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運動が社会を変えず権力に流されてしまう本当の理由

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日本では、社会運動によって政治を変えづらいという。
原因は、おそらく日本的な排他性にあるだろう。いわゆる「ウチ・ソト」の感覚だ。
個々の政策への賛成・反対の立場が同じでも、他の部分に違いがある集団とは一緒に行動できない。倫理観や道徳観に違いがある集団の「仲間」として見られたくない。そういう感覚があるから、社会運動が政治力を持つほど広がらない。
多様性を甘受できないからこそ、社会運動が自己分断され、政治を変える力にならないのだ。



     ◆



日本の言論人には、「○○派」と見なされるのを嫌がる傾向があるらしい。
先日、SYNODOSに掲載された記事を読んで、そんなことを思った。


なぜ、運動で社会は変わらずに、権力によって流されてしまうのか――戦争とプロパガンダの間に/伊勢崎賢治×伊藤剛


伊勢崎さんはNGO国際連合の職員として、世界各地の紛争地域で武装解除などの実務に当たってきた人だ。この記事では、戦争の“現実”を知る人間として、特定秘密保護法憲法9条原発政策について語っている。とても興味深い内容だった。


伊勢崎さんの各政策に対する立ち位置は明快だ。
まず国家の安全保障のために「秘密」は必要か? イエス。
では現在の秘密保護法案を支持するか? ノー。
憲法9条を改正すべきか? ノー。
現在の原発政策を支持するか? ノー。
以上のように、個々の政策について明確な立ち位置を表明している。しかし、伊勢崎さんは「自分は左翼でも革新でもない」と強調するような喋り方をしていた。自分は現実主義者なのだ、と。
伊勢崎さんに限らず、日本の言論人には「現実主義者」を標榜する人が珍しくない。私の個人的な見解としては、なんというか、まあ、自分に自信がありすぎると思う。
1人の人間が認識できる現実は、その人の理想によって大きく歪められる。 伊勢崎さんのように戦地の圧倒的現実を知っている人でも、若年非正規雇用労働者の現実はたぶん知らないし、売れないPixiv絵師の残酷物語もおそらく知らない。知る必要がないからだ。1人の人間が認識できる“現実”には限界がある。
にもかかわらず、伊勢崎さんが現実主義を標榜するのは、「あいつは○○派だ」とレッテルを貼られたくないからだろう。伊勢崎さんは1957年生まれだ。いちばん多感な中高生のころに、70年安保やよど号ハイジャック事件浅間山荘事件を目撃している。「左翼」や「革新」、「共産主義」といった言葉に対して嫌悪感を持ちやすい世代だ。少なくとも、「あいつはサヨクだ」という色眼鏡で見られることを、危険だと考えているのだろう。


「私は○○派ではない」
「私は“あいつら”の仲間ではない」
こういう主張の背景には、日本的な排他性がある。いわゆる「ウチ・ソト」の感覚だ。自分が個々の政策についてどのような意見を持っているかよりも、自分がどのような集団に属しているのかを重視する。個人よりも集団に重きを置く。そういう感覚を、多くの日本人が持っている。
しかし、このような排他性こそ、社会運動によって政治を変えられない原因だ。本来なら手を組むべき集団同士を分断して、政治力を奪うのだ。



     ◆



政治を変えるには二つの方法がある。
一つは大衆の賛同者を増やして、数の圧力で権力者を動かす方法だ。もう一つは権力者と好意的な関係を作り、ミニマムな関係のなかで交渉する方法──少なくとも交渉のテーブルを準備させる方法だ。しかし、日本では前者の方法があまりうまくいかないのだ。
民主主義社会において数は力だ。
そして政治力を持つほどの「数」を揃えるには、多様性への寛容さが欠かせない。ちょっと気に食わない相手とも肩を組むしたたかさが欠かせない。民主主義を機能させるためには、多様性を認める心が必要不可欠だ。
「私はあいつらのような理想主義者ではない、現実主義者だ」
そんなことをいくら訴えても、社会を変える力にはならない。発言者の自意識が守られるだけだ。


The enemy of my enemy is my friend.


この警句を胸に刻まない限り、日本人が社会運動によって政治を動かす日は来ないだろう。
繰り返しになるが、重要なのは個々の政策をどう判断するかであって、どんな集団に属しているかではない。活動家や言論人に限らず、私たちは叩く相手を間違えてはいけない。





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