※この記事は移転先ブログ「デマこい!」に転載済みです。
「紙の資料をエクセルへ打ち込むことに心血を注ぐ人がいる」という話をしたら、友人が飛びあがるほど驚いた。その友人は某ゲーム会社のクリエイターで、「んなもんコンピューターにやらせろよ」とすげない返事。はてな界隈にはSEや理系研究者が多いので、この友人に同意する人ばかりだろう。私も心からそう思う:単純な事務作業は、すでに人間のすべき仕事ではない。ヒトは創造性を発揮することこそに、その脳を活かすべきだ。
人工知能に受験の試練・・・10年後の東大合格目標
http://www.yomiuri.co.jp/science/news/20111105-OYT1T00477.htm
※受験勉強が単純作業か創造的行為かは意見が分かれるだろうけれど、従来から“知性”と呼ばれてきたものの大部分は、すでにコンピューターで代替できる。
しかし、企業の管理部門やお役所の人々を見れば、時代はそう簡単に変わらないと分かる。単純作業こそを自分の天職として、誇りと責任感を持って取り組んでいる人は少なくない。電子計算機がこの世に登場してわずか半世紀、インターネットが普及してからまだ15年しか経っていない。それ以前は、どんな単純作業でもヒトの手でやるしかなかった。たとえつまらない仕事であっても、重要な“人間の仕事”だった。
また社会制度そのものが、いまだ電子化に追い付いていないという実情もある。法制度にせよ会計制度にせよ、現行のものは非常に複雑かつ恣意的で、現場の人間の判断がなければ実用に耐えない。
たとえば電子貨幣が実現すれば、経理・財務の業務にあたる人間の数は劇的に減る。カネのやり取りすべてが最初からデータ化されていれば、あらゆる事務作業を省人化できる。
法律・司法の業界でも同じだ。現在の法律は原始的な自然言語により記述されている。判例集を読むたびに(検索しづらくて不便そうだなあ……)と思っていた。法律の条文にせよ判決文にせよ独特の文法で書かれているが、あの言い回しが電子化に適しているとは思えない。
自然言語により“決まりごと”を明文化し、社会を維持・運営する――人類がこの風習を生み出したのは、およそ4000年前だ。以後の歴史はその風習を精緻化し、発展させてきたにすぎない。ヒトの社会様式・行動様式は、根本的な部分ではメソポタミア文明の頃から変わっていない。あえて悪い言い方をすれば、単純作業でメシを食っているすべてのヒトは古代人と大差ないのだ。
ところが現在の私たちは、とてつもない変化の渦中にいる。「歴史が変わる」なんて言葉では生ぬるい、人類史上4番目の大躍進のなかにいる。
現在の変化がどれほど大きなものなのか、ホモ=サピエンスの歴史をおさらいしながら考えてみよう。
◆ ◆ ◆
ヒト属の動物が現われたのは、いまからおよそ240万年前のアフリカだ。それから長い進化を経て、25万年前に現世人類が誕生する。当時、ヒトはホモ=サピエンス1種だけではなく、ネアンデルタール人など多数の種・亜種が存在していた。その一部はすでにアフリカを旅立ち、ユーラシア大陸全土に生息していた。現世人類は彼らを追いかける形で“出アフリカ”を果たした。およそ10万年前のことだ。
ところで現在のヒトは、他の種に比べて遺伝的な多様性が少ないことが知られている。これはごく少数の祖先(数千〜1万組程度のカップル)から、すべての現代人が生まれたからだと考えられる。
7万年前、インドネシア・スマトラ島にあるトバ火山が大噴火を起こした。これは最近10万年以内のあらゆる噴火のなかで最大級のものとみられており、この時に放出されたエネルギーはTNT爆薬で1ギガトン分に達したと推定されている。(なお東日本大震災などのM9.0の地震でさえ、そのエネルギーはTNT爆薬0.5ギガトン分に満たない)この大噴火による火山灰で気候が急速に寒冷化、最後の氷期が始まった。
この時の気候変動により、現世人類は1万人程度まで人口を減らしたと考えられている。現代人の遺伝的な多様性の少なさは、これが原因だ。地質学者から“トバ・カタストロフ”と呼ばれるこの事件により、多くのヒト属の動物が絶滅した。生き延びたのはネアンデルタール人と現世人類だけだった。
現世人類が1番目の大躍進をとげるのは、それから2万年後のことだ。
今から5万年前、人類の進歩が急激に速くなった。使用される石器の質が向上し、壁画等の芸術的な活動が始まった。いわゆる“文化”と呼ばれるものが萌芽したのがこの時期だといえる。
