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「デマこいてんじゃねえ!」というブログの移転先です。管理人Rootportのらくがき帳。

「男漁り」の何が悪い!/女子が肉食化した根本的な原因

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日本におけるインターネットの利用者は、30代の男性がボリュームゾーンになっているらしい。ついうっかり結婚してしまって“人生の墓場”を味わっている男、あるいは結婚もできずに「俺を選ばない女どもは死ね」と呪詛をつのらせている非モテ、さまざまな30代男性がいるけれど、たしかにネット上ではこの層の喜びそうなネタばかりが話題になる。
その最たる例は「肉食女子」にまつわるものだろう。




ノーブラ、半乳…被災地ウロつく逆ナン&婚活女
http://www.zakzak.co.jp/zakspa/news/20110823/zsp1108231422003-n1.htm


「男漁り」目的の“にわか山ガール”が軽登山オフ会に出没中
http://news.nifty.com/cs/magazine/detail/spa-20110902-05/1.htm




まず「逆ナン」だの「男漁り」だのという書き方がひどいし、これに対するはてなブコメ2chの反応も、なんつーか、たいへん残念だった。「女の子がいい男を求める」ことに嫌悪感をあらわにしたコメントで埋め尽くされており、二言目には鬼の首を取ったように「どうせカネ持ちの男がいいんだろ?」と言い放つ。「女なんて札束でほっぺたをひっぱたけば落ちる」と女性を貶めることで、自尊心を守っているのだ。そうやってモテない自分を正当化しているのだろう。




おめーら、解ってねーな!
女の子ってそういうモンなの!
女はいい男を求めて当然なんです!!




より優れた異性をパートナーにしようとするのは生物として当然のことだし、「女は恋愛に奥手であるべし」という発想は前時代的なものと言わざるをえない。女の子が「男漁り」をするのはごく自然な行動であり、それに対して嫌悪感を示すのは「俺はモテないブサメンです」と宣言しているようなものだ。そのカッコ悪さにどうか気づいてほしい。
※週刊誌の記事に対してなに熱くなってんだよ、と自分でも思うけど「ネタにマジレスかっこいい!」がはてな民の矜持だってばっちゃが言ってた




いや、まず、そもそもの話なんだけどさ:
「山登りなどの趣味をきっかけに出会ったカップル」
「ボランティア活動などの社会奉仕活動をきっかけに出会ったカップル」
って、そんなに珍しいものだろうか。むしろ古くからありふれた出会い方ではないのかな。結婚式のスピーチでも上司が困らなくて済む。「弊部署では私の一存で毎年、青梅マラソンに参加するのが恒例となっておりますが、お二人はそこで出会ったそうです。いわば私がお二人の愛のキューピッドになったわけですね! キューピッドというにはいささかハゲが進んでおりますが、おかげで頭頂部にはテカテカとした光のリングがまるで天使のように――」オヤジギャグも絶好調だ。
趣味や社会奉仕活動をきっかけに知り合うのはありふれているし、ツイッター婚や出会い系婚よりもはるかに“自然”な付き合い方だと言えそうだ。「出会いを求める」のが不道徳なことだとしたら、趣味はそれを主たる目的としていないぶん「道徳的だ」とさえ言える。
さらに言えば「出会いを求めるのは不道徳」という考え方自体が、すでに性的に枯れている人の発想だ。
生き物は何のためにこの世に生まれてくるのか:子孫を残すためだ。
人の三大欲求とはなにか:そこには性欲が含まれている。
少なくとも性的に旺盛な年代ならば、「いつでもどこでも出会いを求める」のが当たり前なのだ。これは男女関係ない。ましてヒトだけに限らない。「メシを食わなかったら腹が減る」ぐらい普遍的な真理である。だから「出会いを求めるなんてけしからん」と思ったそこのあなた! 残念、あなたは骨の芯まで立派なオッサン・オバハンです! 自分が若い頃のことを忘れちゃってます!


「趣味やボランティアをきっかけに交際をはじめた夫婦」の実例は頻繁に耳にする。それこそ戦前のおじいちゃんおばあちゃん世代でも、そういう出会い方をした例を知っている。だとすれば「出会いを求めてそういう場に参加する女性」は古くからいたはずだし、特段珍しいものでもなかったはずだ。では、なぜ今になって騒がれるのだろう。
人間は、しばしば新しい言葉を発明することで世の中の見方を変えてしまう。
たとえば実家でごろごろしている無職は大昔から存在していた。が、「ニート」という言葉が発明されたことで一気に認知されるようになった。無職になったいきさつや就業の可能性は個々に違うにもかかわらず、ひとまとめにして「怠惰な若者像」として語られるようになった。ニートという言葉の発明がなければ、こうはならなかっただろう。
で、女性の恋愛をめぐる状況もこれとよく似ている。
ご存じの通り、「肉食系」や「婚活女子」といった言葉だ。これらの言葉の発明がなければ、恋愛に積極的な女性がことさら騒がれることもなかっただろう。
そもそもさぁ、いったいどうやって私たちはパートナーを見つければいいのだろう、趣味やボランティアに出会いを求めるのを禁じてしまったり、お見合いパーティーに燃える婚活女子を「不道徳だ!」と笑ってしまったら。
それこそ残された道はお見合いぐらいしかない。明治かよ。
最近ではお見合いも再評価されていることは知っている。けれど、それはその後の交際があってこそだ。紀元前の神話にだって、恋愛感情の絡む物語は数え切れないほど存在する。ヒトは生まれながらに恋する生き物なのだ。




