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8つのステップで書く小説/サルでも書ける短編小説篇

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《短編小説の書き方/実践》

 前回の更新では、『とある科学の超電磁砲』の二次創作を行った。「暴力表現が酷すぎる」「萌えが足りない」などの問題を抱えているものの、「目標設定→達成」の流れや、「伏線→回収」の流れなど、ある程度はできていると自負している。小説を書き始めたばかりの頃は文章を書くことに目を囚われて、ストーリーを書くことが出来なかった。
 いわゆる「ハウツー本」には小説を書く際のTipsが載っている。けれど、それらTipsを実践的に用いるのは簡単ではない。いうまでもなく、理論と実践は違う。やれ「三幕構成」だ、「対立構造」だ、「伏線回収」だ、と知識を詰め込んでも、それを実際の創作に活かせなければ無意味だ。
 そこで、このエントリーでは、私がどのような手順であの小説を書いたのか説明する。いわゆる「創作技巧論」的なものを、きちんと活かせているかどうか確認したい。



なお、本文に入る前に、一読していただければ幸いです。
レベル5じゃ足りない』(「とある科学の超電磁砲」二次創作)








1.テーマの設定


「小説を書きたいなぁ」と考える人は多い。そして大抵の場合、プロローグを書き、第一章の最初のほうを書き…………挫折する。作品を一本書きあげるのは簡単なことではない。よほどの才能に恵まれない限り、技術なしには完結させられない。しかし、少なくとも「書きたい!」という気持ちがあったはずだ。その時、いったい「何を」書きたいと思ったのだろう。ここでいうテーマとは、創作の動機となるもののことをいう。百人のワナビが百人とも持っているものだ。
『レベル5じゃ足りない』に関していえば、「レベル4以上の人が活躍しないお話」を書きたいと思った。「人間の本当の強さとはスペック上の強さではない」という私の持論を、小説というかたちで表現したかった。
なお私の経験から言って、慣れないうちはあまり高尚すぎるテーマを選ばないほうがいい。創作初心者のうちは、お話を書くことだけで手いっぱいなはずだ。難しいテーマを選ぶのは、準備運動もせずに海に飛び込むようなもの。最初は、カンタンなテーマを使って「お話を書く」ことに全力を注いだほうがいい。失敗談をすれば「中立進化仮説に基づいた人類の進化とジェンダーの限界(笑)」というテーマでSF小説を書こうとして、頓挫したことがある。作品の規模は原稿用紙500枚ぐらいにする予定だったのだが、書きたい内容が多岐にわたりすぎて、当時の私にはまとめ切れなかった。今ならもう少しまともなプロットを引けるはずなので、いずれ、この失敗したテーマにも再チャレンジするつもりだ。




2.世界観を決める


今回の場合は二次創作なので、このステップは必要なかった。ベースになる世界観や人物像をまるっきり借りてきた。




3.オチ(結末)を決める


「人間の強さはスペックじゃない」というテーマを選んだ以上、御坂美琴に活躍してもらっては困る。むしろ「最強のはずの美琴が、無能力である佐天涙子に助けられる」というシーンが書きたい。ここから、クライマックスの「美琴が男たちからフルボッコになり、涙子がそれを止めようとする」シーンを書くことにした。




4.アイディアを集める


「美琴が男たちからフルボッコになり、涙子がそれを止めようとする」
このクライマックスシーンに至るために、どのような過程が必要かを考えた。


まず、美琴がフルボッコになるためには「能力が使えない」という条件が必要になる。したがってキャパシティーダウンを登場させることにした。また「美琴がなぜそんな危険な場所に立ち入るのか」にも理由が必要だ。ジャッジメントでもなんでもない美琴は、そう簡単に犯罪に巻き込まれるとは思えない。美琴が「うっかり捕まる」ところなんて想像しづらいし、私の筆力では説得力のあるシーンを書けないと判断した。ここから「仲間を救出に向かう」というお話の方向性が決まった。
では「仲間」を誰にするか。超キャパシティーダウンを登場させるのだから、能力者である白井黒子のほかに選択の余地はない。また読者を掴むには「緊迫感」が必要になる。タイムリミットの設定は、そうした緊迫感を演出するための常套手段だ。
以上のことから、「白井黒子が人質になり、ネットで生放送され、タイムリミットまでに助けなければ大変なことになる」というお話の基礎骨格を思いついた。