なぜ現世人類がこのような大躍進を遂げたのか、理由はいまだに解っていない。が、一説には「言語」の発明がこの時期だったからではないか、と言われている。
世界のすべての言語、アフリカの「祖語」にさかのぼる
http://jp.wsj.com/Life-Style/node_222918
今でこそ6000ある言語だが、現世人類がたった1万人程度の共通祖先の生き残りだとすれば、「最初の言語」が一つか二つだったとしても不思議はない。言語の発明により、人類は意思疎通が簡単になり、口伝による情報の継承も可能になった。これが急速な進歩をもたらした。これが人類史上1番目の大躍進だ。
なお、現世人類とともにトバ・カタストロフを生き延びたネアンデルタール人は、いまから2万年ほど前に絶滅してしまう。原因には様々の説があるが、その一つに言語の遅れが指摘されている。ネアンデルタール人の脳の容量は現代人と遜色なく(むしろ多いぐらいだった)、また盛んに火を利用し、埋葬などの文化を持っていたことが解っている。が、頸骨や顎の形状から、現世人類のような複雑な音を作れる声帯を持っていなかったのではないか――と推測されている。声帯の違いが言語の発達を阻み、ネアンデルタール人は現世人類との生存競争に敗北した。時代は氷期の真っただ中、日本列島が大陸と地続きで、ベーリング海峡を歩いて渡れたころの出来事だった。
最後の氷期が終わるのは、今から1万年前だ。そして人類は2番目の大躍進を遂げる:農耕の発明だ。
気温の温暖化とともに農耕が始まり、人類は定住生活に移った。長江文明やシュメール文明などが興る。学校の勉強で「歴史」が始まるのはこのあたり。だけど人類史全体から見ると、農耕以前から人類には長い歴史があるんだね。
2番目の大躍進により、人類は土地に根差した生き方を始める。土地が誰かの所有物となり、その版図を広げることが繁栄に直結するようになる。“国”の萌芽だ。ただし当時はまだ血縁者を中心とした小規模な集団しかなかっただろう。こうした小集団では規律や習慣の管理がしやすく、指導的立場の人間の口頭だけで運営できたはずだ。したがって明文化された決まりごと――法律を作る必要はなかった。王でも祈祷師でもいい、誰かの発言がそのまま集団の規範となった。
これらの集団は互いに衝突・合体をくり返し、より大きな集団へと成長していく。そして最終的に、血縁に基づかない多数の集団が、ともに顔を突き合わせて生活するという状況が生まれる。統一国家の誕生だ。
現存する世界最古の法典は、およそ4000年前のウル・ナンム法典だ。紀元前2100年ごろにメソポタミアのウル第3王朝により制定されたという。集団が巨大化して“国家”の様相を呈するようになると、口伝の規範だけでは社会を管理しきれなくなる。現在でさえ、家族が違えば習慣は違う。多様な他者と共に生活をする以上、「なにが罪になるのか」を明文化しておくことが必須だった。また、ウル・ナンム法典からさらに350年ほど後には「目には目を」で有名なハンムラビ法典が作成される。当時のバビロニアは他民族国家であり、統治にはやはり法規が必要だった。
これが3番目の大躍進:法典の発明だ。
現代にいたるまでの4000年間、数々の歴史的事件があった。世界征服まであと一歩のところまで勢力を伸ばした帝国があり、数学・科学・芸術が発展し、神の子が生まれ、その聖遺物をめぐる終わりのない戦争が始まり、東では穏やかな哲学が宗教へと昇華され、シルクロードが世界を結び、ルネサンス、宗教改革、産業革命と矢継ぎ早に歴史は発展してきた。
しかし、そうした歴史的事件はいずれも、過去3回の大躍進と比べれば軽微なものでしかない。言語の発達も、農耕革命も、法典の発明も、人類のありかたそのものを変えてしまうとてつもない進歩だった。これらに匹敵するほどの変化を、私たちは過去4000年間に経験していない。支配者と被支配者と奴隷がいて、それらを明文化された決まりごとにより管理する――この構造は現在まで変わっていない。各産業の従事者の比率が変わったくらいで、ヒトの生態はこの4000年間ずっと同じだった。
ところが情報技術の急速な進歩により、人類は“知性の外部化”に成功した。ヒトの何よりの特徴である「考える」という行為の一部を、脳の外へと拡張したのだ。25万年のホモ=サピエンスの歴史のなかで、このような変化は初めてだ。歴史は繰り返すものというが、コンピューターの発明とネットワークの発展だけは過去に例がない。
だからこそ、私はこれを4番目の大躍進だと考えている。
