鱈岬にいちばん乗りしたら、あんたら衛兵たちにも特別な報償が出るんだろう？だったら、船のことはあたしに任せな」
女騎士「そういうことだそうだ。心配にはおよばんだろう」
衛兵長「ぐぬぬ…」
剣衛兵「ぐぬぬ…」
槍衛兵「チッ」
盾衛兵「…」ｵﾄﾞｵﾄﾞ

— Rootport (@rootport) 2016年9月4日

朱眼船長「そもそも槍衛兵さん、あんたにゃ掃除道具の片付けをお願いしたはずだよ。なのに、モップやブラシが甲板のそこらじゅうに転がったままじゃないか」
槍衛兵「ふんっ。魔族の命令なんか聞けるかよ」
朱眼船長「命令じゃなくてお願いなんだけどね」

— Rootport (@rootport) 2016年9月4日

──────────
▼最初から読む
▼前回
▼次回
──────────