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世界的な格差是正デモが意味するもの/既得権にしがみついているのは誰?

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ウォール街を占拠せよ」運動は、先進国の若者が既得権を守るためのデモなのだという。今まで甘い汁を吸ってきたのだから、ちょっとぐらい所得が下がってもガマンしろ。貧乏人は黙れ――そんな意見を散見する。


だけど、なんかおかしくない?


疑問は二つある:一つは「格差が広がっているのは先進国だけなのか」という点。格差拡大はむしろ発展途上国でこそ深刻な問題だ。中国では大富豪が次々と生まれているが、北京の街かどには今でも物乞いがいる。そしてもう一つは「格差を肯定していいのか」という疑問。国や民族を超えた一般論として、私たちは「格差のある世界」を良しとするべきなのだろうか。私たちの「正義」が問われている。



       ◆



格差問題といえば、今までは「国内的な問題」か、もしくは「国家間の問題」だった。前者の例をあげれば、リーマンショック直後の日本を席巻した「反貧困」運動。後者の例ならば「フェアトレード」運動などがすぐに思い当たる。
例えば反貧困運動の場合、「製造業への派遣を許すべきか」という点が論争の的になった。直前には秋葉原での無差別殺人が起こり、「低所得化と治安の悪化」を私たちは肌で感じていた。製造業への派遣は構造的に低所得層を量産するため、規制すべきではないか――いずれにせよ、私たちは“国内的な”制度設計について議論を重ねていた。派遣切りの背景には国際的な金融不安というグローバル化の存在があるにも関わらず、だ。
フェアトレード運動では農産物がターゲットになった。スターバックスの「フェアトレード・コーヒー」などが有名だ。途上国で生産された農作物を、先進国並みの相場で買い取ろう――これがフェアトレードの基本的な発想だ。国家間での物価の不均衡に“つけこむ”のはやめよう、という思想がある。自国の農作物が高い価格で取引されているのは、極端な関税率で守られているからにも関わらず、だ。
どちらにせよ、私たちは「国内の格差」「国家間の格差」という切り口でしか所得の不均衡を語ることができなかった。



今回の「ウォール街を占拠せよ」運動は、低所得層の国際的な連帯だと言っていい。国家の垣根を超えて、貧乏人たちが足並みをそろえた。
グローバル化により、先進国の単純労働者はかつての途上国並みの賃金で働かされることになる。また途上国の富裕層は、先進国のカネ持ち以上に稼げる可能性がある。カネ持ちにとっては青天井、貧乏人にとっては底抜けの奈落。これがグローバル化だ。
格差問題は、先進国よりも途上国でこそ深刻な問題だ。中国の億万長者の数は、すでに日本のそれよりも多い。インドをはじめ、途上国では「中間層」の数が増えているという。そういった国の路上には、今でも前時代的な乞食がいる。途上国は目覚ましい躍進を遂げているが、そういった国のヒトすべてが裕福になれるわけではない。グローバル化の恩恵を受けられるのはほんのひと握りだ。
したがって今後は、国を超えた「富裕層VS低所得層」の構図が明確になっていくはずだ。今までは「国内」「国家間」という枠組みのなかでしか語られなかった問題が、これからは国境を越えた世界規模の問題になる。



今回のデモを途上国の人間はどう見ているだろうか:
ひとくちに「途上国の人間」といっても、カネ持ちもいれば貧乏人もいる――このことを忘れてはならない。途上国のカネ持ちは、先進国のそういう人たちと同様、今回のデモを「迷惑だなぁ」と思っているはずだ。では、途上国の貧乏人は? たしかに先進国の若者に「ワガママを言うな」と思うかも知れない。私たちが日本に生まれたという既得権の上に寝そべり、甘い汁を吸ってきたのは事実だ。
しかし「ウォール街を占拠せよ」運動は、「上位1%の人間が富を独占する世界」への懐疑を出発点にしている。そういう極端な所得格差を肯定した場合、いちばん損をするのは誰だろう。急速に低所得化が進む先進国の若者? いいや、違う。途上国の貧乏人だ。グローバル化の恩恵を受けられず、今まで通りの貧困に捨て置かれる人たちだ。



世の中には、所得格差を肯定して得をする人と、損をする人がいる。
あなたはどちら側の人間だろう。上位1%に食い込むことのできた、きわめて幸運な人なのだろうか。そういう安全圏にいる人が、どんなに「貧乏人は黙れ」と言っても空虚なだけだ。何の説得力もない。
今まで世界の富裕層は、国内の貧乏人のご機嫌をとってさえいればよかった。国家の枠組みが、カネ持ちを守っていた。しかし、これからは世界中の貧乏人が相手だ。低所得層の人々は国境を超えて、独占された富を狙っている。
ウォール街を占拠せよ」運動は、先進国の若者が既得権を守るためのデモではない。国を超えた「富裕層VS低所得層」の対立軸が、ついに出現したのだ。あえて古い言い方をすれば階級闘争(笑)グローバル化だ。



既得権を守ろうと本当に必死なのは誰だろう。
私たちは平らな地球の上で生きている。




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