たとえば新聞やラジオなどの旧来のマスメディアとインターネットとを比較する人がいるけれど、そういう人は「情報化」の一側面しか見ていない。それこそ新聞やラジオみたいな情報媒体の延長線上としてしかインターネットを理解できていないのだ。遠隔地の人間が簡単に意見を交換し、ニコニコ動画のコメントにせよ、死者の遺したブログ記事にせよ、時間を超えたコミュニケーションさえも可能になった。この変化を、新聞・ラジオ・映画・テレビといった情報媒体の進歩の延長線上に当てはめるのはいささか苦しい。「可能になったこと」はあまりにも多く、これは言語の発明に匹敵するほどの変化だと見なしたほうがいい。
物理的な距離が意思疎通の妨げにならなくなったことで、経済体制はグローバル化の一途をたどっている。個人の生活レベルで見ても、日本の小学生とヨーロッパの老人とブラジルの青年がひとつのゲームで強敵に挑む――なんてのは珍しいことではなくなった。ネットゲームの世界から切り崩しが始まったが、今後は生活の様々なレベルまで「ゼロ距離」性が浸透するだろう。そして人は土地から解放される。
世界は三層構造でできている 「国家」「企業」より重視したい所属先は?
http://diamond.jp/articles/-/13597
※何度読んでも、この記事はすごく先進的で時代を掴んでいると感じる。世界のこうした3層構造が可視化されたのは――あるいは世界が三つの層に分解されたのなぜか。4番目の大躍進ゆえだ。
過去にはエスペラント語のように、世界の共通語を目指した言語があった。しかし、そのいずれも成功しなかった。一方、htmlは世界中のWeb技術者がすでに共通言語として使用している。いまや英語の苦手な中学生だって簡単なコードぐらい書ける。プログラム言語の“世界共通語”としての側面は、過去のあらゆる言語を凌駕している。
それでは情報化の波・知性の外部化は、今後はどのように進むだろう。人類にどのような変化をもたらすだろう。
まず貨幣の電子化が進むはずだ。すでにこの世界では、紙幣・硬貨よりもはるかに膨大な貨幣が流通している。この点では、電子化の基盤となる“仮想化”がすでに始まっているといっていい。ところが電子貨幣はクリーンすぎて政治家が嫌がるという身もフタもない事情があるため、まだあまり進んでいない。時代劇でおなじみの、まんじゅうの箱を上げ底にして小判を詰めこみ「お代官さまのお好きな甘味はその下に……」なんてことができなくなる。しかし紙幣や硬貨がいかに不便かは、SuicaとPASMOが証明した。電子化された貨幣の便利さはお墨付きだ。一度そちらに流れ始めれば、変化はあっという間だろう。
また法制度は、現在の自然言語ベースのものから、より普遍性の高い記述方法に代わるだろう。が、こちらは貨幣の電子化ほど簡単に進まないと思われる。それこそ月面や火星の基地で、新しい国家をゼロから作る――というレベルの変化がないと難しそうだ。なにしろ4000年も歴史があるからね。自然言語でなければ複雑な人間の生活を規律し裁くことができないと考える人が多いのは当然。
繰り返しになるが、情報技術の発展は人類に“知性の外部化”を許し、急速なグローバル化をもたらした。これは人類史上、過去に例のない大事件だ。4番目の大躍進とでもいうべき、すさまじい進歩だといえる。また、この変化が始まってからまだ数十年しか経っていない。今後おこるだろう変化はあまりにも多く、こんなブログの記事には書き切れない。
◆ ◆ ◆
現世人類には25万年の歴史があり、過去3回の“大躍進”を経験してきた。
1番目の大躍進は5万年前のもの。石器の製法等の進歩が急激に進み、背景には言語の発達が疑われる。
2番目の大躍進は1万年前の農耕革命。人類は定住という生き方を編み出した。
3番目の大躍進は4000年前の法典の発明。血縁によらない大集団が、秩序ある生活を営むようになった。
そして現在、人類は“知性の外部化”を経験している。影響は多岐に渡っており、国家をはじめとする旧来の組織がチカラを保てなくなりつつあること、グローバル化が進んだこと等も、知性の外部化の余波である。知性の外部化――情報技術の進歩は、今後100年は続くだろう。これは過去3回の大躍進に匹敵するほどの、とてつもない変化だ。
だからまずは、紙の資料をCSVにしてもらうところからはじめようぜ。
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おまけ【超いい加減な人類史まとめ】via Wikipedia
◆ヒトの誕生
240万年前ごろ?