涙子が活躍するためには、彼女が男たちに対して発言力を持っていなければならない。「旧知の仲」ならば、ある程度の発言力を確保できるだろう。そう考えて、犯人を涙子の幼馴染にした。では涙子は、どうやって犯人たちの居場所を突き止めるのだろう。ここで、初春飾利に協力させることにした。初春が活躍するためには「犯行現場をコンピューターだけで探し出せる」ようにする必要がある。で、「遠距離からの無線LANただ乗り」というアイディアを思いついた。
初春飾利を登場させることに決めて、お話の結末も定まった。「電力ネットワークをハッキングしてダウンさせる→能力が使えるようになる→全員無事に脱出、解決」という流れを思いついた。とはいえ、ここで美琴がビリビリすると、テーマがぼやけてしまう。このお話のなかでは、美琴にはあくまでも「役立たず」であってもらわなければ困る。少なくとも、美琴よりも能力のレベルが低い者によって救出されなければならない。そこで、固法先輩を使うことにした。


こうして、必要なアイディアがおおむね揃った。




5.枚数を決める


アイディアの量、質から、総枚数を決めた。ブログで公開することを最初から念頭に置いていたので、あまり長いものは書けないと最初から判っていた。小説の賞を参考にすると、400字詰め原稿用紙でおよそ100枚までが「短編」と見なされるらしい。電撃小説大賞の様式(42字×34行)ならば30ページ。私がふだん使っている(40字×40行の)様式なら、およそ27〜29ページだ。このあたりは経験と勘に従うしかないのだけれど、今回のお話は原稿用紙100枚まるまる書くほど複雑なものではない。したがって40字×40行の様式で、25〜26枚に収めるのを目標とした。



6.プロットを引く


プロットには種類がある。お話を俯瞰できるような、大雑把に要約したものがある一方で、各シーンの登場人物の動きまでもメモした、詳細なプロットもある。私の場合、大雑把なものをまず準備して、その後、徐々に細かく煮詰めていく。短編小説の場合ならば、だいたい二つの段階を経て、プロットを準備している。



6−1.まず、お話の大雑把な流れを整理したものを作る。


「黒子が人質に取られ、生放送される/美琴は救出のために走る」
「涙子も生放送に気付き、動き始める」
ジャッジメント、アンチスキルもそれぞれ動く」
「犯人たちの生放送は続く/危機感をあおる」
「涙子と美琴が合流する(美琴が涙子を追跡する)」
「涙子、犯人と対面」
「美琴がピンチに陥る/涙子の一言」←書きたかったシーン
「電力ネットワークが落とされる/固法によって救出される」
「残った伏線を回収/涙子と初春との会話」


拙作『レベル5じゃ足りない』の場合は、上記のとおり。本当に「大雑把な流れ」だけに注目したプロットだ。ごく簡単なものなので、紙には書きださず、脳みその中だけで完結させることも多い。重要なのはこの後だ。



6−2.シーン単位まで決めたプロットを引く


大雑把な流れを把握したうえで、今度はシーンを決めていく。
ここで思い出したいのは、三幕構成だ。
第一幕には「セットアップ・第1ターニングポイント」
第二幕には「ミッドポイント・第2ターニングポイント」
第三幕には「クライマックス・レゾリエーション」
が、それぞれ含まれている。この理屈に従い、先ほどの大雑把な流れのどの部分が、それぞれのポイントに相当するかを考えていく。すると、以下の通り。



