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デマこい!

「デマこいてんじゃねえ!」というブログの移転先です。管理人Rootportのらくがき帳。

ソーシャルゲーム業界は「アタリショック」のように崩壊するのか?

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飛ぶ鳥を落とす勢いだったソーシャルゲーム業界だが、最近は不景気なニュースが続いている。かつては作るだけで売れるし、バカでも儲けられる時期があったのだろう。しかし「コピペゲー」と揶揄されるような粗造・濫造のゲームを連発した結果、そのツケが回ってきたかのように見える。


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新規市場の開拓による急成長と、粗造品の氾濫、そして凋落。
この一連の流れは「アタリショック」を彷彿とさせる。はたしてソーシャルゲーム業界は凋落の一途をたどるのだろうか。それとも市場参入者の増加による競争激化で、儲けが出しづらくなっているだけなのだろうか。



    ◆



アタリショック」とは、1983年〜85年にかけて北米で起きたとされる家庭用ゲームの市場崩壊のことをいう。70年代末〜80年代初頭のアメリカではAtari 2600という家庭用ゲーム機が市場を席巻していた。ところが1982年の時点で約32億ドルに達した北米のゲームの売上高は、1985年にはわずか1億ドルにまで減少したと言われている。現地では「Video game crash of 1983」と呼ばれているらしい。
「起きたとされる」「言われている」「らしい」と回りくどい書き方をするのは、この事件がなかば都市伝説と化していて、諸説入り乱れているからだ。
Atari社のライセンス管理の甘さを原因とする説や、消費者のゲーム離れに原因を求める説、なかには「パソコン用ゲームに嗜好が移っただけでゲーム市場が崩壊したわけではない/アタリショックなど起きなかった」とする説もある。調べれば調べるほど全容がつかめなくなっていく、ぬえのような事件だ。


「アタリショック」の嘘と誤解
アタリショックの真実(1)「それは暴落から始まった」


アタリショック」の一般的な説は、こうだ:
Atari 2600は、最初期のロムカートリッジ式の家庭用ゲーム機だった。ファミコンのように、カートリッジを入れ替えることで様々なゲームが遊べた。これにより、ゲーム業界に「サードパーティー」という概念が生まれた。ちなみに史上初のゲーム機のサードパーティーはアクティヴィジョン社だ。
ゲーム業界の急速な拡大に釣られて、それまでゲームを作ったこともなかった企業がサードパーティーとして参入するようになった。朝食シリアルメーカーのクエーカーオーツカンパニーや、ペットフードメーカーのピュリナなどが知られている、らしい。これら大企業だけでなく、Atari社にロイヤリティさえ支払えば誰でも、自由に、Atari 2600用のゲームを開発・販売できた。
ところがサードパーティーの急速な拡大は、粗造ゲームの濫発を招いた。
ゲーム開発経験のない人々が市場に参入した結果、クソゲーだらけになってしまったのだ。
当時はレビュー誌なども発達しておらず、消費者はCMとパッケージを頼りにするしかなかった。電源を付けるまでどんなゲームか分からず、消費者の購買意欲を削ぐことになった。
大企業が誇大広告でクソゲーを売る一方で、弱小メーカーは勃興と衰退を繰り返していた。倒産した企業の製品が市場に溢れ、小売店は返品不可能な在庫を抱えることになった。それらを見切り値で販売した結果、ゲームソフトの価格は低落した。さらに海賊版の流通が価格崩壊に拍車をかけた。
価格低下は消費者には歓迎されたようだが、それら安売りの製品はどれも低品質だった。消費者が高価格・高品質のゲームを見直すことはなく、ゲームそのものから離れていった。
こうして北米では家庭用ゲーム機がさっぱり売れなくなり、市場が消えた。
現地の小売店は、ゲーム機そのものを忌避するようになったという。1985年に任天堂NES(※北米版ファミコンを売り込む際にも「ゲーム」という言葉は極力使わないようにしたらしい。
以上が、私の知る「アタリショック」の話だ。が、前述のとおり諸説飛び交う都市伝説のような事件だ。信じるか信じないかはあなた次第!(無責任)



     ◆



新規市場の開拓による急成長と、サードパーティーの拡大による粗造品の氾濫。これらは、現在のソーシャルゲームにも当てはまる。
ゲームを作ったこともなければイラストやシナリオを書いたこともない開発者たちが飛びついて、マンションベンチャーが雨後のタケノコのように乱立した。「100キャラ分のイラストを20万円でやってくれ」といった非常識な発注が横行しているのは、発注者側に常識を身につけるだけの経験が無いからだろう。
釣り竿を選んだり牧場や庭を育てたりすることから始まったソーシャルゲームは、最終的にカードゲーム型に収斂した。今ではどのプラットフォームでも、「美麗なカードを強化・合成させて君だけのデッキでライバルと競い合おう!」というゲームで溢れかえっている。コピペゲーと揶揄されるゆえんだ。なかには本当にシステムをコピペして、イラスト等のガワだけ変えたゲームまでリリースされるようになった。
たしかに、ハイクオリティなソーシャルゲームは存在する。しかし平均して考えれば、恐ろしく低品質な製品だらけなのが現状だ。


