デマこい!

「デマこいてんじゃねえ!」というブログの移転先です。管理人Rootportのらくがき帳。

インターネットは誰のものか?

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私たちはインターネットに希望を持っていた。
万人の参加できる言論空間が生まれたことで、豊かな社会を作れると信じていた。
インターネット上では誰もが自由に発言できるため、特定の権力者によって「偏向」できない。スポンサーや政府の意向を気にせず情報発信ができる。したがって、より自由で公平な情報供給ができるだろうと期待していた。

初音ミクはなぜ世界を変えたのか?

初音ミクはなぜ世界を変えたのか?

初音ミクはネットの自由の象徴である。



ところが現実には、希望は実現しなかった。
ネット上のニュースサイトは、どこも収益化に苦労しているようだ。たとえばBlogosは日本財団とコラボした企画をしばしば行っている。それ自体はまったく問題ない。が、もしも財団法人などの大手スポンサーなしにWEBメディアの運営ができないとしたら、夢のない話だ。特定の人・組織から独立していなければ、本当に中立なジャーナリズムは期待できない。
WEBメディアは既存のマスメディアと同様、大手のスポンサーがいなければ生き残れないのだろうか。それとも私たちが夢に描いたように、何者にも支配されない自由で公平な情報供給ができるのだろうか。
できる、と私は思う。
理由は2つある。




1.インターネット広告の高収益化
WEBメディアの収益源として基本になるのは、アドネットワーク等を利用したインターネット広告だ。
しかしニュースメディアはPV数を稼げないため、アフィリエイトのみで収益化するのは難しい。最近の成功事例として注目されている東洋経済オンラインでさえ月間4,000万PV前後。人気ブラウザゲームならわずか1日で達成できるであろう数字だ。ゲームではユーザーが画面を何度もリロードするので、PV数が桁違いに多い。結果、1インプレッションあたりの広告単価が引き下げられ、ニュースメディアでは収益を出しづらくなる。ネット広告で稼ぐなら2chまとめブログのほうがいい──、という状況になってしまう。WEBジャーナリズムは稼げないのだ。
しかし、あくまでも「現在は」の話だ。
現在はまだ広告収益は微々たるものかもしれないが、これは広告の単価が安すぎるからだ。将来的に広告単価が値上がりすれば、収益化はより容易くなる。
事実として、インターネット広告費は増え続けている。総広告費に占めるインターネット広告媒体費の割合は、過去5年で増え続けた。



※このグラフは80%から始まっていることに注意。




上記のデータは、電通が毎年発表している「日本の広告費」による。とくに注目すべきは2011年の実績だろう。震災の影響で総広告費は減少したにもかかわらず、インターネット広告媒体費は増となった。広告費全体に占める比率も膨らみ続けている。
インターネット広告費は、今後も増える。
これは、もはや規定路線だと考えていい。
おそらく現在は、インターネット広告費の増加よりも速いスピードでWEBメディアのほうが増えているのだろう。そのため、1つひとつのメディア運営者は広告費増大の実感を持ちづらい状況になっている。
しかし将来、ネットが広告媒体の中心を担うようになったらどうだろう。広告単価が跳ね上がる可能性は充分にあるし、もしもそうなれば大手スポンサーに頼る必要はなくなる。そして、独立したジャーナリズムを実現できるはずだ。




2.クラウドファンディングの一般化
そもそも、なぜニュースサイトを収益化しなければならないのだろう。ボランティアではダメなのだろう。言うまでもなく、充分な取材費が確保できなければ他媒体の転載に頼らざるをえないからだ。2chまとめならぬ「共同通信まとめ」になってしまう。誰もが自由に調査・報道できるというインターネットの理想から離れてしまう。
そこで、クラウドファンディングだ。
CAMPFRIREのようなサービスは、WEBメディアが取材費・運営費を確保する方法として注目に値するだろう。とくに個人運営の小さなサイトではアフィリエイト収入には限界があるし、スポンサーも付きづらい。しかし、読者に直接出資してもらう道が残っている。


