デマこい!

「デマこいてんじゃねえ!」というブログの移転先です。管理人Rootportのらくがき帳。

社会の窓と、社会性。

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昨日のことだ。友人たちと四人でラーメンを食べていた。
「ねえねえ、前から気になってたんだけどさ〜」
「なんですか? 先輩」
社会の窓って、どうして“社会”の窓っていうの?」


「んだよ、唐突だな」
「そんなの知りませんよ」
「……社会性」
「「「は?」」」
「だから、社会性。社会の窓と向き合ったとき、人間は社会性を問われる
「よくわかりませんけど……」
「なるほど!てめぇ頭いいな!」
「どういうこと?」「どういうことですか?」
「ったく、しかたねえな。――たとえばお前らが、大学の講義に出席しているとするだろ? この授業の講師は、学校でいちばん人気の先生だ。ナイスミドルなイケメンで、女子学生からの人気も高い。今日はどんな話が聞けるだろう……。期待で満ちた講堂に、ようやく先生が現れる。ところが先生の社会の窓が開いていた――。さあ、どうする?」
「そりゃ、教えてあげますよ。『せんせー、チャックが開いてますよ』って」
「……ゼロ点」
「だな」
「ええっ!?」
「いいか? その先生は女子学生からの人気も高いんだぞ? 一種の偶像として崇拝されているわけだ」
「そうか〜、そんな人物の欠点を指摘するということは――」
「偶像を汚した存在として、お前自身が嫌われるってことだ」
「な……。なんですか、その理屈!」
「納得できねえみたいだな。だからお前は非リアなんだ」
「そんな、ひどいですっ」
「……ジェスチャー、カンペ。方法ならいくらでもある」
「声に出して指摘するなんて、最悪の作戦だね〜!」
「しかも、その先生はイケメンだ。どんな醜態をさらそうとも“イケメン無罪”で許されてしまう可能性が高い。社会の窓を開けていた先生は何ひとつ傷つかず、お前だけが“空気読めない”のレッテルを貼られることになる」
「わけがわかりませんよ!」
「問題は、ぼくたちがそういう状況に置かれたらどうするか、だよね?」
「……危機的」
「俺たちには“イケメン無罪”が適用されねえ。社会的に死亡してもおかしくない」
「先輩たちは何の話をしているんですか?」
「安全保障の話だ。それとも、なんだ? お前は『自分だけはイケメンとして許される』とでも思ってるのか?」
「い、いえ……そんなことは……」
「だったら、きちんと考えておくべきだろうがっ! 開けっ放しになっていた場合のことをよぉ……ッ!」
「たしかにね〜。もしも開いたチャックから女性用下着でも見えようものなら、本格的に人生終了だもんね!」
「……犯罪的」
「ああ、それは犯罪だな」
「犯罪ってのは短絡的すぎますよ! 合法的に購入したものかもしれないじゃないですかっ!」
「お前、なに言ってんの?」
「まさか〜……」
「いやいやいやいや、そんな目で見ないでください。俺は履いてませんよ?」
「ならいいんだけど。社会の窓から女性用下着が見えてしまうのは、中身が見えてしまうよりもアウトだからね」
「ったく、その通りだ」
「……異論無い」
「って、おかしいでしょう!どっちもアウトですよ!」
「いいか? 女性用下着を身につけるのは、『身につけよう』『身につけたい』という意思があるからだ。法律用語でいえば『悪意』があったということになる。だが中身が見えてしまうのは別だ。なにか突発的な事故があったのかも知れない」
「……善意のノーパン」
「事故って、どんな事故ですか!」
「ちょっと〜、ぼくたち食事中だよ?」
「この話題を振ったのはあんただよ、先輩!」
「まぁ、落ち着け。社会の窓から女性用下着が見えるのは、中身が見えるよりもヤバい。いいな?」
「いいから普通の下着をはいてください!
「あのさ〜、なんか勘違いしてない?」
「へ?」
「……大事なことを忘れている」
「ああ、その通りだ。たとえ普通の下着をはいていたとしても、セーフってわけじゃねえ。チャックが開いているだけで、だいたいアウトだ」
「そ、そりゃ……そうですけど……」
「……ごまかす方法を考えるべき」
