デマこい!

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わたしの愛読書10冊

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わけあって「愛読書」と「もう二度と読みたくない本」を10冊ずつ選ぶことになった。今回はその「愛読書」編。ただの面白かった本ではなく「愛読」というところで少し悩んだ。何度も読み返してしまうような大切な書籍――。いちばん頻繁に手に取っているのは『広辞苑』だけど、今回は除外。





利己的な遺伝子 <増補新装版>

利己的な遺伝子 <増補新装版>

 誰だって「人間ってなんだろう?」と悩む時期がある。私の場合は哲学や文学ではなく、生物学にその答えを求めた。人間も生物である以上、「生きものとは何か」を理解しなければヒトのことも分からない。この本は、その「生きものとは何か」を明快にまとめた一冊だ。なお著者は「神様なんていねーよキリスト教信者はアホ」と人生をかけて主張している人。きっと幼少期に何かトラウマを負ったに違いない。






憲法 第五版

憲法 第五版

 法学を勉強している人の間では「芦部教科書」という通称で有名な本、らしい。思いっきり教科書です。著者の思想信条に共感するとかそういう問題ではなく、私は「人間ってよく考える生き物なのだなー」と人類の習性に感動した。それまで理科・科学にばかり傾倒していた私は、「世の中の仕組みは自然界が与えてくれるもの」「かくありてよしとせん」という認識を強くもっていた。人為的な現象である「社会」をここまで静謐に・理詰めで考え抜いている人がいることに感動した。私が持っているのは第三版なのに、いまじゃ第五版まで出てるのかー。歳を取るのはイヤだね。







スナーク狩り (光文社文庫)

スナーク狩り (光文社文庫)

 エンタテインメントならこういう作品を作りたい。中学生の頃、初めて「読むのがやめられなくて徹夜」した思い出の一冊。伏線の張り方、どんでん返しの配置、キャラクターの見せ方、すべてにおいて最高の出来。エンタメを志向する人なら、必ず越えなくちゃいけないハードルだと思う。







天空の蜂 (講談社文庫)

天空の蜂 (講談社文庫)

 東野圭吾の最高傑作。主人公たちの前に立ちはだかる問題が絶対に解決できなさそうな難問であるほど、サスペンス性も、解決したときのカタルシスも大きくなる。その点でこの作品はよく考え抜かれているし、マニアックな知識をそうとは感じさせずに上手く物語に融合させている。ただ、ああいう事故が現実に起こってしまった今は、面白さが半減しちゃったかも知れない。





杜子春・トロッコ・魔術―芥川竜之介短編集 (講談社青い鳥文庫 (90‐1))

杜子春・トロッコ・魔術―芥川竜之介短編集 (講談社青い鳥文庫 (90‐1))

 本ではなく作品! 芥川龍之介『魔術』です。芥川はとにかくお話の作りがうまい! 彼の作品はブンガクとして語られることが多いけれど、エンタメ小説としても一級品が揃っている。VFXの無い時代に、よくぞこんなにもイメージ豊かな文章を残したものだ。こういうエンタメ的に面白い短編小説をたくさん残しているのに、教科書に載っているのは『蜜柑』とか『羅生門』ばかり。日本の国語教育の問題点の一つだね。エンターテインメント性が不当に低く評価されて、切なさや人生の機微――ひとことで言えば「いとかなしき」なテーマを偏重しすぎている。そりゃあ子供たちが読書嫌いになるはずだよ。本当に面白い作品を扱わないんだから。




「ドリトル先生ものがたり」全13冊セット 美装ケース入り (岩波少年文庫)

「ドリトル先生ものがたり」全13冊セット 美装ケース入り (岩波少年文庫)

 私が「本って面白い!」「物語って面白い!」と目覚めたのはこのシリーズがきっかけ。CGが今ほど発達していなかった私の幼少時代は、文章だからこそ表現できる自由な発想が面白かった。また、私にとってはキャラクター萌えの原点でもある。エアロビクス好きのブタに、万能すぎるオウムに――どのキャラも魅力的。あと、ネコ肉屋って儲かるのだろうか。/物語を盛り上げているのは、間違いなくこの個性豊かな登場人物たちだ。キャラ立ちの重要性がわかる。




ニワトリ号一番のり (福音館古典童話シリーズ (7))

ニワトリ号一番のり (福音館古典童話シリーズ (7))

 社会派児童文学(?)の傑作。現実世界を舞台にしており、魔法や怪物は登場しない。それでも充分に読者を非日常へと引き込んでしまう。船の部品の名前が頻出するため、巻頭のイラストを何度も読み返すハメになった。文中にハイパーリンクを張れる電子書籍時代にこそ、こういう作品が再注目されるべきだろう。(垣根涼介『ワイルド・ソウル』を読んだ時も同じことを思った。こちらはウィキペディアでブラジルの都市について調べながら読んだ)いつか私の手で新訳板を作りたい。まだ20歳の主人公の一人称が「わし」なのはどうにも。。。






十五少年漂流記 (新潮文庫)

十五少年漂流記 (新潮文庫)

 これは『海底二万海里』とどちらにすべきか悩んだ。が、社会性の強いこちらの作品を「愛読」に選んだ。フィクションの面白さとは現実逃避・非日常の仮想体験だけではなく、それを通じて人生のTipsを得ることだと私は思っている。ことに児童文学ではその部分が重要で、「人間ってこんなもの」「人生ってこんなもの」と物語を通じて学ぶことで、現実社会で生きる際の保険になる。――とか、堅苦しく書いてみたけれど、たくさんの子供たちが出てくるのでこちらの方がお話に躍動感があるんだよね。だから楽しい。





星を継ぐもの (創元SF文庫)

星を継ぐもの (創元SF文庫)

 SF枠。ストーリーの大部分が科学者同士の論争であるにもかかわらず、見せ方を工夫するだけでこんなに楽しくできるのかと舌を巻いた。登場人物たちに新事実を突きつけるタイミングが完璧すぎて憎らしいほど。全体を通して人類賛歌になっているのも愛読している理由。つま先程度だけど科学の世界に足をつっこんでいた私は「善悪はヒトが勝手に決めるもの」という意識が強い。だったら物事はよい方向に捉えた方が得だし、「捨てたモンじゃないじゃん、人類!」と思えるホーガンの作品には素直に勇気づけられる。





スバラ式世界 (集英社文庫)

スバラ式世界 (集英社文庫)

 エッセイ枠――というか爆笑枠。「人を笑わせるのは怒らせるよりも難しい」と言われている。しかし書く人が書けば、言葉だけでも腹筋がねじ切れるほど笑わせられるということを教えてくれた。私も文章を書くのならば、これぐらい人を笑顔にしてやりたい。





好きな本ならいくらでもあるけれど、愛読書となると話は別だ。繰り返し読んでしまう本の中でも、とくに今の私に影響を与えたものを考え抜いてみた。(その結果、まさか『スバラ式世界』をリストに加えることになるとは思わなかった)
これより難しいのは「もう二度と読みたくない10冊」のほうだ。私は基本的に本が好きなので、どんな刊行物でもそれなりに楽しめちゃうのだ。うーん、乙一『夏と花火と私の死体』とか? 駄作どころかものすごい傑作。著者はこれをわずか16歳の時に書いているんだよね。その天才っぷりを思うと自分の凡庸さに死にたくなるから「もう二度と読みたくない」のだ。(とか言いつつもう五周ぐらいしてる)
本当の駄作って、たぶん記憶にも引っかからない作品のことをいうんだろうな。