三幕構成に従えば必ず面白くなる、というわけではない。
しかし面白い物語には、必ず三幕構成の構造がある。
映画『ザ・グリード』を見ながら、改めてそう思った。
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映画『ザ・グリード』は低予算なB級映画ながら、いまでも人気が高い。テレビの洋画劇場で放送されるときは、かならず一定の視聴率を叩きだすそうだ。スピーディーな展開で、ラストまで飽きさせない。この映画の魅力はシナリオの良さだ。
◆三幕構成とは◆
三幕構成とは、物語を四等分して構成する方法だ。(このブログでは何度もしつこく扱っている)
最初の四分の一が第一幕、
四分の二〜三が第二幕、
最後の四分の一が第三幕と呼ばれる。
そして全体の半分の地点には、物語の方向性を決める「ミッドポイント」があるとされている。
映画『ザ・グリード』の上映時間は106分。したがって第一幕の終わりはおよそ26分後、ミッドポイントに相当するのは、およそ53分後。さらに第三幕がはじまるのは、およそ79分後だ。
◆ミッドポイントの役割◆
この映画では、モンスターの姿がひた隠しにされている。そうすることで「何が起こっているのか分からない恐怖」を演出している。モンスターの容姿が画面に映るのは、上映後およそ55分後、すなわちミッドポイントだ。
ミッドポイントの役割は、物語の方向性を決めることだといわれている。そして『ザ・グリード』は、平たく言えば「モンスターから逃げる」映画だ。
つまりこうした演出のタイミングも、きちんと上演時間から算出されているのだ。
◆三幕それぞれの動き◆
第一幕は、主要な登場人物の姿が交互に描かれる。
「1.密輸船の船長をしている主人公の姿」
「2.豪華客船でスリを働くヒロインの姿」
「3.豪華客船に乗ったその他大勢」
大きく分ければ、上記3つのお話が、並行して描かれる。
船が「何か」に襲われたことで「3.その他大勢の乗客」はパニックに陥る。「2.スリを働いたヒロイン」は、犯行がばれて監禁されていたため、難を逃れる。そして「1.密輸船の船長である主人公」は、テロリストとともに豪華客船へ乗船する。
船がモンスターに襲われるシーンの直後に、主人公たちが乗り込むシーンが来る。このシーンは、上映からおよそ23〜27分後――すなわちこれらのシーンが、第一幕・第二幕の区切りとなっている。
第二幕の前半は2つのラインで進む。ひとつは「テロリストのリーダー/ヒロイン」のライン。もうひとつは「主人公/死亡するテロリスト」ラインだ。第二幕の開始直後、テロリストと主人公は、豪華客船に誰も乗っていないことを知って驚く。異常な事態に困惑する。その後、二手に分かれる。
二手に分かれた後、テロリストのリーダーたちは金目の物を探して客室を巡回する。そしてヒロインや、その他の船の生き乗りを発見する。一方、主人公たちは機関室に向かい、自分たちの密輸船の修理に必要な部品を探す。それぞれのラインで「異常な事態」が演出される。 あと忘れちゃいけないのは「密輸船に残った人たち」か。彼らは主人公一行のなかで一番最初にモンスターの餌食となる。
バラバラになった主要な人物たちは、同じエレベーターに偶然乗り合わせる。そして行動を共にし、安全地帯と思しきロッカールームに逃げ込む。
このロッカールームでのシーンがミッドポイントだ。事件の黒幕が明らかになり、また、モンスターの姿が登場する。地味にヒロインが着替えているのだけど、B級お約束のお色気シーンはない。ここでサービスシーンを入れると、ミッドポイントが崩れて物語がダレるからだろう。
第二幕の後半は、ロッカールームから甲板に向かうのが目標だ。モンスターの襲撃があり、仲間の裏切りがあり、息をつかせぬ展開で観客を引っ張る。甲板に出た登場人物たちは、近くに島があることを発見。船から脱出し、その島に向かうことに決める。
「モンスターを倒して島に向かう」という目標のために行動を起こすのが、上映開始からおよそ78〜80分後だ。すなわち全体の3/4にあたり、三幕構成に当てはめれば、第二幕・第三幕の区切りになる。
第三幕は「黒幕(悪役)の排除」があり、モンスターとの最終決戦がある。「ガン飛ばすんじゃねえ」の名台詞が印象的なモンスターとの戦闘、船の廊下をジェットスキーで走り抜ける脱出シーン。そして豪華客船の最期が描かれて、クライマックスは終了。
最期の5分は「オチ」だ。
◆ここから何を学ぶか◆
映画『ザ・グリード』のシナリオを三幕構成の視点で分析すると、そのシーンの多さに驚かされる。とくに第一幕は、主要な登場人物を別々に動かし、三つの物語が同時に進行する。わずか26分。単純計算で、ひとつの物語に9分も割いていない。短いシーンの連続だ。
映画『ザ・グリード』の魅力は、飽きさせないシナリオ展開にある。スピーディーな物語を支えているのは、シーンの多さだ。そしてこの作品では、登場人物がすぐに別行動を取る。はっきり言って死亡フラグだけど、個別行動が多いことで、シーン数の多さに必然性を与えている。
個別行動が増えればシーン数を増やせる/シーン数が多いと、同じ長さの物語でもスピード感を感じる/このあたりは小説を書く上でも参考になる。その一方で『ザ・グリード』の脚本をそのまま小説にしても面白くないだろうと予想できる。あの物語は「映像の面白さ」に少なからず支えられているからだ。
モンスターから逃げるシーンすべてに当てはまるが、登場人物の行動をそのまま文章にしてもあまり面白くならないだろう。「運よく助かる」の連続で、偶然に支配されてしまう。たとえば福井晴敏は、緊迫したシーンを書かせたら日本一の作家だと思う。彼の描く戦闘シーンは、どれも極めて理屈っぽい。戦況の変化は、すべて必然的なものとして書かれる。偶然に支配されたシーンが面白いのは、派手で、工夫の凝らされた映像だからだ。映画ならではの面白さなのだ。
◆まとめ◆
1.やっぱり三幕構成はキホンだよねー。
2.シーンを増やせ!そのためには登場人物を別行動させて、同時並行的にお話を進めろ!
3.映画ならでは(映像ならでは)の面白さがあることを認識すること!
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