      ◆




「肉食系」に眉をひそめ、「男漁り」を罵倒する――その背景には「女は奥手であるべき」という発想がある。しかし、この発想は「男の支配する社会」でしか通用しない、とても脆弱な考え方だ。なぜならヒトのオスに対してあまりにも都合のいい考え方であり、メスの生まれながらの行動をねじ曲げているからだ。
恋愛に対する積極性はその人の個性が決めるべきことであって、男だから/女だからという理由で決定されるものではない。


これは以前にも書いたことだけど、私たちは経験的に「男のほうが惚れやすく、女のほうが恋愛に慎重」だと知っている。
で、実際の調査でもそういう傾向が現われるらしい。
アメリカのある大学で「過去に交際経験があるかどうか」を学生たちに訊いたところ、恋愛経験のある女性の数は、恋愛経験のある男性の数を上回っていた。これだけでは「男性のほうが慎重」であるかのように見える。
ところが「恋愛経験あり」と答えた学生たちに「過去1年間に性交渉をした相手の数」を聞いたところ、女性は「1人〜2人」と答えたのに対し、男性ではもっと多い人数があがった。つまり、一部のモテる男性がたくさんの女性と付き合っていることになる。
(※この話のソースになるペーパーを読んだのは10年くらい前だ。検索の仕方が悪いのかも知れないけど、30分以上探しても見つからないので心が折れた。タイトルを忘れちまったのは痛い。どなたかソースをお持ちの方はいますか!←)
モテる男性がたくさんの相手と関係を持つのは、男性が「自分を好いてくれる女性ならわりと誰とでも付き合える」からだ。そして「一部の男性だけがモテる」のは、女性が“いい男”だけを選好するからだ。/たしかに現在の日本でも、婚活女子は驚くほどたくさんの条件を男性に課すのに対して、独身男性たちは「誰か嫁に来てくれないかなぁ」と、わりとのほほんと構えている――ような気がする。


逆にいえば、自分の納得できるパートナーを見つけるハードルは女性のほうが高い。
誰とでも(失礼)つきあえる男とは違い、必死になって探さないと見つからないのだ。積極的に出会いの場を求める女性がいるのは当然だし、それはたぶん大昔から続いてきた人類の営みだ。
以上が「肉食系女子」の動物行動学的な解説である(ドヤァ


女の子にとって男を吟味するのは当然な行動だ。「女は恋に奥手であるべき」という発想は、そういった女子のHuman natureをねじ曲げ、抑圧している。この発想にもとづいた「肉食女子」叩きも、まったくもって的外れなものだと言わざるをえない。




      ◆ ◆ ◆




ここからあとは全部余談です。


近現代になるまで「統治者」とはやくざの親分にほかならなかった。どの王様も殿様も、「暴力」のチカラによって反対勢力を鎮圧していた。「法治」というすぐれた考え方が生まれた今でも、暴力による支配は世界中で続いている。肉体的に“強い”男が社会の支配権を握ったのはそういった歴史がある。よっぽどのことじゃないと女の子は殴りあいのケンカで男に勝てないもんな。
ところが科学および産業の発展は人々の暮らしを豊かで平和なものにした。これは「暴力」のチカラを失墜させ、「社会を男が支配する」ことの必要性と必然性を奪った。暴力の支配する世紀末的世界にでもならない限り、この傾向は続くだろう。
したがって女性の「肉食化」は今後も加速していくはずだ。



問題は、その時に男はどーすんの、という点。



人類は自然選択を重ねてここまで進化してきた。この自然選択という考え方、じつはかなり恐ろしい。生命の歴史上には膨大な数の「子孫を残せなかったヤツら」が存在していることを、私たちに教えてくれるからだ。
子孫を残せないヒトは、そういった淘汰されるべき存在:すなわち進化の過程の失敗作かも知れない――なんて思うと怖いよね。あるいは、かえってあきらめがつくかな。悟りの心境。


最後に非モテのみなさまにちょっとだけ希望のある話:どうやらヒトは生まれながらに一夫一妻制の行動を取るように進化しているっぽい。「かつて人類は乱婚制だった」という仮説を示したのはルイス=ヘンリー=モルガンだけど、どうやらこれはウソらしいということが解ってきている。ヒトはハーレム制でも乱婚制でもなく、一夫一妻制を取るように進化してきたようなのだ。
ま、これについてはまた時間のあるときに。




それでは、いのち短し、恋せよ乙女!