魔国で囚われの身になった女騎士。
オークから経理の知識を教わった彼女は、
人間国の小さな銀行で働き始めるのだった──。
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▽プロローグ
▽第1話「フライド・コカトリス」
▽第2話「ガバメント・オブリゲーション」
▽第3話「リテラシー」
▽第4話「ウェル・シェイプト・カップ」
▽第5話「プライス・オブ・ライフ」
▽第6話「エクイティ」
▽第7話「ブラック・スワン」
▽第8話「ローン・オブ・ザ・リング」
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■■■登場人物紹介■■■
女騎士(本名:シルヴィア・ワールシュタット)
剣に強く数字に弱い。頼まれたら断れないタイプ。
ダークエルフ(本名:ルカ・ファン・ローデンスタイン)
簿記と商売に詳しい。女騎士の奴隷。
司祭補(本名:セラフィム・アガフィア)
精霊教会の聖職者。ちょっとした魔法が使える。
銀行家(本名:ロレンツォ・グリマルディ)
美術品の研究が好き。女騎士の雇い主。
幼メイド(本名:マリア)
銀行家の邸宅で奉公している。
▼港町、夕刻──。 暖炉 パチッ…パチッ… 港湾ギルド長「うぅ~寒い。こう毎日冷え込むと老体には堪えるのう…」 コンコン 港湾ギルド長「入れ」 使用人「新大陸からの手紙を集めてまいりました。本日分です」ガサッ 港湾ギルド長「おお、すまんのう。1通も漏らさず集めたか?」
— Rootport (@rootport) 2016, 1月 6
使用人「はい、本日入港した船は1隻だけでした。…なぜこのようなことを?」 港湾ギルド長「ここだけの話だが、人間国には魔族のスパイが紛れ込んでいるのだ。吸血鬼や狼男がな」 使用人「噂は聞いております」 港湾ギルド長「そういうスパイ宛の手紙がないか、検分しているのだ。…ごく内密にな」
— Rootport (@rootport) 2016, 1月 6
使用人「手紙を受け取る方々は、検分のことは…?」 港湾ギルド長「知らんだろう。港湾ギルドが手紙の配達を肩代わりしていると信じているはずだ。…もしもこのことが外に漏れるようなことがあったら──。分かっているだろうな?」 使用人「…は、はい」ゾクッ 港湾ギルド長「よろしい」
— Rootport (@rootport) 2016, 1月 6
港湾ギルド長「分かったら、もう下がりなさい」 使用人「し、失礼しました」 パタン 港湾ギルド長「さて、と」ガサガサ 港湾ギルド長「ふふふ、あったあった。政府宛の手紙だ。暗号で書かれているが、勇者のものに相違ない。…無い文才をふり絞ったのだろう、捨てられるとも知らずに」
— Rootport (@rootport) 2016, 1月 6
猫耳の男「…なるほど、そういうことだったのか」 港湾ギルド長「!?」 猫耳の男「ひどいじゃないか!がんばって書いた手紙を捨てるなんて!」 港湾ギルド長「…ひっ!魔族!? どうやってこの部屋に?」 猫耳の男「あ、ごめん」ヌギッ 勇者「この耳は偽物だ」 港湾ギルド長「勇…者…?」
— Rootport (@rootport) 2016, 1月 6
勇者「この部屋には、その扉から普通に入らせてもらったよ」 港湾ギルド長「気配を感じなかった…」 勇者「僕は勇者だからね」 港湾ギルド長「それに扉には鍵がかかっていたはず」 勇者「裏庭の壺のなかに合い鍵を見つけたよ」 港湾ギルド長「勝手に壺を調べたのか?」 勇者「僕は勇者だからね」
— Rootport (@rootport) 2016, 1月 6
勇者「さあ、ギルド長!答えてもらおう!なぜ手紙を捨てたりしたんだ!」 港湾ギルド長「ま、まあ、落ち着いて。これには深いワケがあるのだ…。そ、そうだ!このブランデーをごちそうしよう」 勇者「ブランデー?」 港湾ギルド長「寒風で冷えた体が温まるぞ」チャプ 勇者「そ、そうかな…」
