デマこい!

「デマこいてんじゃねえ!」というブログの移転先です。管理人Rootportのらくがき帳。

現実世界の少女たち(と、少年たち)

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以前にも書いたけれど、桜庭一樹さんの小説では「少女=守られる、少年=守る」という構図がはっきりとしている。ただし、それは男女が一対一の場合だ。集団対集団になったとき、男女の関係はまた違った姿を見せる。そこにちょっと違和感を覚えたので、実際に街に出て観察してみた。今回はその報告。あと、何度も言いますが、桜庭一樹さんは女性作家です。


桜庭一樹さんの小説では多くの場合、主人公は中学生だ。十二歳〜十五歳ぐらいの子供たちが活躍する。で、女の子の集団がキャッキャウフフと騒ぎ、男子の集団はゲームの話とかしながら、そんな女子を醒めた目で見ている――という描写が何度も登場する。桜庭一樹さんの作品では、男子たちはどこか大人びた姿として描写されているのだ。(そう感じるのは俺だけかもしれないけど)
ところが自分が中学生の頃を思い出してみると、男子よりも女子のほうがずっと大人びているように見えた。そもそもカラダの作りだって女の子のほうが先に大人と相違ないモノになっていくわけで、童貞力をみなぎらせた俺は女子に話しかけられると目のやり場に困った。力ずくで目を合わせながら喋っていたけれど、ちょっとでも気を抜けばすすすーっと視線が下の方に向かっていきそうで、ああ男子ってなんてバカなんだろう! 情けないったらありゃしない! ――と、内心、頭を抱えていた。
とにかく当時の俺には、女子は自分よりもずっと賢くて、大人で、向かうところ敵なしって感じに見えたのだ。
だからこそ、桜庭さんの作品で描かれる男女の関係性に違和感を覚えたんだよね。「女子はうるせーなー」「さわぐなよー」みたいなスカしたことを言う男子集団は、主人公の少女よりもずっと大人びた存在に見える。



うーん、そんなもんだったかぁ!? 現実の中学生はどうなんだろう??



そんなことを考えながら街を歩くと、嫌でも視線がすすすーっと中学生たちに向かってしまう。ご存じのとおり俺は京都に住んでいて、今の時期はそこらじゅうに修学旅行生がうろついているのだ。台風近づく悪天候の中、彼らは寺町・新京極の界隈を闊歩している。タリーズでコーヒーを飲みながら、俺はひたすら制服姿の彼らを観察していた。いつ通報されてもおかしくない。
正直、驚愕したよ。たしかに桜庭一樹さんの作品に描かれる通りではないか!
雨が降っていても、女の子たちは元気満点。手を取り合って買い物を楽しんでいる。箸が転んでも可笑しい年頃――って、もう少し年上の子をいうんだっけ? 何でもないことですぐに爆笑する。それこそ「傘が濡れている」とか、「地面が滑りやすい」とか。俺みたいなオッサンには理解不能なことで笑いの火が付く。あと、自分がセーラー服属性だと気付かされました。高校生ならブレザーの一択だけど、中学生ぐらいの子はセーラーのが可愛いね。
一方で、彼女たちに付き従う男子たちは醒めた顔をしている。「ったく、何がおかしーんだよ」とでも言いたげなスカした表情だ。キャッキャウフフと騒ぎまくる女子の後ろを、かったるそうに歩いている。ああ、なるほどね。桜庭さんは男子たちのこういうところを見て、作中であんなふうに描いたのか――。そこまで考えて、俺はあらためて桜庭一樹さんが女性作家だということを思い知った。女子の眼から見ると、男子の「つまんねーの」みたいな顔はクールで大人びたものに思えるのかもしれない。
種明かしすると、本当はクールでもなんでもないんだよね。
じっと押し黙っているのは下手なことを言って女子に笑われたくないからだし、最悪、嫌われるようなことがあったら取り返しがつかない。だから口を閉ざして「これだから女子は〜」と大人ぶった態度を取ってしまう。女子と一緒になって素直に楽しめばいいのに、オトコノコってこういう部分で面倒くさい生き物なのだ。
なにより中学生男子といえば、童貞力がピークの時期である。女子と一緒のグループで歩きながらも、頭のなかは桃色な妄想がどんどん広がっていき、それを悟られまいと、ますますスカした表情を作るのだ。なにしろ、雨で女子の髪が濡れている――というだけでエロスを感じられる年齢だ。女子の濡れた背中から下着のヒモでも覗こうものなら、野性的情動と人間的理性のあいだで板挟みになり、罪悪感に包まれながらもついつい脳内HDに画像を保存してしまう。そんな本性を、女子には絶対に教えられない。だから何でもない顔をしつつ、三歩ほど後ろを歩いて彼女たちの背中やスカートの裾を観察する。それが男子中学生。
しかも修学旅行だ。いつもの街を離れた、非日常の世界だ。
童貞力のみなぎる男子中学生の脳細胞は、妄想を繰り広げるのに必死。女子との会話するような余力はない。万が一にも好きな子と同じ班になってしまったら、それこそ大変なことになる。(以下妄想)どうしよう、このまま二人で他の班員とはぐれちゃったら・・・・・・。お、お、俺がきちんとリードして、かっこいいところを見せなくちゃ。いやいや、ちょっと待て。すぐに他の班員と合流するのはもったいなくないか? せっかく二人きりになれたのだし、ここは京都の町をさまよったほうが美味しい。うん、じつに美味しい! しかも運悪くケータイの充電も切れて、仲間と連絡がつかなくなっちゃうのだ。いつまで経っても集合場所にたどり着けず、彼女のほうから「ねー、疲れたー><」とか言い出すわけ。んで、俺は「ったく、しょーがねーなー」とか答えながら、マンガ喫茶に入るんだよね。やましい気持ちはないよ? 無いんだよ? ケータイの充電しなくちゃいけないし、ネットで地図も見られるし。――って、受付するときに彼女は迷いなくカップルシートを選んじゃうわけ。ええ!? これってもしやフラグですか!? 個室だよ? フラットシートだよ? 「カップルシートとかねーわw」って俺がツッコミいれたら、彼女はなぜか不機嫌そうな顔になるんだよ。だから俺も渋々、彼女の望みをきいてあげんの。で、二人でカップルシートに入る。座席は全面フラット。俺たちカラダ密着。うわああ、やばい、やばいって。ケータイを充電器にセットした彼女はちょっとだけうつむきがちに、俺の耳元で囁くんだ。「Rootくん、わたし実はずっと前から――」近い! 顔が近い! ていうかくちびるが――!!
「男子ちゃっちゃと歩きなさいよー」「早くしないとバス行っちゃうよ−?」
「ったくうっせーなー。これだから女子は〜」←現実に引き戻された。



桜庭一樹先生。中学生男子は大人でもクールでも無いです。
ただ童貞力をもてあましているだけなのです。






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