「黒子が人質に取られ、生放送される/美琴は救出のために走る」←セットアップ
「涙子も生放送に気付き、動き始める」←第1ターニングポイント
ジャッジメント、アンチスキルもそれぞれ動く」
「犯人たちの生放送は続く/危機感をあおる」
「涙子と美琴が合流する(美琴が涙子を追跡する)」←ミッドポイント
「涙子、犯人と対面」
「美琴がピンチに陥る」←第2ターニングポイント
「美琴を涙子が助ける」←以下クライマックス
「電力ネットワークが落とされる/固法によって救出される」
「残った伏線を回収/涙子と初春との会話」←レゾリエーション



三幕構成を用いた場合、各幕の長さは「第1幕:第2幕:第3幕=1:2:1」となるのが基本型だ。全体を40字×40行で25〜26枚に設定した場合、
・第1ターニングポイント:だいたい6〜7枚目
・ミッドポイント:だいたい12〜13枚目
・第2ターニングポイント:だいたい19〜20枚目
に相当する。私の場合、ひとつのシーンに平均して3枚ほど使う。したがって8〜9シーンでお話が完結しなければならない。
以上のことを念頭において書いたプロットが、以下の通り。※飛ばし読み推奨




 === === === === === ===


1.美琴が動画を見る(場所:道路)
※動画の内容を書く:黒子のピンチ!


2.涙子が動画に気付く(場所:シェルター/視点:小萌)
※社会背景に触れる:後半での涙子の台詞の土台を固めるため
※幼馴染の男について:オルヤの伏線
※涙子は慌てて飛び出す


3.ジャッジメント第177支部事務所(視点:美琴)
>3−1:固法と初春との二人に動画のことを伝える/第1ターニングポイント
※固法が透視能力者だと書いておく(伏線)
※初春はなぜかヨソヨソしい態度を取る(佐天との秘密を守っているから/「初春が怪しい?」と読者をミスリードできればなお良い)
※なぜ黒子が捕まったのかを三人で推理
※固法、アンチスキルに合流するため退室
>3−2:美琴と初春との口論
※生放送が再開される/動画を止められなくなる(しかし、それにより初春はアジトを見つけられる)
※美琴は退室する
>3−3:初春の電話(相手は不明/じつは佐天と話している/ミスリードになれば万々歳)
※ミッドポイントの候補


4.美琴が涙子を発見(場所:道路/視点:美琴)
※ミッドポイントの候補
※涙子のあとを追ける
※美琴が無能力者のことをどう思っているのか書く(美琴の行動や発言には支離滅裂な部分がある。原作小説の「脳に電極ぶっさして〜才能が無いというしか」の台詞はその代表例。でも人間ならばそのくらいの二面性を誰でも持っている。その二面性を書く)


5.動画共有サイトの生放送(視点:初春)
※タイムリミットが迫る。「さあ、次の一枚を脱いでもらおうか」的な展開に。
※涙子が動画のなかに登場「ちょっと待ちなさいよ!」


6.涙子と幼馴染との会話(場所:地下室/視点:美琴)
※美琴は物陰に隠れている。能力が使えない。頭痛。
※涙子の説得「エサを待つヒナ鳥みたい」→相手は心を変えない
※美琴が男たちに発見される/第2ターニングポイント
※美琴フルボッコ→涙子がキレる
「犯すなら私からやりなさい!」


7.初春の電話(相手は不明/じつは固法と話している)
※カウントダウン/ここで初春の電話を挿入するのは、視点を無理やり切り替えるため。長いシーンを書く必要はない。一枚以下でサクッと済ませる。


