デマこい!

「デマこいてんじゃねえ!」というブログの移転先です。管理人Rootportのらくがき帳。

『這いよれ!ニャル子さん』に見る日本の家族/父の不在と母なる呪い

このエントリーをはてなブックマークに追加
Share on Tumblr


一般的に「父は社会性の象徴・母は許容の象徴」だと言われている。物語において「父との対峙・母の許諾」は、たびたび描かれてきた。しかし日本のアニメやマンガ、ライトノベルでは、この例に当てはまらないものがちらほら見られる。「父の不在と母なる呪い」という構造を持つ作品たちが送り出されている。



這いよれ! ニャル子さん (GA文庫)

這いよれ! ニャル子さん (GA文庫)

ランジーン×コード (このライトノベルがすごい!文庫)

ランジーン×コード (このライトノベルがすごい!文庫)



※以下、ネタバレ注意。



これらの作品群に登場する母親たちは「許容の象徴」とは言いがたい。主人公(またはヒロイン)にとって、切り離したくても切り離せない「呪い」のような存在として登場している。
ニャル子さん』は「過剰な愛情とその拒絶」が物語の軸になっており、それ自体はハーレムものでは珍しくない。しかし「過剰な愛情を注ぐ人々」に「母親」が加わる(?)のは、ちょっと異質だ。また『ビブリア古書堂』シリーズでは、主人公もヒロインも「母方の系譜」に因縁を抱えている。第1巻では匂わせる程度だったが、第2巻でははっきりと「母なる呪い」のモチーフが登場する。『ランジーン・コード』シリーズはこの中ではいちばん明確に「母なる呪い」を扱っている。「子の前に立ちはだかる存在」として母親が登場するのだ。もしも主人公の母・武藤凛子が父親であったなら、主人公のロゴはあまり迷うことなく彼女と対決できただろう。しかし凛子は母親であるがゆえに簡単には倒せない。
「母なる呪い」が実母であるとは限らない。物語における「母」は、「保護者的な立場にある女性」という広い意味だ。血縁の濃さはあまり関係がない。


坂道のアポロン (1) (フラワーコミックス)

坂道のアポロン (1) (フラワーコミックス)


親の庇護下にいるうちは、子は大人になれない。子は、いつか親を捨てなければいけない。しかし親から一人立ちするときに、男親と女親ではやり方が違うのだ。
神話の時代から「父殺し」のモチーフは繰り返し使われてきた。どんな時代も「父」は子の先を歩み、子の前に立ちふさがる存在だった。だからこそ子は、父を倒さなければ大人になれなかった。子は父を乗り越えるものなのだ。それに対して「母」は、「子の前に立ちふさがる」ような存在ではない。どちらかと言えば「後ろから足を引っ張る」ような存在になりがちだ。



とらドラ!1 (電撃文庫)

とらドラ!1 (電撃文庫)

花咲くいろは 1 [Blu-ray]

花咲くいろは 1 [Blu-ray]

※これらの作品群で「母」はどのような存在として描かれていただろう。



とはいえ、そもそもラノベやマンガでは「親」そのものが登場しないことが多い(ex.テレビ版『けいおん!』)。また親が登場した場合にも、昔ながらの「父との対峙・母の許容」という構造になる場合が多い。「父の不在と母なる呪い」の構図を持つ作品は、あくまでも例外的なものだといえる。「母なる呪い」を中心的なテーマに据えた作品はあまり見かけないし、登場人物の周辺事情を理解するうえでのヒント程度にしかならないだろう。物語にリアリティを持たせるための環境的な要素だとみなすべきだ。



※俺妹では「社会的な父・許容的な母」が典型的に描かれていた。いい意味で保守的。



だが、例外的とはいっても「母なる呪い」の物語はたしかに存在している。つまり一部の読者から、ある程度のリアリティを認められているのだ。それはなぜだろう。
(※なお、あくまでも「リアリティ」であって「リアル」ではない)



それは、日本のお父さんは影が薄いからだ。
子供が起きるよりも早く家を出て、帰宅は子供が寝付いてから。日曜日にひさしぶりに娘と顔をあわせたら「おじちゃんだあれ?」と訊かれた――なんて笑えない話もしばしば耳にする。減ったとはいえ「家族をかえりみない日本のお父さん」はいまだに健在だ。
マンガやアニメでは「親」はあまり登場しない。が、「親」を登場させたときに「母親」になってしまうのは、日本のお父さんが不在がちだからだ。そして母は、子の前に立ちふさがるような存在ではない。子に規範や社会性を押し付けるよりも、子を許容する――ときにはスポイルする存在だ。したがって「親離れ」のときに母の愛を「戦って打ち負かす」ことができない。母の愛は「呪い」になってしまう。
一部の読者が「父の不在と母なる呪い」にリアリティを感じるのは、核家族化した日本社会が背景にあるから、かもしれない。




…………なんて理屈っぽく考えてみたけれど、魅力的なお母さんたちが登場するのは単純に作者のみなさんが熟女マニアだかr…………ああ! 窓に! 窓に!







.