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すぐれた物語には、人生を変える力がある。/小説『シャンタラム』紹介

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すぐれた物語には、人生を変える力がある。
道に迷ったとき、進むべき方向が分からなくなったとき、物語は私たちにヒントをくれる。だから若いセールスマンは『スラムダンク』に心を揺さぶられ、野心家の大学生はスティーブ・ジョブズの伝記を抱いて眠る。物語なしでは、私たちは生きていけない。
飛び抜けてすばらしい物語と出会ったとき、私たちは人生が変わるのを感じる。
この物語を読み終えたとき、世界の姿がまるで違ったものに見えるだろう……と、予感しながらページをめくる。この物語を読み終えたあとの自分は、これまでの自分とはまったく違う人間になっているだろう。そう分かっていながら読み進めるのは、怖くもあり、喜びでもある。
『シャンタラム』も、そんな物語の1つだ。



シャンタラム〈上〉 (新潮文庫)

シャンタラム〈上〉 (新潮文庫)

シャンタラム〈中〉 (新潮文庫)

シャンタラム〈中〉 (新潮文庫)

シャンタラム〈下〉 (新潮文庫)

シャンタラム〈下〉 (新潮文庫)



できるだけ事前情報が少ない状態で読むのがオススメだ。スゴ本の人は、こんな紹介文を書いている:

鉄板で面白い小説はこれ。

もしご存じないなら、おめでとう ! あらすじも紹介も無いまっさらな状態で、いきなり読み始めろ(命令形)。新潮文庫の裏表紙の"あらすじ"すら見るの厳禁な。あと、上中下巻すべて確保してから読み始めるべし。さもないと、深夜、続きが読みたいのに手元にないという禁断症状に苦しむことになるだろう。

徹夜小説「シャンタラム」

だから、あらすじも内容も、このブログでは紹介しない。結末を知らないまま、登場人物の1人ひとりと一緒にインド・ボンベイの街を歩き回ってほしい。
しかし、まったく何も紹介しないのも手抜きだとバレr 不親切なので、冒頭の言葉だけを引用しよう。この書き出しにグッとくるものがあるなら、ぜひこの作品を読むべきだ。この書き出しが心の琴線に触れたなら、ぜひ読んでみてほしい。



愛について、運命について、自分たちが決める選択について、私は長い時間をかけ、世界の大半を見て、今自分が知っていることを学んだ。しかし、その核となるものが心にめばえたのはまさに一瞬の出来事だった。壁に鎖でつながれ、拷問を受けているさなかのことだ。叫び声をあげている心のどこかで、どういうわけか私は悟ったのだ。今の自分は手枷足枷(てかせあしかせ)をされ、血を流している無力な男にちがいないが、それでもなお自由なのだと。拷問している男を憎む自由も、その男を赦(ゆる)す自由も自分にはあるのだと。どうでもいいようなことに聞こえるかもしれない。それはわかっている。しかし、鎖に噛まれ、痛さにひるむということしか許されない中では、その自由が可能性に満ちた宇宙となる。そこで憎しみと赦しのどちらを選ぶのか。それがその人の人生の物語となる。


この小説を読んで、たぶん私の人生は変わった。
人生の様々な局面で、この物語のワンシーンを思い出すだろう。道に迷ったとき、この物語の登場人物からヒントをもらうだろう。『シャンタラム』は私の血肉になり、人生を変えてしまうだろう。
『シャンタラム』は自伝的小説だ。
冒険小説であり、ミステリー小説であり、犯罪小説であり、
何よりも、愛についての物語だ。







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