8.暗転する地下室(視点:美琴)
※固法先輩の声/黒子救出
※美琴は「なにも出来なかった自分」と向き合う


9.初春と涙子の会話(無視点/会話のみ)
※残った謎や伏線を回収する
※テーマをもう一度繰り返してED



 === === === === === ===



このプロットではシーン3「ジャッジメント第177支部事務所」が、さらに3つに細分化されている。そのため、実際には12シーンに相当する。これは先述した「8〜9シーンで完結させる」という記述と矛盾してしまう。が、いちばん最初のシーンは読者に対する「掴み」であるため、無駄をそぎ落とし1枚〜2枚に収めたい。また「初春の電話」のシーンが2回あるが、これも短く済ませるべき部分だ。したがって、およそ9シーン程度という概算から大きく外れるものではない。
また、プロットにはない小萌のシーンが、作品の本文では追加されている。本文では涙子が「犯すなら私から〜」と叫んだあと、「7.初春の電話」の前に、シェルターの様子が挿入されている。第2ターニングポイントまで書いたときに、このシーンを挿入することに決めた。なぜなら、無線LANへのタダ乗りという真相解明が準備されているが、その伏線が弱いと気づいたからだ。枚数にも余裕があったのでシーンを追加した。あと小萌先生はいい女だから出番を増やしたかった。
したがって上記のようなプロットも、固定的なものではない。書いている途中に気付くことがあれば、適宜、修正するべきだ。




7.書く


プロットを立てたら、あとはひたすら書くべし、書くべし。
ただし経験上、ミッドポイントまで書いたら一度読み直したほうがいい。お話の後半に登場するエピソードは、すべてミッドポイント以前に伏線、原因がある。取りこぼした伏線がないかどうか確認する。




8.推敲


私の場合、書きあげてから最低3回は読みなおしている。
一度目の推敲では「日本語としておかしい文章」など、読むに絶えない部分を修正する。また同時に、シーンの配列に無理がないか、より効果的なシーン配列がないかを検証する。
二度目の推敲では「言葉遣い」を直す。比喩表現が効果的に使われているかどうかなどを確認、検証する。
三度目の推敲では「誤字脱字・言い間違い」を直す。
要するに「大局的な視点→細かな部分」という順序で推敲している。




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1.テーマの設定
2.世界観を決める
3.オチ(結末)を決める
4.アイディアを集める
5.枚数を決める
6.プロットを引く
7.書く
8.推敲



以上、8つのステップで小説を書くことができる。ここに「9.友達に読んでもらい感想をもらう」を足してもいいかも知れない。人に読んでもらうと作品の質は一気に向上する。
もっと大雑把に捉えて、3つのステップで考えることも出来る。


A.お話を作る準備段階
B.実際にお話を書く段階
C.お話を書きあげた後、完成度を高める段階


この場合、先述の「1.テーマの設定」から「5.枚数を決める」までは、すべて「A.お話を作る準備段階」に相当する。事実、1〜5のステップに関しては、同じ手順を何度も繰り返したり、同時並行で決めたりする。アイディアを集めているうちにテーマが変わることは少なくない。また全体の枚数は、アイディアを集める前から決めておいてもよい。
「B.実際にお話を作る段階」には、「6.プロットを引く」と「7.書く」というステップが含まれる。じつを言えば「7.書く」というステップは、かかる時間や手間のわりに、あんまり重要じゃない。いちばん重要なのはお話全体の流れを決めるプロットだ。今回は、「大雑把な流れを決める→シーンごとのプロットを立てる」という二段階の方法を紹介した。しかし長編小説の場合は、これに第三段階:各シーンでの出来事をさらに詳述したプロットを立ててもいいだろう。長編小説の場合、書いている途中に微調整をするのが難しく、わずかな修正が大きなほつれの元になったりする。あらかじめ細かな部分まで決めておけば、そうした危険を回避できる。
「C.完成度を高める段階」とは、「8.推敲」だ。この部分の重要さについては、いまさら言うまでもない。




以上のステップに従えば、とりあえず「プロローグだけの大作」を減らすことができる。お話を最後まで書くことができるだろう。なにより忘れてはならないのは未完の最高傑作よりも書きあがった駄作のほうが価値があるということ。まずは短編でもいいから、お話を最初から最後まで書きとおすことが大事だ。



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