デマこい!

「デマこいてんじゃねえ!」というブログの移転先です。管理人Rootportのらくがき帳。

バカはすぐに「男と女は違う生き物」と言う

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バカでないなら、世の中を知らない人。人間社会の外側に想像力が及ばない人だ。
元ネタはこのニュース:


オスとメス別に進化 証拠発見
http://www3.nhk.or.jp/news/html/20100416/k10013876061000.html



まだソースの論文に目を通していないのだけど、これはニュース編者が悪い。ニュースのタイトルは間違いなく「釣り」だ。勘違いをする人も少なくないはずだ。
1.オスとメスは別々に進化した。
2.だからオスとメスは別々の生き物。
単純すぎる論法で、異性叩きにつながる。


この発見があったからといって「男と女は別の生き物」とは言えない。
「メスになるのに欠かせない因子」が発見されたにすぎない。


たとえばLeftyと名づけられた遺伝子がある。この遺伝子は、身体の左側を作るのに欠かせない因子だ。たとえばヒトの場合、心臓は身体の左側にあるし、胃袋の向きも決まっている(食べ物は左から入って右から出ていく)。Leftyは、このような身体の左右の違いをつかさどる遺伝子だ。同様に身体の右側を作るのに欠かせない因子も存在しているのだけど、だからと言って「身体の右側と左側が別々に進化した」とは言えない。
そもそもこのニュースが前提としているのは、
"これまで生物の基本的な形は、子孫を残すことができるメスで、オスは進化の過程でメスから生まれたと考えられてきました。"
という一般論だ。けれど、この一般論がかなり怪しい。理解が大雑把すぎる。
こういった一般論の論拠となっているのは、オス化する生き物の存在だ。「普段はメスだけの単為生殖を行い、環境が厳しくなった場合にメスの一部がオス化して有性生殖に切り替わる」そういう生き物がいる。ミジンコとか、メクラヘビとか。そういう生き物の生態を観察して、「生き物の基本形はメスだ」という一般論が生まれた。
だけどさー、これって「卵細胞を精子に変化させる方が、その逆よりも簡単だったから」というだけではないのか。「普段はオスとして生活し、繁殖期になると一部の個体がメス化する」そういう生き物がいても、ちっともおかしくない。ただし卵細胞は精子に比べてはるかに複雑なので、精子を卵細胞に変えるのは非効率かつ難しいだろう。結果、そのような生態の生物が生まれなかった。そう考えるほうが自然だ。生き物の基本形にオスメスの区別なんてない。(ていうか「基本形」の定義ってどこらへんなんだろうね)


「同じ生き物か、別の生き物か」を判断するには、いくつか基準がある。昔は、骨格や身体的な特徴を用いていた。今では遺伝的な方法が一般的だ。生きるのに必要な遺伝子のフルセット(=ゲノム)を比べて、どれだけ似ているかを判定する。


想像してほしい。
あなたとチンパンジーとの遺伝的な距離と、あなたと異性との遺伝的な距離を。
日本人男性と白人男性との遺伝的な距離と、同じ日本人の男女間での遺伝的距離を。
少し想像力を発揮するだけで、男女の違いが僅少なものだと判る。身体的な特徴においても同じだ。筋肉の量や、身長・体重の差。犬歯の長さやかぎづめの有無。それらを比較した場合、ヒトは類人猿のなかでも極めて雌雄差の少ない生き物だと分かる。


男女の違いを生みだすのは社会だ。たしかに卵細胞と精子とは別々の進化をたどったのかも知れないが、生殖細胞だけで説明できるほど、ヒトは単純ではない。
だから最後にもう一度、釘を刺しておく。
「男と女は別の生き物」という人間は、バカだ。
ジョークとガチを混同するのは情弱の証拠。




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