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デマこい!

「デマこいてんじゃねえ!」というブログの移転先です。管理人Rootportのらくがき帳。

誰があなたの作品にカネを払うのか

冗語
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ニコニコ動画やPixivの成功だけを見て、「クリエイターへの門戸が開かれた!」「みんながモノ作りでカネを稼げるようになった!」と喜ぶのは早計だ。これらCGMが社会全体・経済全体から見てどのような位置にあるのかを考察したほうがいい。近視眼的に見ては全体を見誤る。
CGMとはConsumer Generated Mediaの略で、ユーザーの製作したコンテンツを「売り」にするメディアのことだ。たとえば食べログやクックパッドは典型的なCGMだと言えるし、Amazonレビュー機能CGMだ。当然、ニコニコ動画やPixivもCGMに含まれる。
そもそもCGMには、ハイ・クリエティヴィティが求められるものと、そうでないものがある。食べログ価格.comなどは、あまりクリエティヴィティを求めないメディアだ。一方、絵を描いたり音楽を作ったり、それを動画にしたり……。ニコ動やPixivのユーザーは高いクリエティヴィティを要求される。
重要な点は、人類みんながハイ・クリエティヴィティを持つわけではないということだ。思い出してほしい。絵の上手いやつはクラスに1人いるかいないかだった。抜群にギターの上手いやつは学校に1人しかいなかった。
そもそも「モノを創りたい!」と考えるやつは少数派なのではないか?
ここを見誤るとすべてを誤解する。



5人に1人、もしかしたら10人に1人しかいない「モノを創りたい人」が、ニコニコ動画やPixivに作品を投稿している。ニコ動だけを見ていると、残りの4人〜9人の存在に気づくことができない。もともと少数派の「モノ創りたい人」のうち、さらに一握りがプロになる。
では、なぜ「モノ創りたい人」はプロになるのだろう。絵を描くのも作曲も作文も、労働集約的で家内制手工業的な業種だ。一言でいえば労力のわりに稼ぎが薄い仕事だ。本業の収入増が期待できるなら、趣味の時間を削ってでもそちらに注力したほうが合理的である。では、なぜそうしないのか。
言うまでもなく、日本では短期・中期での給与所得の増がもはや期待できないからだ。本業でもらえるカネがわずかなら、そちらに注力するよりも趣味からカネを稼ぐほうが合理的選択になる。そして副業から始めた仕事が、やがて本業になっていくかもしれない──。



     ◆



絵を描いてカネを稼ぐには、それを買ってくれる誰かが必要だ。では、誰がPixiv絵師のイラストを買うのか。そのカネはどこから出てくるのか。:金額的ボリュームから言えば、ゲーム業界をおいてほかにないだろう。プレイヤーがアイテム課金したカネが、絵師に流れるのだ。



もちろんPixivユーザーに仕事を発注するのはゲーム業界に限らないだろう。が、問題は金額規模だ。少し古い数字になるが、たとえば2012年のマンガの市場規模は雑誌1,564億円、単行本2,202億円の計3,766億円で、やや減少傾向にあった。一方、2013年の国内のゲーム市場は1兆1,036億円。ことにスマホアプリやブラウザゲームに関しては、なおも成長中だ。ゲーム業界はケタ外れに大きい。
ソシャゲにせよ、アプリやブラウザゲーにせよ、アイテム課金型ゲームほど高収益なWEBサービスはまず存在しない。たとえばアニメのDVDは5000枚売れたら成功と言われて2期が見えてくるという。1巻6000円として3000万円。ソシャゲなら小規模なタイトルでも1ヶ月で売上げる額だ。
二次元のイラストを用いたショー・ビジネスでは、アイテム課金型のゲームがもっとも高収益だ。だから新規参入者が絶えないし、イラストレーターの需要を底上げしている。ゲームの市場規模が大きいということは、それで遊んでいる人がたくさんいるだけでなく、それを作っている人もたくさんいるということだ。Pixiv出身者は様々なメディアにイラストを売っているが、金額的なボリュームではゲーム業界が他を圧倒しているだろう。
これはイラストに限った話ではない。
アイテム課金型ゲームは内容が贅沢になりつづけており、もはやBGMはあって当たり前、販促には美しいPVを準備するし、ストーリーも本格的に作り込まれたものが増えている。作曲できる人、動画を作れる人、シナリオを書ける人等々、様々なクリエイターの需要を押し上げている。
では、誰がゲームにカネを払っているのだろう。アイテム課金型ゲームのユーザーのうち、もっとも数が多いのはどのような人だろう。言うまでもなく「モノ創らない人」だ。ハイ・クリエティヴィティを持たず、絵も描かなければ作曲も動画編集もしない。そういう普通の人たちだ。



ハイ・クリエティヴィティを持つのは、5人に1人、もしかしたら10人に1人しかいない少数派だ。残りの4人〜9人がゲームに課金したカネが、巡り巡って彼らクリエイターの懐に流れている。ニコ動やPixivは、このカネとモノの流れの中間に位置するハブにすぎない。
そしてモノを創らない「残りの4人〜9人」がどこでカネを稼いでいるかといえば、旧来の一次産業や製造業、仮に三次産業だとしてもコモディティ化したマックジョブだ。Everyone, Creatorの理想を実現する日は遠い。




※この図の「ゲーム業界」を他の業界に置き換えても同じ構造が成り立つ。



「インターネットのおかげで誰もがプロのクリエイターになれる」のは幻想だ。
しかし悲観論を訴えたいわけではない。ネットの無い時代には、ニコ動やPixivが無いだけでなく、オンラインゲームも無かった。クリエイティヴ人材の供給だけでなく、需要も少なかったのだ。ネットが可能性を広げたのは事実だ。
私たちの理想は、誰からも支配されることなく、自由に、好きなことだけをして生きていける社会だ。企業から「明日から地球の裏側に行ってくれ」と言われたときに、嫌ですと断れる社会。国家から「死ね」と言われたときに、嫌ですと逃げられる社会。何人たりとも個人の幸福追求を邪魔できない社会。やりたいことだけをして生きていける世界こそが、私たちの理想ではないか。
インターネットはこの理想を実現するツールだ。しかし、私たちは道半ばである。ニコニコ動画やPixivによって「誰もが好きなことをして生きる世界」への第一歩が切り開かれた。CGMは既存の社会に風穴を空けた。が、これはまだ針の先ほどの小さな穴でしかない。
次の一歩は、この穴を守り抜くことだ。
この穴を広げていくことだ。


モノを創る欲求は、誰にも止められない。





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