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【同期なんて気にするな】新社会人が読むべきでない本ベスト10!!

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私は「社会人」という言葉が嫌いだ。
というのも、この言葉が指し示しているのは日本人男性の正社員だけであって、学生やフリーター、専業主婦……この世界に生きる多様な人々を「社会」から排除しているからだ。言うまでもなく、学生も、フリーターも、家事手伝いのニートも、この社会を構成する一員である。英語には「社会人」を意味する単語がないらしい。他の言語ではどうだろう。日本の社会のいびつさに基づいた、日本語独特の表現ではなかろうか。
少なくとも私は、「社会人」という言葉を得意げに振り回す人を信用していない。むしろ、ちょっと軽蔑している。
「社会人としての心がまえを持て!」
「社会人らしくふるまえ!」
……みたいな威勢のいいセリフを耳にすると、失笑を禁じ得ない。あまりにも幼稚なセリフだからだ。
そして、それは必要な幼稚さでもある。
この社会にうまく適応するためには、他人の言葉を鵜呑みにする幼稚さが必須だ。「社会人」にとって何よりも必要な資質は、疑いを抱かないことだ。年長者から「学生気分を捨てろ」と言われて、「まあ、そんなもんかな」と納得できる頭の悪さが、この社会に溶け込むためには欠かせない。頭のいい人ほど鬱になりやすいと言うが、つまり頭が良すぎると社会への適応度が下がるのだ。ようするに今の社会が、バカでなければ耐えがたいほどの世の中だということだ。
というわけで、新社会人のみなさまには徹底的にバカになることをおすすめしたい。うまく生きるコツは、あまり頭を使わないことである。
以上、今日の記事はこれでおしまい……







……って、思わず更新ボタンを押しそうになってしまった。
違う違う、今日のテーマは「読むべきではない本10冊」だった。
はてなブックマークで、こんなまとめが話題になっていた:



【同期と差をつけろ】新社会人が読むべき本ベスト10!!
http://matome.naver.jp/odai/2136517933930799701



私はあまのじゃくなので、こういうまとめを見ると逆張りしたくなる。新社会人が読むべきでない本10冊をあげるとしたら、何がいいだろう。ビジネス書は、あまり読書習慣のない人が他人の思考を借りるために読むものだ。ほんとうに深い知識と思考を身につけたいのなら、教科書を読むのがいちばんだろう。が、それではハードルが高すぎる。



一人で読めて大抵のことは載っている教科書
http://readingmonkey.blog45.fc2.com/blog-entry-65.html



では、もう少しあっさりと読めて、なおかつ「社会人」として大切なものを失うような本は……? と、30秒くらい考えてから、次の10冊をリストアップしてみた。





自分のアタマで考えよう――知識にだまされない思考の技術

自分のアタマで考えよう――知識にだまされない思考の技術

社会人にとって大切なことは、自分の頭で考えないことだ。先輩や上司の価値観に疑いを抱かず、同じ色に染まることだ。したがって「自分の頭で考える」ことを勧めるこの本は、とても危険な有害図書である。現在の社会にうまく適応したいのなら、絶対に読んではならない。社会を変える側の人間になりたければ、読め。




経済成長って何で必要なんだろう? (SYNODOS READINGS)

経済成長って何で必要なんだろう? (SYNODOS READINGS)

社会人にとって大切なことは、カネよりも義理人情を重んじることだ。給与報酬の金額にとらわれず、仕事を与えてもらえたことに全力で感謝すべきである。上司や会社に平身低頭、身を粉にして尽くすべきだ。社会に適応したいのなら、経済学的なセンスなんて持っていないほうがいい。しかし社会を変える側の人間になりたければ、経済学の知識は必須だ。入門編として、読め。




社会人にとって大切なのは、三ヶ月間から長くても一年間の成績だけである。企業から求められる人材とは、10年先のことなど考えない若者だ。したがって数万年の人類史のなかで現在がどういう段階なのかを考える必要はない。社会に適応したいのなら、超長期的な視野など邪魔なだけだ。現在の社会に溶け込みたければ、人類の歴史に興味など抱いてはいけない。しかし、現在の社会よりも未来の社会を作りたいのなら、読め。