◆出アフリカ
ホモ・エレクトゥスは180万年以上前に進化し150万年にはユーラシア大陸各地に広がった。が、彼らは現世人類の直接の祖先ではない。
◆現世人類の誕生
ホモ=サピエンスは25万年前に現われ、現在に至っている。10万年〜5万年前ごろ、ホモ=エレクトゥス等を追いかける形で出アフリカし、ユーラシア大陸に広がった。
◆トバ・カタストロフィー
トバ・カタストロフ理論(Toba catastrophe theory)とは、今から7万年前から7万5千年前に、インドネシア、スマトラ島にあるトバ火山が大噴火を起こして気候の寒冷化を引き起こしたとする理論。トバ事変とも呼ばれ、現世人類は人口一万人程度まで数を減らした。ホモ=サピエンスのゲノムが多様性に乏しいのは、このときの人口減少のためだとされる(ボトルネック効果)。トバ・カタストロフィーによりヒトの傍系はことごとく滅び、現世人類とネアンデルタール人のみが生き延びた。
◆最終氷期(さいしゅうひょうき)
最終氷期は、およそ7万年前にはじまり1万年前に終了した一番新しい氷期のことである。ヴュルム氷期、ウィスコンシン氷期とも呼ばれる。
◆大躍進
5万から4万年前まで、石器の使用は徐々に進歩したと思われる。おのおのの段階(ハビリス、エルガスター、ネアンデルタール)は前の段階よりも高いレベルで始まり、後退したことはなかった。しかし一つの段階の中の技術の進歩は遅く、言い換えれば、これらの種は文化的に保守的だった。
しかし、5万年前以降、現世人類の文化は明らかに大きな速度で変わり始めた。『人間はどこまでチンパンジーか?』の著者ジャレド・ダイアモンドや他の人類学者はこれを「大躍進」と描写する。
◆ネアンデルタール人の絶滅
ネアンデルタール人は2万数千年前に滅んだが、その原因はよく分かっていない。現世人類の遺伝子には彼らと混血した形跡があるという説もある。
◆最終氷期の終了
およそ1万年前、最終氷期が終了し、気候は急速に温暖化した。
◆長江文明
・玉蟾岩遺跡(ぎょくせんがんいせき)
湖南省道県。紀元前14000年? - 紀元前12000年? のものとされる。稲モミが見つかっているが、栽培したものかは確定できない。
・仙人洞・呂桶環遺跡(せんにんどう・ちょうとうかんいせき)
江西省万年県。紀元前12000年頃?。栽培した稲が見つかっており、それまで他から伝播してきたと考えられていた中国の農耕が中国独自でかつ最も古いものの一つだと確かめられた。
◆シュメール文明(メソポタミア文明)
紀元前9000年頃、シュメール人が移住して来て、農耕が始まった。これがシュメール文明の始まりとされる。シュメール人の民族系統は不明である。
◆ウル・ナンム法典
紀元前2115年〜2095年ごろ?/ウル第3王朝のウル=ナンムにより制定された。(現存する)世界最古の法典である。
◆ハンムラビ法典
紀元前1750年ごろ/ハンムラビ法典の趣旨は犯罪に対して厳罰を加えることを主目的にしてはいない。古代バビロニアは多民族国家であり、当時の世界で最も進んだ文明国家だった。多様な人種が混在する社会を維持するにあたって司法制度は必要不可欠のものであり、基本的に、「何が犯罪行為であるかを明らかにして、その行為に対して刑罰を加える」のは現代の司法制度と同様で、刑罰の軽重を理由として一概に悪法と決めつけることはできない。財産の保障なども含まれており、ハンムラビ法典の内容を精査すると奴隷階級であっても一定の権利を認め、条件によっては奴隷解放を認める条文が存在し、女性の権利(女性の側から離婚する権利や夫と死別した寡婦を擁護する条文)が含まれている。後世のセム系民族の慣習では女性の権利はかなり制限されるのでかなり異例だが、これは女性の地位が高かったシュメール文明の影響との意見がある。
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