デマこい!

「デマこいてんじゃねえ!」というブログの移転先です。管理人Rootportのらくがき帳。

なぜ『とある科学の超電磁砲』は不気味なのか/ノーテンキな明るさの背後に潜む「どす黒い未来予想図」

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現在、絶賛放送中の深夜アニメ『とある科学の超電磁砲
東京の西部に作られた学生と教師だけの街「学園都市」を舞台に、超能力を持った中学生たちが右往左往するお話だ。登場する超能力者たちは、放電、瞬間移動、重力操作などやりたい放題で、「科学考証? こまけえこたぁいいんだよ」という大らかなノリのSF作品である。
登場人物たちのデザインが可愛らしいこともあり、たいへんな人気を集めている。



で、その学園都市の治安が悪すぎるという疑問がある。

http://www.syu-ta.com/blog/2010/01/17/061659.shtml



学生ばかりの街だから、当然のように落ちこぼれがいる。
そして落ちこぼれたちが不良となる。そこまではいい。

しかし、落ちこぼれたちの凶悪っぷりがヤバいのだ。

第一話から銀行強盗をするし、女の子が夜道を歩けば確実に襲われる。傷害なんて当たり前、果ては拳銃さえ手に入れている始末。警察がいない街なので、治安の維持に奔走するのは教師や学生の有志だ。
凶漢と化した落ちこぼれどもを、主人公たちがバッタバッタとなぎ払う――そのカタルシスを楽しむストーリーだ。


ここに疑問がある。
学園都市には、選ばれた人間しか住むことができない。超能力の才覚があると認められた者しか、学園都市内の学校に通うことはできない。超能力者の体質を持つ子供たちが、日本全国から集められている。
いわば「エリート集団」だ。
にも関わらず「能力がない」という判定を下されただけで、あそこまでグレるものなのだろうか。一足飛びに凶悪化しすぎではないのか。

で、少し妄想してみた。



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あの作品に描かれているのは、ちょっと先の未来だ。

はてな界隈の通説に従えば、少子高齢化が進み、格差社会はもはや是正しようの無い状態まで進んでいるはずだ。地方都市は疲弊しきっており、もはや仕事も希望もない。有能な人材・有力な企業は次々に国外へと流出していく。日本はゆっくりと滅びようとしている。

もっとも強い者が生き残るのではない、もっとも適応力のあるものが生き残る。

しかし時代の流れにこの国は対応できなかった。それでもはてな界隈の言説に従えば、この国を動かしている老人たちは「技術立国」の栄光を忘れることが出来ないだろう。科学の力でふたたび美しい日本を取り戻すために、技術開発・科学研究の拠点を都心のすぐそばに作り上げた。それが、学園都市だ。つくばの立場が無い。



「学園都市」が超能力開発に力を入れているのは当然だ。かつてIT革命の際に、日本は欧米の後塵を喫した。シリコンバレーに打ち勝つことが出来なかった。だが間違いなく、超能力の存在は科学技術の新たなブレイクスルーをもたらす。電子産業での敗北と同じ轍を踏まぬため、日本は超能力開発を急いだ。

つまり学園都市そのものが、急ごしらえの街なのだ。
そのため、しくみの部分に様々な不備がある。国家予算は科学技術の研究へと注がれており、その他の行政サービスにはあまり金が回ってこない。警察がいないのも、これで説明がつく。犯罪に巻き込まれるのは自己責任なので、それが嫌なら自分たちで身を守るべき――、これが政府の見解なのだ。これにより学生・教師の有志による自衛集団が生まれた。

超能力者の体質を持っているからといって、全員が超能力を発揮できるわけではない。落ちこぼれが生じることは「学園都市」の構想段階で明らかだったはずだ。
しかし日本政府は、その落ちこぼれが凶漢化することまでは考えていなかった。なにしろ学園都市に集まるのは選りすぐりのエリートだ。優等生ばかりの進学校では、暴力事件が起こりづらい。それと同様に、学園都市でも極端に凶悪な不良は生じえないだろう――。政府の上層部は高学歴・名門家系のおぼっちゃんだ。殴り合いの喧嘩なんてしたことのない彼らは、考えが甘かった。



学園都市には、全国から子供たちが集められている。
つまり、疲弊した地方都市からだ。

子供たちには帰る場所がない。出身地に戻っても仕事はなく、将来に望みはない。『とある科学の超電磁砲』の時代背景は、現在よりもさらに貧富の差が激しくなった世界だ。所得の固定化が進み、貧乏人の子供は貧乏人になるしかない。貧困から脱出するには、「体質がある」と認められ、学園都市へ行くしかない。

学園都市へ行くこと――、それはあの時代の子供たちに残された、唯一の希望だ。

そして希望が大きいぶん、「能力がない」と明らかになったときの絶望は深い。まして、思春期の子供たちだ。超能力なんて無関係に、自分とは何者なのか、何のために生きているのかと思い悩む。その繊細な時期には、あまりにも重たい絶望なのではなかろうか。「お前に明るい未来はない」「田舎のシャッター街で暮らすのだ」「アマゾンやグーグルの経営する農地で、農奴として働く一生なのだ」そういう暗い未来像を押し付けられ、子供たちはグレる。手がつけられないほど凶悪化する。

学生寮を抜け出し、徒党を組むようになる。


ここで思い出してほしいのは、しくみの部分に様々な不備があることだ。

警察が無いことをはじめ、学園都市の行政サービスには行き届かない点が多々ある。そもそも「学生」という身分は、親の庇護のもとにあって当たり前だ。少なくとも政府の上層部はそう考えるだろう。当然、セーフティネット的な仕組みはない。普通の学生生活からドロップアウトした時点で、子供たちは生活の手段を失う。奨学金的な制度は受けられなくなるし、寝泊まりする場所にも困るだろう。親からの仕送りなんて、そもそも期待できない。仕送りができるような「中流」の家庭など、あの時代の日本では絶滅危惧種なのだから。



で、行き着く先は、銀行強盗や違法な銃器の取引。

治安の悪さは、まったく疑問を抱くに値しない。あの街の構造的欠陥によるものだ。考えの足りない大人たちのもたらした当然の帰結だ。はてな界隈っぽく考えれば。



構造的な欠陥がある以上、それを埋めなければ解決できない。
いくら犯罪者を捕まえても、新たな犯罪者が生まれるだけだ。


つまり学園都市に必要なのは、相互扶助の仕組みだ。
夜回り先生」のように、ドロップアウトした子供たちの悩みを受け止め、心の面からケアをする人物が必要だろう。また匿名で利用できるシェルターのような場所が必要だ。落ちこぼれとなった学生を一時的に受け入れ、精神的に立ち直るまでケアする施設だ。「ドロップアウト→不良化→違法行為」という流れを断ち切る必要がある……



……この施設をネタに、同人小説でも書いてみようかな。

※書いてみた↓↓
http://d.hatena.ne.jp/Rootport/20100217/1266420246



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参考)

「学園都市は養鶏場、御坂御琴は極上ブロイラー」-シロクマの屑籠
http://d.hatena.ne.jp/p_shirokuma/20100209/p1


とある科学の超電磁砲 第9話感想・考察個人的まとめ -WebLab.ota
http://d.hatena.ne.jp/n_euler666/20091201/1259684567


『バカテス』の遊び、『超電磁砲』の躓き -EPISODE ZERO
http://d.hatena.ne.jp/episode_zero/20100207/p1


『バカテス』の世界における「負の要素」の排除と「遊び」の要素 –流し斬りが完全に入ったのに
http://d.hatena.ne.jp/str017/20100209





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