デマこい!

「デマこいてんじゃねえ!」というブログの移転先です。管理人Rootportのらくがき帳。

ゆとり社員が仕事しないのは当たり前です

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モンスター社員という言葉があるらしい。いわゆる給料泥棒だ。勤務態度は不真面目で、なおかつわがままな言動で周囲を振り回す。簡単には社員をクビにできない日本の雇用制度を逆手にとったフリーライダーたちだ。「解雇規制の撤廃」論や、「ゆとり教育世代」論とセットで語られる場合が多い。首を切りたくてしかたない人と、若者を叩きたくてしかたない人が、この国にはたくさんいるらしい。
高齢モンスター社員のことはよく分からないが、若年モンスター社員の場合は仕事以外のことに力を注いでいる場合も多いのではないだろうか。
いまの会社でがんばるよりも自分の好きなことで成功するために努力している――。私の周りには、そんな20代がたくさんいる。「自分の好きなこと」を社内ではひた隠しにしている場合が多く、同僚の目からは「本業に力を注がないモンスター社員」として見られているかもしれない。


[好きなことで成功したときの報酬]×[成功する確率]>[現職を続けた場合の報酬]

上記の式が成り立つとき、人はまじめに働かなくなるand/or仕事をやめる。これを「ゆとり不等式」と名付けたい。
現在の日本では、この式の右辺を大きくすることが難しい。日本人口は減少の一途をたどっており、国内向けの産業は規模縮小が約束されている。また海外で活躍していた日本企業も、最近では敗北を繰り返している。私たちは将来の収入をかなり正確に予測できるのだ、暗い方向に。



日本の人口推移
http://www.bowlgraphics.net/tsutagra/03/



NEC 賃金カットで労使合意・年末まで1万6000人対象
http://www.sponichi.co.jp/society/news/2012/03/27/kiji/K20120327002916610.html


ソニー、1万人の人員削減…人材流出に中国企業も食指
http://news.goo.ne.jp/article/sankei/business/industry/snk20120410088.html?fr=rk



一方で、式の左側は大きくなりがちだ。
たとえば『ワンピース』の尾田栄一郎先生は月収2億円だという。マーク・ザッカーバーグにせよ、J.K.ローリングにせよ、あるいはマイケル・ジャクソンでもいい。自分の好きなことをつらぬいて大成功を収めた場合、報酬は青天井になる。したがって「成功する確率」がちょっとやそっと低くても、式の左側はなかなか小さくならない。先行きの暗い仕事に精を出すよりも、すきを見てスマホのアプリでも書いていたほうがマシなのだ。仕事してるほどヒマじゃないという人はたくさんいる。
また「成功する確率」は、若い人ほど高く見積もる傾向がある。
たとえば創作物なら、完成にはそれなりの時間を要する。一生のうちに制作できる作品数には限界があり、人生の残り時間が少なくなれば、それだけ生み出せる作品点数も減る。「出世作」を生み出せる可能性が低くなっていくのだ。一定の年齢に達すると人が夢をあきらめる傾向にあるのはこのためだ。逆にいえば、若いというだけで成功の確率は高くなる。「未来」はすべての若者が持つ資産だ。
また若いということは、無知ということでもある。自分よりも圧倒的に優れた才能に触れる機会がまだ少ないため、自身の「成功の確率」を高く見積もってしまいがちだ。逆に年長世代は豊富な経験ゆえに、成功の確率を低く見積もる傾向がある。「成長しない人はいない」という単純な事実を、つい忘れてしまうのだ。
話を戻そう。
「ゆとり不等式」は、「成功の確率」が大きくなるほど左辺が大きくなる。そして若年層はこの確率を高く見積もりがちだ。淡々と働いていればそれだけで給料が上がった時代ならばいざ知らず、いまの日本では式の右辺が小さくなる傾向にある。右肩下がりの業界では残存就労期間が長いほど右辺と左辺の差が大きくなるため、若手社員にとっては「真面目に働く」よりも「適当に仕事をこなして好きなことに力を注ぐ」ほうが合理的になる。ゆとり社員が真面目に働かないのは当たり前なのだ。



注意したいのは、私たちの「報酬」はカネだけに限らないということ。
他者からの感謝や社会的な意義といった抽象的なものにも、私たちは価値を認める生き物だ。尾田栄一郎マーク・ザッカーバーグはやはり極めて特殊な例である。彼らのような金銭的な収入を得るのはたやすいことではない。が、カネだけが報酬ではない以上、「自分がいいと思える生き方」ができるなら、不等式の左辺はどこまでも大きくなる。



ゆとり社員をまじめに働かせるには二つの方法が考えられる。
一つは不等式の右辺を大きくすること。たとえば成長分野の企業に勤める人たちは、みんな活きいきと働いている。なぜなら将来の報酬が未知数で、なおかつ明るい予想ができるからだ。たとえ自社に尽くす企業戦士であっても、活力に満ちた彼らは「社畜」という言葉とはほど遠い。
もう一つの方法は、式の左辺を小さくすること。ゆとり社員に現実の厳しさを伝え、「成功する確率」を低く見積もらせればいい。彼らの「好きなこと」の競争の激しさを指摘してもいいし、彼らの才能不足を笑ってやるのも効果的だろう。不等号の向きを逆転させることができたら、そのゆとり社員は夢をあきらめ、立派な社畜になるはずだ。
ゆとり社員のモンスター化を防ぐには前者の方法が理想的だ。しかし実際には、後者の方法が取られる場合が多い。あなた自身がゆとり社員なら、心を折られないようにご注意を。



「夢」は、叶えなければメシを食えない。
しかしメシを食えるとしても「夢」が無ければ生きていけない。






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