— Rootport (@rootport) 2016, 1月 6
港湾ギルド長「それにしても、どうやってこちらの大陸に?」 勇者「これを使ったんだ」ボロッ 港湾ギルド長「焼け焦げたひも…?」 勇者「使用済みの『ワープのひも』だよ。帰り用にもう1本持ってきている。用事が済んだら、すぐに任務に戻るつもりだった」 港湾ギルド長「魔王討伐の任務だな」
— Rootport (@rootport) 2016, 1月 6
港湾ギルド長「それで、用事というのは?」 勇者「手紙の行き先を調べに来たんだ。何通も送っているのに王様からお返事がないのは変だと思って…」 港湾ギルド長「だから、新大陸からの手紙の大半が集まるこの町に来たのだね」 勇者「うん。まさか手紙を捨てているのがギルド長だったなんて…」
— Rootport (@rootport) 2016, 1月 6
勇者「教えてくれ、ギルド長!なぜこんなことを?誰かに命じられたの?いったい誰に──」 港湾ギルド長「…分かった。こうなってはしかたあるまい。事情を教えてあげよう」 勇者「ほ、本当に?」 港湾ギルド長「もちろん本当だとも。ただ、少し長い話になるからのう…。酒でも飲みながら話そう」
— Rootport (@rootport) 2016, 1月 6
港湾ギルド長「さあ、このブランデーを受け取ってくれ」 勇者「ありがとう。…でも、いいのかな。僕は未成年だけど」 港湾ギルド長「気にすることはない。人間国の繁栄を願って、乾杯」 勇者「か、乾杯…」 チンッ 勇者「…」 港湾ギルド長「どうした?さあ、飲んでしまいなさい」
— Rootport (@rootport) 2016, 1月 6
勇者「…ギルド長、これは毒だ」 港湾ギルド長「!」 勇者「毒よけのバングルを装備しているから分かるんだ。このブランデーには猛毒が溶かしてある!」 港湾ギルド長「気づかれたならしかたない。この手紙は…こうだ!」ポイッ 暖炉 ボワッ 勇者「ぼ、僕の手紙が!くそっ、どうして──」
— Rootport (@rootport) 2016, 1月 6
勇者「なぜこんなことをするの!ギルド長はそんな人じゃなかったはずだ!誰かに脅されているの?」 港湾ギルド長「ははは!一切の疑いを持たず人を信じる者を、何と呼ぶか知っているか?」 勇者「…え?」 港湾ギルド長「バカと呼ぶのだよ。…さらばだ」ゴクッ 勇者「ああっ、なんてことを!」
— Rootport (@rootport) 2016, 1月 6
勇者「ギルド長!ギルド長~っ!」 港湾ギルド長「…」ガクッ 勇者「…ダメだ。死んでる」 使用人「失礼します。夕食前のお薬をお持ちし──」カシャン 勇者「あ…」 使用人「ひっ…人、殺し…!」 勇者「ち、違う!僕じゃない!」 使用人「人殺しぃぃ~~!!」 勇者「くそぉっ」タタッ
— Rootport (@rootport) 2016, 1月 6
▼港町、路地裏──。 勇者 ハァハァ… 勇者「…手紙の行方を調べるだけだったのに、どうしてこんなことに?まさか港湾ギルド長が裏切り者だったなんて!」 男たち(こらー!どこに行ったー!) 男たち(出てこーい!暴漢めー!) 勇者「とりあえず、僕の正体は気づかれていないみたいだ…」
— Rootport (@rootport) 2016, 1月 6
勇者「ギルド長…うぅ…ぐすっ…復活の薬を持ってきていれば助けられたのに…」 勇者「ううん、くよくよしていられない。僕は勇者なんだから…」
— Rootport (@rootport) 2016, 1月 6
勇者「誰が裏切り者か分からない。直接、王様に相談したほうがよさそうだ」 勇者「でも、帝都までの旅費をどうしよう」ピラッ 勇者「この紙幣は魔国のG(ギール)だ。人間国のG(ゴールド)じゃないとこの町では使えない…」 勇者「そうだ銀行に行ってみよう!お金を貸してもらえるかも…?」
