- 作者: 荻原浩
- 出版社/メーカー: 新潮社
- 発売日: 2006/02/28
- メディア: 文庫
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10月には読み終わっていたけれど、今さら読書感想文。
というのも、読み直すのに時間がかかったからだ。推理小説の場合、謎解きシーンを読みながら、「あの時の描写ってどんなだったかな」とページをめくり返すことは珍しくない。が、この作品の場合は冒頭からもう一周読み直したくなる。肩のチカラを抜いて楽しめるエンタメ作品でありながら、想像以上に骨太。読み返すたびに、まったく違う光景が見えてくる。三周ぐらいは余裕で楽しめるね、マジでお買い得。
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舞台は2000年代初頭の渋谷、女子高校生の間で妙な噂が広まっていた。
「ニューヨークの殺人鬼レインマンが、いま日本に来ているんだって」
「レインコートを着た大男で、殺した女の子の足首から先を切り取って持ち去るらしいよ」
「なにそれ、きもい」
「でもね、ミリエルの香水をつけていると狙われないの」
これは新ブランドの香水をプロモーションするために、企画会社がでっちあげた作り話だった。しかし噂はやがて現実になり、足のない女子高生の死体が発見される。
シリアルキラーの正体を追って、“お父さん刑事”小暮の奮闘が始まる!
異文化交流の物語は面白い。『ガリバー旅行記』にせよ『80日間世界一周』にせよ、見たこともない文化・人々に出会った主人公の慌てふためくさまが楽しいのだ。
似たような異文化交流が、この作品にも溢れている。主人公は中年の男やもめだが、警視庁の若い女性警部補・名島とコンビを組むことに! 二人のギャップが面白いし、ぎくしゃくした関係が少しずつ信頼に変わっていく様子に胸が熱くなる。ていうか、この名島警部補がめちゃくちゃ可愛いんだわ。小柄なショートカットの童顔で、でも実は三十過ぎたオトナの女。パンツスーツ装備なのも◎で、俺はブヒィブヒィと萌えブタ化しながら読んだそういう作品じゃないです。
2000年代の初頭といえば、渋谷にはヤマンバと呼ばれる人種が生息していた。肌を極限まで黒く焼き、目の周りだけ白く塗った少女たちだ。捜査のために彼女たちを警察署に集めるシーンは抱腹絶倒。中年おやじの困惑ぶりがちょ→ウケる。
また当時はインターネットがようやく一般化し、ケータイのネット利用が本格化した頃だ。主人公・小暮はパソコンで遊ぶ時間もなく働いてきたので、当然、こういう電子的なものに弱い。「サイトってなんだ?」のセリフには苦笑。「検索してわかるなら、犯人を調べてくれよ」これに対する同僚の切り返しもすごい。「(インターネットは)何でも分かるから、何も分からないんですよ」うーん、哲学的。
このようにゲラゲラ笑いながら楽しめる肩のこらない作品なのだけど、結末まで読むと印象がガラリと変わる。頭をハンマーでぶん殴られるほど驚いた。で、慌てて冒頭に戻って二周目スタート。推理小説としての完成度に感嘆することになる。ネコの皮かぶった猛獣だよ、これ。
荻原浩は『明日の記憶』の映画化で一気に認知度を高めた作家だ。こちらはアルツハイマーをテーマにしたシリアスな一本。これは持論なのだけど、「カッコイイおっさんが出てくる映画は、いい映画」という法則がある。原作もいいけれど、この法則どおり映画版もすばらしかった。渡辺謙ってステキ。
- 作者: 荻原浩
- 出版社/メーカー: 光文社
- 発売日: 2007/11/08
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荻原浩『噂』は、一つの時代を切り取った、すばらしい社会派推理小説です。欠点をあげるとしたら表紙の雰囲気とタイトルのせいで人妻不倫モノだと誤解されそうなことぐらい。ミステリーファンだけでなく、どんな人にもオススメできる一冊です。年末年始の読書予定リストに加えてみてはいかがでしょうか。
(じつは「女子高生の娘を持つお父さん刑事のお話」を私も書いていて、こんな完成度の高い先行作品があるんじゃ、そりゃあ箸にも棒にもかからねぇよなぁ……と軽く自信喪失したのは秘密だ。父娘のやりとりや周囲のキャラクターの設定など「パクリ?」を疑われてもしかたないぐらい似通っていて、ちょっと青ざめた。パクリ疑惑→炎上→断筆の流れは、ここ最近の新人作家に多い。そういう意味で、箸や棒にかからなくてよかったというかなんというか、ごにょごにょ……)
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【おまけ】年末に読みたいオススメ推理小説
- 作者: 荻原浩
- 出版社/メーカー: 新潮社
- 発売日: 2005/10/28
- メディア: 文庫
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- 作者: 乃南アサ
- 出版社/メーカー: 新潮社
- 発売日: 2003/11/28
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そして二人だけになった―Until Death Do Us Part (新潮文庫)
- 作者: 森博嗣
- 出版社/メーカー: 新潮社
- 発売日: 2002/11/28
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“菜々子さん”の戯曲 Nの悲劇と縛られた僕 (角川スニーカー文庫)
- 作者: 高木 敦史,笹森トモエ
- 出版社/メーカー: 角川書店(角川グループパブリッシング)
- 発売日: 2010/07/31
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暗闇の中で聞く菜々子さんの声と、主人公の回想だけで構成された作品。ラノベの枠には収まりきらない本格推理小説だ。理屈っぽくなりそうな設定だけど、意外にも抒情豊か。小学生時代のノスタルジーに浸れることうけあいだ。
- 作者: 桜庭一樹
- 出版社/メーカー: 東京創元社
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死亡フラグが立ちました! (宝島社文庫) (宝島社文庫 C な 5-1)
- 作者: 七尾与史
- 出版社/メーカー: 宝島社
- 発売日: 2010/07/06
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※読書好きのはてなー諸子におかれては、もう読んだことのある作品ばかりかも知れない。もしも未読のものがあればチェケラー。