デマこい!

「デマこいてんじゃねえ!」というブログの移転先です。管理人Rootportのらくがき帳。

物価が高いのは「いいこと」だとイギリスで体感した

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ロンドンに行って驚いたのは「田舎」だったことだ。新宿や丸の内、あるいは北京のような摩天楼は見あたらない。もちろん高層ビルはあるにはある。けれど、ぱらぱらと分散しているのだ。世界を代表する大都市でありながら、ロンドンは空の広い街だった。とくに私の宿泊したEarl's Court周辺は住宅街で、二階建てのアパートメントがところ狭しと並んでいた。ぶっちゃけ私の地元の東京都立川市のほうがよっぽど大都会だ。



        ◆



日本は人が多い。東京はとくに多い。丸の内から電車で20分走っても、人口密集地帯が延々と続いている。それに対してイギリスはというと:ロンドン市街地から電車で20分も行けばごらんのとおりだ。



見渡すかぎりの牧草地が広がっている。なんだか北海道みたいな雰囲気。イギリスは畜産国なのだ。空から見たガトウィック空港周辺は、どこまでも芝生に覆われていた。



なお、イギリスの食糧自給率は70%を超えている。「日本は食糧自給率が低い」というのは農水省の利権確保の方便だ――なんて意見をしばしば耳にするけれど、イギリスと比較すると、たしかに日本の農業は存在感が薄い。イギリスといえば産業革命を成功させた「工業の国」であり、世界最大規模の為替取引所を持つ「金融業の国」でもある。そういうイメージが先行しがちだけど、盤石な第一次産業を持っているのだ。
ちなみに「イギリスのメシがまずい」というのは都市伝説だった。ちゃんと選べばきちんと美味しいモノを食べられます。



Hotel ibis Earl's Courtの朝食



スコティッシュレストランで食べたウサギ肉のパイ



※翌日に食べた鹿肉のロースト



※ただし――余談だけど――日本人と「味覚の違い」はあるかも。中途半端に甘く煮た豆料理が私はどうしても好きになれなかった。日本人ならお汁粉とかふじっこのお豆さんとか、とにかく豆を甘く煮る。あるいはインドのひよこ豆のカレーや、テキサスのチリコンカルネのようにスパイシーに調理された豆料理もたいへん美味だ。しかしイギリス人は豆をぼんやりとした甘さに煮るのだ! イギリス出身の友人には悪いけど、私は絶対ゆるせない! もっとハッキリした味にしろやぁ!!


現代のアメリカや日本、中国などと比較するとロンドンの街並みには「都会っぽさ」がない。イギリスはことほどさように「田舎」なのだ。



       ◆



イギリスの「田舎っぽさ」は、「人の少なさ」が原因だ。
総人口は日本の半分ぐらい。人口密度は246人/km^2だ。人口の規模は、そのまま経済規模に直結する。経済の規模とは、その社会を流れる「カネの量」のことだ。人口が増えれば増えるほど流れるカネの量も増え、経済規模は拡大していく。そしてイギリスは世界有数の先進国であり、流れているカネの量もすこぶる多い。
にもかかわらず人口は少ない、これはどういうことだろう。
人口が少ないのに経済の規模が大きい――。その要因としてすぐに思いつくのは「貿易」だ。貿易が盛んで輸出が伸びているのなら、その国で流れるカネの量は増えていく。海外でモノが売れていれば、そのぶんカネが入ってくる。ではイギリスの「貿易」の規模はどれほどだろう。
「貿易依存度」という指標がある。
輸出・輸入の総額をそれぞれGDPで割った数値だ。イギリスの貿易依存度は、輸出で18%、輸入で25%ほど。この数字が高ければ高いほど、経済に占める「貿易」の重要度が高いといえる。逆に低ければ低いほど、カネの流れを国内だけで作ることができている――つまり経済の「自給自足」が出来ているといえる。
で、イギリスの貿易依存度は、ヨーロッパ圏ではイタリアに次いで低い水準だ。
※ヨーロッパでは通貨統一が行われているため、たとえばドイツからフランスにモノを輸出するのは、東京から大阪にモノを売るようなものだ。そのためヨーロッパ諸国の貿易依存度は実質よりも高めなのではないかという説もあるらしい。しかしイギリスはユーロに参加しておらず、独自通貨のポンドを使用している。条件としては他の欧州諸国と分けて考えたほうがよさそうだ。
※ちなみに日本の貿易依存度は輸出で約14%、輸入で約12%。比較的貿易依存度が低いといわれているイギリス以下だ。外需の国? 貿易収支の赤字が問題? それってほんとなのかしら。
※貿易依存度の国際比較はこちら



たしかに世界的に見ても、イギリスの貿易依存度はそう高いほうではない。ここで疑問が生じる。人口が少なく、貿易に頼っているわけでもない――。ではイギリスはどうやって経済規模を拡大し、先進国として躍り出たのだろう。金融業を育成したとか、そういう個別の戦略を知りたいのではない。社会全体の「カネの流れ」に目を向けた場合、その流量はどのような形で顕在化しているだろう。
一言でいえば、イギリスは「“少ない人数”で“多量のカネ”を流している」
つまり、一回の取引で流れるカネの量が多い――物価が高いのだ。訪英したことのある人は、口をそろえて物価の高さを愚痴る。たとえばマクドナルドのセットが1000円近くするし、コンビニで買うサンドイッチが300円ぐらいする。たしかに日本の消費税5%に比べて、VATは20%と高い(※VAT=Value Added Tax、イギリス版の消費税で食品や子供服などが課税対象外となっている)。けれど、それを差し引いてもなお物価の高さは明らかだ。たとえばコンビニのサンドイッチなら日本では100円台で買えるのに。
景気の良さとは、社会を流れるカネの総量が増えることだ。社会を構成する一人ひとりの手に、充分な量のカネが行き渡ることだ。日本経済は終戦後、人口増加に支えられて成長してきた。人口の増加は経済規模の拡大だ。「個人のサイフを流れていくカネ」に気を配らなくても、勝手に「成長」できたのだ。経済指標のうえでは。
少なくともこれからは、一人ひとりの手元に入り、出ていくカネの量に注意を向けたほうがいい。それがボトムアップの経済成長の秘訣だ。






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