恥ずかしながら未見だった『パルプ・フィクション』を見た。
なんか、今、色々と考えてしまった。
やっぱりデヴィッド・フィンチャーはすごいんだなーとか、そういうこと。
なんていうか、『ファイトクラブ』って最近流行りの脚本の方向性を決めた作品のような気がしている。では最近流行りの脚本ってどんなのかといえば、特徴は3つある。
「とにかく情報量が多い」
「フラッシュバックの有効活用」
「観客を置いてきぼりにするギリギリ一歩手前のテンポの速さ」
この特徴を備えた脚本は、やっぱり見ていて面白いと感じる。70~80年代の傑作、たとえば『スティング』とか『バック・トゥ・ザ・フューチャー』なんかに比べると、最近の面白い映画脚本はこの3つの要素がとても強くなっていると思う。で、『ファイトクラブ(1999年)』はこの3要素を先取りしているのだ。
タランティーノの『パルプ・フィクション』は、こういう流行の土台を作ったマイルストーン的な作品だと思った。ハリウッド的な娯楽映画の「お約束」を崩そうとしているし、3つの短編はそれぞれ長大なフラッシュバックと見なすこともできる。観客が「覚えていないといけない情報」もけっこう多い。
あと、外せないのは『マイノリティ・リポート(2002年)』だ。
よくあるハリウッド映画の脚本では、映画が始まってからできるだけ短時間でインサイティング・インシデントを起こして、観客を作品に引き込もうとする。けれど、『マイノリティ・リポート』はあまり慌てない。時間をかけて丁寧に観客を物語世界に没入させていく。観客のこらえ性が問われるような脚本なのだ。この作品も、80~90年代のヒット作に比べると情報量はかなり多いお話になっている。
フラッシュバック──というか、映画の「時間の演出」を使わせたら当代一なのは、みんな大好きクリストファー・ノーラン。ただし、ノーランの場合はテンポはあまり重視していない印象がある。ゆうても一昔前の映画が好きなタイプの監督さんだと思うので、1シーンずつを大切に、じっくりと観客に見せようとする人だと思う。
こういうことを考えていると、シド・フィールドが『ボーン・スプレマシー』をベタ褒めにしていて、次世代の脚本の代表格とみなしている理由も分かる気がする。情報量の多さ、効果的なフラッシュバック、息もつかせぬテンポのよさ……すべてをバランスよく配合した脚本が『ボーン・スプレマシー』だ。どうやったらあんなシナリオが書けるんだろう。奇跡なのかもしれない。
でもって、デヴィッド・フィンチャーに戻る。
たとえば『ソーシャル・ネットワーク』はアホみたいに面白い映画だった。当然、先述の3要素を備えている。『ゴーンガール』はその正統進化って感じだ。フラッシュバックが入るたびに、「妻」の人物像がどんどん肉付けされて、まったくの別人へと変貌していく。前者の脚本はアーロン・ソーキン、後者はギリアン・フリンだ。
『ウルフ・オブ・ウォールストリート』を見ると、こういう最近の流行をきちんと押さえた映画になっていた。マーティン・スコセッシはやっぱすげーなー、あんた一体何歳だよおじいちゃん!って思う。ぜんぜん守りに入ってないの。自分のスタイルに固執するのではなく、もっと楽しい映画を撮ってやれ、って意気込みを感じる。
こういう「流行りのお話の構造」は、誰か1人の天才が作るものではないと思う。もちろんデヴィッド・フィンチャーは天才なんだけど、流行というのは大きな川の流れのようなもので、天才1人が作れるものではない。たくさんのしぶきが集まって初めて、巨大な流れが生み出される。
たとえば推理小説なら、私はジェフェリー・ディーヴァーの「リンカーン・ライム」シリーズが大好きだ。で、こちらは小説だけど、上記の3つの要素をきちんと押さえているんだよね。こういうタイプのお話は本当に好きだし、これが流行になったことは本当に嬉しい。
なお、個人的には『エイリアン3』の世間的な評価が低いことが不満です。
いい映画だと思うんだけどな……。
俺がデヴィッド・フィンチャーを好きすぎるだけなのかな……。
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