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いま武蔵野美術大学の美術館が熱い!/環境ポスター展示にみる世界の自然観

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先日、今敏監督の回顧展を見るために武蔵野美術大学の美術館へ行ってきた。監督の原点を知ることができたし、会場限定のグッズも手に入れることができて、とても満足度の高い展覧会だった。こちらについての解説・感想は、私よりも適任の方がどなたか書いてくださるだろう。私はオタクではないので。



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同時に行われていた「世界の学生の環境ポスタープロジェクト」という展示がとても面白かった。
2010年、メキシコ・カンクンでCOP16(気候変動条約第16回締約国会議)が開催された。その際、世界各国の美術・デザイン系の大学に、環境保護を訴えるポスターの出展を呼びかけたという。学生たちの自由で真剣な発想で作られたポスターを、会場で展示する予定だった。実際には会議場の都合により展示されず、スライドショーとして公開されるにとどまった。しかし集められたポスターはどれも興味深く、日の目を見ないのはあまりにももったいない……。というわけで今回、武蔵野美術大学の美術館で展示することになったそうだ。
事前情報ゼロで時間つぶし程度のつもりで足を運んだのだが、じっくりと見入ってしまった。思いがけず素晴らしい体験をできた。



約200枚のポスターは、アジア、ヨーロッパ、アフリカ、北米、中南米オセアニアという幅広い国・地域から集められている。それぞれの地域の学生たちが「環境問題」と言われてどんなものを思い浮かべるのか。それぞれの地域ごとの問題に深く根付いており、とても面白い。
たとえばアフリカからは、南アフリカ共和国ジンバブエの学生が作品を提出している。
彼らの作品では「干ばつによりひび割れた大地」の描かれたポスターが何枚も展示されていた。私たち日本人にとってはテレビの向こうのできごとだが、現地の人々にとっては目の前の現実なのだ。荒れ果てて耕作ができなくなった土地――アフリカの学生の考える「環境問題」のなかで、それが大きな位置を占めているのだろう。
また環境破壊の犯人として資本主義や商業主義、市場主義を告発するような描写が見受けられるのも印象的だった。たしかに南アフリカジンバブエは国境を接しているが、経済情勢は天と地ほども違う。にもかかわらず、これらの地域で似通った“価値観”が表出するのは興味深い。
意外なことに、中国の学生のポスターには、そういう分かりやすい「反資本主義」の描写はない。彼らがいちばん問題視しているのは「大気汚染」そして「自動車渋滞」のようだ。
たしかに中国の都市部に行くと、車の多さに辟易する。北京は乾燥地帯にあり、昔から砂塵の多い都市だったという。が、近年の曇り空の理由はそれだけではないだろう。沿岸部の諸都市ではぜんそくなどの公害が吹き荒れているという。現在の中国が抱えるそういった問題が、学生たちのポスターにも表れていた。
他にもロシアの学生のポスターには、住む場所がなくなって困惑するシロクマやペンギンが描かれていた。極地の氷の減少が、かの地の学生にとっては身近な環境問題なのかもしれない。アメリカの学生のポスターからはアメリカ人らしいユーモアを感じ取れる。ドイツの学生のSuicide machine(※うろ覚え)と書かれたポスターには、ピタゴラ装置のようなモノが描かれており、環境破壊で自滅する人類を皮肉っていた。
では、日本の学生のポスターはどうだろう。
いくつかの作品で「古きよき日本」を感じさせる描写があり、目を引いた。江戸時代の日本は究極のリサイクル社会だったというイデオロギーを、どうやら私たちは深く内面化しているらしい。
江戸時代にモノの再利用が進んだのは、人口の増加により“モノ不足”に陥ったからではないか……と、いまの私は考えている。現在のような大量生産のできない時代、すべての人々の日用品を賄うには、モノを再利用するしかなかったはずだ。リサイクル社会が即座にいい社会だとは言い切れない。しかし、かつて江戸の町で起きたことが現在では世界規模で起ころうとしている。「リサイクル社会」を将来像と見なすのは、鋭い着眼点と言えるだろう。



いずれにせよ、これらのポスターを話のタネに誰かと語り合いたいと思った。そう感じさせるほど面白い展示だった。
みなさんも次の週末には武蔵野美術大学へと足を運んでみてはいかがだろうか。
きっと有意義な休日になるはずだ。





武蔵野美術大学 美術館・図書館
http://mauml.musabi.ac.jp/
※開館時間:10:00−18:00(土曜、特別開館日:17:00閉館)
日曜・祝日は休館(ただし特別開館日を除く)



世界の学生の環境ポスタープロジェクト
会期:2012年7月9日(月)−8月18日(土)
※特別開館日:7月16日



夢みる人 今 敏
会期:2012年7月16日(月)−8月25日(土)
※特別開館日:7月16日





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