繁栄――明日を切り拓くための人類10万年史(上)

繁栄――明日を切り拓くための人類10万年史(上)

社会人にとって大切なのは、「本当の豊かさとは何か?」などと考えない思慮の浅さだ。与えられた仕事を文句も言わずにこなすのが、社会人にとってのしあわせなのだ。過労死するまで働き続けるのが、現在の日本における「豊かさ」である。組織の一員として組織に尽くすことが、現在日本における「豊かさ」の定義だ。しかし、組織や全体よりも「個」としての豊かさを考えたいのなら、読め。答えは書いてないけれど、考えるためのヒントが書かれている。





機械との競争

機械との競争

社会人にとって大切なのは、社会の歯車としてふるまうことだ。「この仕事は5年後には無くなってるんじゃないか?」などと疑わず、先輩や上司の言葉をありがたく拝聴することだ。時代の変化に鈍感であったほうが、現代の社会にはうまく適応できる。しかし、現在よりも10年後の世の中に適応したいのなら、読め。





ファスト&スロー (上): あなたの意思はどのように決まるか?

ファスト&スロー (上): あなたの意思はどのように決まるか?

社会人にとって大切なのは、うまく騙されることだ。誰かの成功体験や、聞きかじった美談に、素直に感動することだ。社会に適応するとは、つまり、社会を席巻している物語に染まるということだ。この世はたくさんの物語で満ちている。それらの大部分がフィクションかもしれない……と、疑う気持ちを抱いたら、あなたはもはや社会に適応できなくなる。しかし、物語に踊らされるのではなく、物語を作って世の中を動かす側になりたいのなら、読め。





ヤバい経済学 [増補改訂版]

ヤバい経済学 [増補改訂版]

社会人にとって大切なことは、疑いを抱かないことだ。したがって、世の中のあらゆるものを疑おうとするこの本は、とても危険な有害図書である。この本に書かれているのは、経済の意外な一面ではない。「疑う方法」そのものだ。社会に適応したいのなら、気持ちよく騙されていたほうがいい。しかし、たとえ疑心暗鬼にさいなまれても、疑り深くかしこい人生を歩みたいのなら、読め。





貧乏はお金持ち──「雇われない生き方」で格差社会を逆転する

貧乏はお金持ち──「雇われない生き方」で格差社会を逆転する

社会人にとって大切なことは、いまの仕事(and/or会社)が唯一の生き方だと信じることだ。会社に属さない人生があるなんて考えてはいけない。想像もつかないような生き方をしている人がいるなんて、考えてはいけない。目の前の職場だけが唯一絶対の居場所だと信じて、強い帰属意識愛社精神を育むべきだ。でなければ、いまの世の中には適応できない。しかし、ほんとうは無理に適応しなくても生きていける。その方法を知りたいのなら、読め。





ニートの歩き方 ――お金がなくても楽しく暮らすためのインターネット活用法

ニートの歩き方 ――お金がなくても楽しく暮らすためのインターネット活用法

社会人にとって大切なことは、勤労の尊さに目覚めることだ。働くのはすばらしい、仕事があるのは輝かしい……と、無邪気に信じることだ。したがって、雇用されないことのすばらしさを謳ったこの本は、とても危険な有害図書である。いまの社会に適応したいのなら、労働至上主義を信仰して、働かない人間を憎悪すべきである。しかし、労働教の信者になりたくないのなら、読め。




勝手に生きろ! (河出文庫)

勝手に生きろ! (河出文庫)

社会人にとって大切なことは、自由を忘れることだ。ヒトは本質的に社会に縛られた不自由な存在であると、自分に言い聞かせることだ。自由なんてのは、ヨーロッパの夢想家が思いついた戯言にすぎない。アジアの一角である日本社会には、そもそも「自由」は似つかわしくないのだ。そう信じることができれば、あなたは立派な「社会人」だ。
しかし、人生には決まったルールなどない。
自由は楽しいものではない。生ぬるい不自由のほうが、よっぽど心穏やかに生きていける。それでも自由を選ぶ人がいる。自由を、かけがえのないものだと考える人がいる。そのすばらしさに触れたいのなら、読め。