「なるほど〜、ごまかす方法かぁ〜」
「そうだな、たとえば万国旗を仕込んでおくってのは、どうだ?」
「……すばらしいアイディア」
「ぼくは頭が痛くなってきました……」
「よし、例を見せてやろう。たとえば俺のチャックが全開になっていたとする。で、お前はそれに気づいた。さあ、どうする?」
「なんですか、いきなり」
「ちょっとしたロールプレイだよ。ほら、俺のチャックが開いてたとしてお前はどうするんだ?」
「もう、しょうがないな……。チャック開いてますよ、先輩」
「ああっ本当だっ! すまんなぁ……って言いつつ、こうやって万国旗を引っ張り出すわけだ。するする〜って」
「わあ、すごいや! チャックを使った“芸”に見えるね! うっかり開けっ放しだったのがごまかせてる!」
「ごまかせねーですよ!」
「チャララララ〜♪ チャララララ〜ラ〜ラ〜♪(※曲『オリーヴの首飾り』)
「BGMつけても無意味です!」
「う〜ん、そうかな〜? 万国旗をズボンに仕込んでおくというアイディア、想像以上にいい方法かもしれないよ?」
「ど、どういうことですか?」
「……聞かせて」
「みんな想像してみて? 土曜日の夜、酔客や学生たちで賑わう木屋町通りを抜けて、三条通りまでやってきたとするじゃん。そして、ふと、三条大橋に目を向ければ、うら若き乙女が鴨川の水面をじっと見つめている。そのほっぺたには真珠の雫が――」
「ふむふむ」
「――そこで声をかけるんだよ〜。『お嬢さん、どうしたんですか? きれいな顔が台無しだ。さあ、これで涙を拭いて』と言いながら、おもむろにチャックを下ろして万国旗をするする〜って」
「ただの変態ですよ!」
「チャララララ〜♪ チャララララ〜ラ〜ラ〜♪」
「うるさいッスよ!!」
「……万国旗にハンカチの生地を使えば完璧」
「いいから普通のハンカチを持ち歩いてください!
「ったく、ダメだなお前ら。女心が分かってねえ。だからお前らは非リアなんだよ」
「え〜? ダメかな〜?」
「ああ、まったくなってねえ。世界のどこを探せば、万国旗でよろこぶ女性がいるんだ。いいか? 女性ってのはみんな可愛いものが好きだ」
「まあ、たしかに」
「だから社会の窓から出すべきなのは万国旗ではなくチワワだ
「「「チワワ!?」」」
「そうだ。社会の窓からチワワだ!」
「ち、チワワって生きてるやつですか?犬の?」
「ほかに何があんだよ」
「……どうする、アイフル
「あんたたちの脳みそをどうしたらいいか分かりませんよ!」
「お嬢さん、このチワワで涙を拭いてください――って言えば完璧だ」
「すごいや! 非の打ちどころがないね!」
「ツッコミどころだらけですよ!」
「……ひとつ問題がある」
「なんだと?」
「……ズボンのなかは狭い。いくら小さなチワワといえど、隠しておくのは至難」
「ああ〜たしかに噛まれちゃいそうだよね〜。ズボンのなかで暴れまくって、チワワの飛び出したあとからチクワがぽろり、なんてことにもなりかねない……」
「あんたマジ最低ですね!」
「ったく、だからお前らは非モテなんだよ。ズボンが狭いだと? だったら、ゆるいズボンをはけばいいだけじゃねえか。たとえばとび職の兄ちゃんたちがはいてるズボンとか、ボンタンなら問題ねえだろ?」
「たしかに〜! あれなら何匹でもチワワが入りそう!」
「……ネコも入れよう」
社会の窓から101匹わんちゃん!」
「そいつはダルメシアンですよ!」
スターリン様の悪口を言うヤツは粛正だ〜!」
「そいつはダメ・ルシアンですよ!」
「お前ら、だいたいの結論は出たな。万が一、社会の窓が開いていたときの対策として、いつでもチワワを入れておくべきだ」
「……それが不可能なら、万国旗を入れておくべき」
「で、それも無理なら〜、せめて普通の下着を身につけておくっ!」
「ああ。そして女性用下着はまちがっても身につけるな。悪意のショーツよりも善意のノーパンのほうがマシだ」
「うんうん! これさえ守れば、社会の窓が開きっぱなしでも安心だね!」
「まずはきちんとチャックを閉めてください!」






万国旗 大

万国旗 大






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