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デマこい!

「デマこいてんじゃねえ!」というブログの移転先です。管理人Rootportのらくがき帳。

“絶対に”おもしろい野球漫画/『神様がくれた背番号』感想

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「絶対に面白いお話」の条件は、ログラインが面白いことだ。
ログラインとは脚本用語のひとつで、お話の要点を1〜2行にまとめたモノのことを言う。ハリウッドの映画プロデューサーたちは多忙なため、山ほど送られてくる脚本をすべて読んでいるヒマはない。まずはログラインだけに目を通し、面白そうなモノだけを選んで中身を確認、映画の企画になるかどうかを判断するという。



たとえば:



「動物園で事故発生! 飼育されていた肉食恐竜が逃げ出してしまう……(ジュラシックパーク)」
「休職中の刑事が妻の職場のハイテクビルに行ったら、テロリストに占拠されてしまった!(ダイハード)」
「30年前にタイムトラベルしたら、高校生時代の母親から一目惚れされてしまって……(バック・トゥ・ザ・フューチャー)」


――こんな感じで、大ヒットした映画作品の多くはログラインだけでも「なんだか面白そうだぞ?」と感じさせるアイディアが詰まっている。
今回、『神様がくれた背番号』の面白さについて改めて考え直してみた。そして、この作品はログラインのレベルでまず成功している――という結論に至った。



神様がくれた背番号 1 (ニチブンコミックス)

神様がくれた背番号 1 (ニチブンコミックス)

「40歳の吃音癖のあるホームレスが、阪神タイガースの選手になるお話」だ。



「そんな無茶な!」ってツッコミを入れたくなるし、「でも、どうやって?」と疑問をかき立てられる。ログラインのレベルでも充分に面白いものになっているのだ。お話の“核”となるアイディアが強い。底力のあるお話だ。だからこそWEB小説から出版、コミカライズ――というコースをたどることができた。



【COI開示】楓出版様より献本いただきました。




       ◆




数年前、私は「作家でごはん」というWEBサイトに出入りしていた。作家志望者たちがお互いの作品を公開しあい、意見をぶつけ合うというコミュニティサイトだ。一般文芸寄りで大人向けなお話を書く参加者が多く、比較的レベルの高い(※少なくとも読める文章の)作品が投稿される場所だった。
『神様がくれた背番号』の原作小説は、このサイトに投稿された作品のひとつだ。
投稿直後から(すごいモノが書き込まれたぞ)と話題をさらい、半年後、一年後まで伝説的に語られていた。「作家でごはん」では、投稿作品が1〜2ヶ月ほどで削除されるシステムになっている。これほど長い期間にわたって語り草になるのは、異例中の異例だ。
この小説に惚れ込んだ参加者の1人が「これは絶対に書籍化すべきだ」と一念発起、立ち上げた会社が楓出版だった。私は楓出版の“中の人”と「作家でごはん」のころから交流があり、直接の面識もある。失礼ながら、起業なさった当初は(どうなることやら……)とハラハラしていた。まさかコミカライズされ、別冊漫画ゴラクで連載されるところまで行くとは思っていなかった。ぜひこのままアニメ化でもドラマ化でも映画化でも、行くところまで行ってほしい。



肝心のストーリーだが、40歳のホームレス“ケンちゃん”のもとに“神様”が現れるところからはじまる。“神様”に選ばれたケンちゃんは、一つだけ願いごとを叶えられるという。カネでも女でも、なんでも欲しいモノを手に入れられるのだが、ケンちゃんの願いごとは「世界で一番野球の上手い40歳になって阪神タイガースで活躍してみたい」だった――。



原作小説は先述のとおりWEBのころから読んでいたし、原作者の松浦儀実さんとも意見の交換を(というか激論を交わ)していた。小説版を初めて読んだときこそウルッときたけれど、すでに知っているストーリーだ。まさか泣くわけがない……と油断していたら、みごとにやられた。マンガと小説とでこうも違うものか。涙腺に直撃を喰らった。
主人公のケンちゃんは貧相でひょろひょろで、いかにも情けない男として描かれている。が、ボールやバットを手にした瞬間に“野球選手”の顔つきになる。マンガではこの変化を視覚的に表現できるため、胸に迫ってくるものがあった。
また街の空気や雰囲気をページに収めているのがすばらしい。阪神タイガースという球団がどういう人々から愛されているのか、そこで活躍するということがどういう意味を持つのか、コミカライズされたことでより明確に伝わるようになった。
(そうだよな〜阪神電鉄甲子園駅ってこういう場所だよな〜)…と、古い記憶を刺激される。
余談だが、甲子園駅に隣接したダイエーでは「紙コップ」がよく売れるらしい。球場内には缶入りの飲料を持ち込めないため、みんな缶ビールを紙コップに移してから入場するのだ。また“ペットボトル入りの缶チューハイ”という、ほかではなかなかお目にかかれないモノもダイエー甲子園店では売られていたりする。このあたりは関西在住の左党なら常識だ。……じょ、常識だよね?


※ペットボトル入りのチューハイは、もはや“缶”チューハイではないと思う。


こういう古い記憶や過去の経験を呼び起こされるのは、マンガという視覚的なメディアになったからだろう。作画は渡辺保裕さん。松浦さんめ〜、いいマンガ家さんにめぐまれたな〜……と、ちょっぴり悔しさを感じるほどだ。細かいところでは、お好み焼きの作画が妙に気合い入っててダイエット中の身にはつらかった。うう……美味しそう……。




     ◆




面白いお話の条件は、まずログラインが面白いことだ。
「40歳の吃音癖のあるホームレスが阪神タイガースの選手になるお話」
――まずログラインからして面白いから、『神様がくれた背番号』はここまで成功した。
理屈は置いといて、もっとたくさんの人に読んでもらいたい。
すなおにそう思える作品だった。



神様がくれた背番号

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女騎士、経理になる。 (1) (バーズコミックス)

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