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新規市場の急成長と、サードパーティーの急拡大による粗造品の氾濫。
ここまでは「アタリショック」のシナリオを踏襲している。では、ソーシャルゲーム業界はこれから凋落・崩壊するのだろうか。


     ◆


結論から言えば、急激な崩壊はないと思われる。
ソーシャルゲームの市場規模は頭打ちに近づきつつあるが、それでも世界的にはまだ拡大傾向だそうだ。2013年における国内の売上規模は3,000億円とも4,000億円とも言われている。他のエンタメ業界と比較すると、たとえばマンガの売上規模は、雑誌が約1,500億円、単行本が約2,200億円だそうだ。映画の興行売上は約1,800億円だという。(いずれも国内)
ニュースではソーシャルゲームの不調が報じられているが、売上規模はいまだに莫大だ。
したがって「アタリショック」のような市場崩壊が起きているとは考えにくい。消費者のソシャゲ離れが起きているわけでなく、たんに競争が激化し、儲けを出しづらくなっているのだと考えるべきだろう。


市場規模はさらに拡大傾向に――JOGAオンラインゲーム市場調査レポート2012発表会
〈TGS 2013〉日本のソーシャルゲームは世界で戦っていけるのか?
あの業界の市場規模っていくら?


どんな産業でも、新しい市場が生まれた直後は競争相手が少ないため、先行者利益を享受できる。しかし参入者の増加にともない競争が激化し、利益率が落ちていく。これはゲーム業界に限らず、あらゆる産業で繰り返されてきた現象だ。
おそらくソーシャルゲームは去年末〜今年頭あたりにブルーオーシャンではなくなり、レッドオーシャンの時代に突入した。経済史上、何度も繰り返されてきた市場の変化を、私たちは目の当たりにしているのだ。
過当競争の市場で生き残るには、大きく2つの戦略があると言われている。
1つはコストを下げて、低価格化で勝負する戦略。もう1つは差別化・高付加価値化によって勝負する方法。
ところがソーシャルゲームは基本無料のため、前者の戦略を取ることができない。結果、ひたすら高付加価値化するしかなく、開発費の高騰に直結する。


ソーシャルゲーム市場が下降している理由と上向きにする方法


最終的には、潤沢な開発費と広告宣伝費を準備できる企業だけが生き残るだろう。『艦隊これくしょん』が好調なのは、身も蓋もないが、巨大資本にバックアップされているからだ。身も蓋もなさすぎて、われながら何の役にも立たない分析である。艦これはゲーム内課金だけでなく、出版を始めとするマルチメディア展開で収益化していこうと考えているそうだ。が、それは潤沢な開発費と広告宣伝費がなければできない──少なくともマンションベンチャーには不可能な──商売のやり方だ。


角川ゲームス 安田善巳社長が,同社の最新作とその先について語ってくれた


ソーシャルゲーム業界の将来はどうなるのだろう。
「美麗なカードを強化・合成させて君だけのデッキでライバルと競い合うゲーム」だけをソーシャルゲームと呼ぶのなら、まず間違いなく未来はないだろう。一部のメガヒット級の作品を残して、大半は数年内にサービス停止に追い込まれるはずだ。
ゲーム制作の現場では人材が資産であり、どの企業も積極採用を続けざるをえない。ライバルが全力で人を抱え込もうとするから、自分たちも全力で人集めに奔走するしかなくなる。赤の女王の言うように「その場にとどまるためには全力疾走するしかない」のだ。効果的な広告を打つことができず、能力の高いイラストレーターを抱え込めなかった企業から──すなわち、カネのない会社から順番に、開発費を支えきれなくなって飛んでいくはずだ。
ソーシャルゲーム業界の内側からは、今後しばらく悲鳴が絶えないだろう。
しかし、業界の外側にいる私たちからすればどうだろう。消費者の視点に立ったとき、競争の激化と開発費の高騰はどのような影響をもたらすだろう。
言うまでもなく、ゲームの高品質化だ。
イラストやデザインはより美麗になり、システムはよりサクサクと動くようになるだろう。バカの一つ覚えのように「進む」ボタンを連打するゲームは減っていき、きちんと「ゲームとしての面白さ」をそなえた作品が増えていくだろう。『艦これ』が目指しているように、ゲーム内課金以外での収益化を目指す作品も増えるかもしれない。もしもそうなれば、消費者は「課金しなければ勝てない」というストレスからも解放される。
なんだよ、消費者にとってはいいことずくめじゃん。


アイテム課金に関して


高品質化がどこまでも進めば、最終的にはソーシャルゲームとネットゲーム、コンシューマーゲームの境界はなくなる。コンピューターゲームと非電源系ゲームの垣根もやがて消えていくだろう。ガラケーからスマホタブレットPCへとデバイスの進歩も止まらない。ゲームの形は変わり続けていく。
10年後にどんなゲームが流行っているのか、私には分からない。しかし、1つだけ確実に言えることがある。
10年後のゲームは、今よりずっとエキサイティングだ。





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