— Rootport (@rootport) 2016, 1月 6
▼港町、銀行の執務室──。 黒エルフ「…妙に外が騒がしいわね」 幼メイド「おやおやー?お金の回収に出ている女騎士さんが心配なのでー?」 黒エルフ「バカ言わないで、あたしがあいつの身を案じるわけないでしょ?むしろ、あいつの相手をする側が心配だわ」 幼メイド「言われてみれば~」
— Rootport (@rootport) 2016, 1月 6
黒エルフ「ところで、この部屋に何の用?」 幼メイド「あっ、そうでした!お一人でお仕事中にお邪魔しますが…ホットチョコレートを淹れてきたのですよ~」 黒エルフ「ありがたいけど、あたし甘い物は苦手なのよね」 幼メイド「ごしんぱいなく!新大陸風の味付けです!トウガラシたっぷりです!」
— Rootport (@rootport) 2016, 1月 6
黒エルフ「ん!意外とイケるわね、体が温まるわ。チョコレートって甘いものだと思っていたけど」ズズッ 幼メイド「あれはお砂糖の味です。もともとカカオ豆は甘くないのです~」 黒エルフ「カカオは高級品でしょう?新大陸でしか栽培できないはずよ」 幼メイド「じつはケーキ作りで失敗して…」
— Rootport (@rootport) 2016, 1月 6
黒エルフ「…余ったカカオ豆で、このチョコレートを淹れたというわけね」 幼メイド「お豆を潰して生地に混ぜただけでは、油が多すぎてうまく焼けないのですよ~」 黒エルフ「ふぅん。そういうものなのね」 幼メイド「カカオの油をしぼって、香りの部分だけうまく取り出せればいいのですが~」
— Rootport (@rootport) 2016, 1月 9
黒エルフ「そういえば最近、いたく熱心にケーキを焼いているわね」 幼メイド「ケーキ作りはわたしの趣味なのですよ~」 黒エルフ「それにしたって最近はよく焼いているわ。どうしたの?」 幼メイド「じつはですね~、でへへ~」ニッコリ 黒エルフ「でへへ…って、何よ、その笑い方」
— Rootport (@rootport) 2016, 1月 6
幼メイド「じつは、再来週に3日間だけお暇をいただけることになったのです!」キラキラ 黒エルフ「実家に戻るってこと?」 幼メイド「そうなのです!ご奉公先できちんと勉強していることを、家族にご報告するのです~」 黒エルフ「あんたの実家って、たしかこの町の商家の1つよね…」
— Rootport (@rootport) 2016, 1月 6
幼メイド「実家に戻ったときに、弟や妹たちに美味しいケーキを食べさせてあげたいのですよ~」ニコニコ 黒エルフ「それでケーキ作りの練習をしているわけね。ごめんなさいね、甘い物が苦手なあたしは力になれなくて…」 幼メイド「いえいえ~、お気づかいなく~…ハッ!思いつきました!」
— Rootport (@rootport) 2016, 1月 6
幼メイド「甘くないチョコレートがあるなら、甘くないケーキがあってもいいのでは?」 黒エルフ「それってただのパンよね」 幼メイド「たっぷりの生クリームに赤いトウガラシで飾り付けして…」 黒エルフ「やめておきなさい」
— Rootport (@rootport) 2016, 1月 6
▼港町、精霊教会──。 司祭補「…では、もうお気持ちは固まっているのですね」 毛皮商「はい。司祭補さまには大変お世話になりましたが、ご無礼をどうかお許しください」 司祭補「無礼だなんてとんでもないですわ!あなたがご家族のために決めたことです。ご決断を応援いたします」
— Rootport (@rootport) 2016, 1月 6
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