べとまる


ベトナム情報サイト「べとまる」は、現地の日本人の間では知らない人がいないほどの人気サイトだ。ホーチミンを拠点に、「ベトナムを、あなたの知ってる国にする。」をモットーに運営されている。管理人・ネルソン水嶋さんの体当たり取材が魅力だ。最近では日本語の分かるベトナム人からも読まれるようになったという。
現在、「べとまる」はベトナム語化を目指している。
目的は、ベトナムを日本に伝えるだけの一方通行ではなく、2つの国をつなぐメディアにすること。記事翻訳と2言語化に伴うサイトリニューアルのための資金集めをCAMPFIREで実施中だ。


ベトナムを魅せるウェブサイト・べとまるをベトナム人も読めるようリニューアルしたい─CAMPFIRE


日本でも「海外の反応」が人気を集めている。自分の国を外国人がどのように見ているのか、みんな興味があるのだ。もしも「べとまる」がベトナム語化されれば、「日本人から見たベトナム」が現地の人々に読まれるようになる。お互いの国をより身近に感じることができるようになり、2国の距離はぐっと縮まるはずだ。
課題があるとすれば、日本では「情報にカネを払う」のが充分に一般化していないことだ。
特別な情報を買うことはあっても、いわば公共の福祉のためのジャーナリズムにカネを出すのは、あまり一般的ではない。自分がカネを出さなくても、ニュースは無料で配信されるものという意識が強いのではないだろうか。WEBメディアがこの意識を乗り越えられるかどうかが、クラウドファンディングの成否を分かつだろう。
また、クラウドファンディングに懐疑的な考え方もあるだろう。カネを出すのが大手スポンサーから個人に変わっただけで、スポンサーの意向を無視できない点で構造的には何も変わらない──、という考え方もあるはずだ。しかし、これは誤解だ。少数の強力なスポンサーが意思決定に影響力を持つのと、無数の個人の合議によって意思決定がなされるのでは意味が違う。独裁と議会制民主主義は違うのだ。



     ◆


「支配階級を占める少数派は進歩によって何も得るところがない。歴史を通じて支配階級が常に技術革新に反対の態度を取って来たのはそのためだ。変化が自分たちに利益をもたらす保証がない限り、彼らは腰を上げない。」──J.P.ホーガン『巨人たちの星』

「教養があって、豊かで、精神的に解放された市民階級の出現を搾取階級は何よりも嫌うんだ。権力というのは富の規制と管理の上に成り立つものだからね。(中略)知識と理性は敵である。迷信とまやかしを武器とせよ」──J.P.ホーガン『巨人たちの星』

     ◆




民主主義は啓蒙とセットだ。社会の構成員の知性を底上げしなければ、選挙は単なる多数決になり、政治は衆愚に陥る。また、自由経済は情報の完全性とセットだ。もしも市場参加者が充分な知識を持たず、合理的な判断ができなければ、自由競争の前提は瓦解する。
ジャーナリズムの役割は、啓蒙と完全情報を果たして世の中を豊かにすることだ。よく「権力の監視」が役割とされるが、これは啓蒙活動の一部である。これらの役割を果たすには情報の中立性と独立性が必須だ。誰もが情報発信をできるインターネットは、理屈のうえではジャーナリズムに最適だった。
しかし現状では、広告だけで収益化を果たすのは難しい。大手スポンサーに依存しなければ運営できない場合もあるようだ。現在のニュースメディアの状況は、私たちがインターネットに抱いた希望からは乖離している。
しかし、だからといって「WEBジャーナリズムは成り立たない」と絶望するのは早い。今後、WEBメディアは広告媒体の中心になりうるし、読者からの直接出資で運営する道もある。諦めるには早すぎる。


希望とは、未来が現在よりも良くなるという信念のことを言う。
たとえ現在がどれほど悪くても、それは希望を捨てる理由にはならない。






※参考
東洋経済オンライン─媒体概要

「2013年 日本の広告費」は5兆9,762 億円、前年比 101.4%(pdf)電通

2012年 日本の広告費電通

2011年 日本の広告費電通

ネット時代のメディアはどうマネタイズすべきか--日経新聞、東洋経済、ヤフー、nanapiらが激論


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巨人たちの星 (創元SF文庫 (663-3))

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