デマこい!

「デマこいてんじゃねえ!」というブログの移転先です。管理人Rootportのらくがき帳。

ツイッターは流行の中心なんかじゃない

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「今の高校生がどんな生活をしているのか分からない」と、同世代の友人が言っていた。

私たちの高校時代には、ニコ動もパスモiPhoneもDSも無かった。私たちの世代にとって「新しいもの」を、今の高校生は最初から当たり前のものとしている。それってすごいことだ。

新しいものに対して、古い人間は拒絶反応を示す。「そんなの無くても困らない」と言って試そうとしない。しかし大抵の場合、新しいものの方が便利だ。古い人間にならない秘訣は、無くても困らないものは「あっても困らない」と考えることだ。

たとえば電子レンジが市販されたばかりの頃、その便利さに気づく人は少なかったようだ。たしかに当時の電子レンジは、現在ほど高性能ではなかったらしい。温まり方にムラがあったり、容器によっては全然温まらなかったり。――ある雑誌は「消費者を騙す詐欺的な製品だ」という記事を載せたという。たしか『くらしの手帖』だったかな? 電子レンジをけちょんけちょんにこき下ろしたそうだ。その号のくらしの手帖には「蒸し器で作り置きのおかずを暖め直す方法」が特集されていたという。蒸し器を使いこなせれば、電子レンジなんか無くても困らない、と。

新しいものを導入するのは、それが何であれコストをともなう。

しかし「無くても困らない」というだけでは、導入しない理由にはなりえない。

 

今の高校生たちは、Twitter等のSNSをとくに拒絶感を示すことなく利用しているようだ。では、彼らは新奇のものだから飛びついているのだろうか。私たちが高校生だった頃と同じように、最新の流行に飛びついただけなのだろうか。

ここで、もう一つ別の視点から話をしよう。

「新しいものを追いかけなくちゃ!」という危機感は、非オタク的な発想だ。

 中高ではスクールカーストの上のほうにいて、自分の嗜好をほかの大多数のクラスメイトと共有できた人。「嗜好のメインストリーム」にいた人。そういう非オタクな人は、つねに流行のメインストリームを歩いてきた。自分の嗜好を、多くの人と共有してきた。

しかし現在、嗜好はどこまでも細分化している。

オタクだった人は、新しいものに対する危機感は薄い。たとえばアニメオタクなら春の新作アニメを知っていれば充分だし、TCGオタクなら次期エキスパンションの情報があれば充分だ。特定の領域で最先端を走る人は、その外側の出来事に鈍感でいられる。

「テレビ?なんで見なくちゃいけないの?」みたいな。

私が高校生の頃は、テレビを見ない人はとても少なかった。みんな似たような番組を見て、それが共通の話題になっていた。でも今の高校生はどうだろう。テレビを見ない人は、すでに少数派ではない。多くの生徒が自分の好きな分野で先鋭化することを選んでいるはずだ。嗜好のメインストリームは消失した

 

「クラスメイトの多くがテレビを見ていない」という話を聞いたとき、私たちは疑問を覚える。「テレビではなく何を共通の話題にしているのだろう」と。この疑問は「テレビ」の部分を、「雑誌」「新聞」「ポケベル」「メール」などに交換可能だ。私たちは「共通の話題」を求める

でも正解は、たぶん「共通の話題なんかない」だろう。

どんな流行も、小さな広がりで終わる時代だ。共通の話題を求めるなんて無理だ。「何が流行っているのか」を追いかけると、答えが星の数ほど出てきてドツボにハマる。「共通の話題が無い時代に、どんな人間関係を作っているのか」……考えるべき方向はこっちだ

共通の話題を持たずに人間関係を構築するのだから、たぶん今の高校生はあの頃の私たちよりもオトナだ。みんながそれぞれの嗜好を大切にし、自分の好きな方向を向いている世界。その世界での学校生活は、きっと刺激的で、創造性が豊かで、そしてちょっぴり淋しい。

その淋しさを埋め合わせるために、TwittermixiFacebookなどのコミュニケーションツールが一般化したのではないだろうか。これらコミュニケーションツールは、必要に駆られて使われている。その点で、過去のいかなる流行とも異なる。これは流行では終わらない。むしろ、蒸し器が電子レンジになったような劇的な変化だ。

この点を考慮せずに、現在の高校生の生態を分析することはできないと思う。

 

 

※この記事は2010年3月23日の「デマこいてんじゃねえ!」より転載しました。

 

 

 

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