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デマこい!

「デマこいてんじゃねえ!」というブログの移転先です。管理人Rootportのらくがき帳。

『日燃鳥』

創作
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ひもす・どり【日燃鳥】
①カラスの異称。
②転じて、火が消えて炭になった様子のたとえ。




     ◆




小学生の頃、教祖になったことがある。
信者はたったの四人、小さな小さな新興宗教だ。当時は霊能力ブームで、テレビでは心霊番組が毎日のように放送されていた。まだ小学生だった僕たちがオカルトに走るのも、不自然なことではなかった。放課後に近所の公園に集まって怪しげな儀式を執り行う、そんなごっこ遊びが生まれて無理のない時代だった。
きっかけは由紀子だ。小学五年生の時、僕の隣に座っていた女の子だ。小柄で、長い髪をいつもお下げにしていた。自分には霊能力があると公言していて、誰かの家でお泊り会を開いた時に「怖い話」をするのは彼女の役目だった。
算数の時間中、僕は授業にまったく集中できず、教室をぐるぐる見回していた。壁には日本の歴史年表やことわざ表などが並び、黒板には給食当番の表が張られている。ふと、僕の目がある一点に止まる。隣の由紀子を盗み見ると、まじめな顔で授業を受けていた。心のなかで意地悪な気持ちが騒ぎ出す。彼女をからかってやろう。僕の席は窓際の一番後ろで、先生は遠くにいる。
「由紀子。ゆ、き、こ」
先生が背中を見せた隙に、僕はささやいた。由紀子がこちらを向き、小さく首をかしげる。僕は黙って、天井の隅を指差した。廊下側の角、教室の中で最も薄暗い場所だ。
「“あれ”が見える?」
僕の指は何もない空中を示している。彼女はその方向に目をやった。ばぁか、と僕は心の中でべろを出す。由紀子には何も見えないだろう。そっちを見ても、通気口のすすけた金網があるだけだ。古いすずらんテープが揺れている。由紀子はその場所をじっと凝視していて、なかなか僕の方を見ない。僕は彼女の表情を想像した。顔を真っ赤にして怒るところを思い浮かべて、にやにやとする。
やっと振り返った由紀子の目に、怒りの色はなかった。哲学者のように真面目な顔で、僕を見据える。
「私にも見えるわ」
押し殺すような彼女の声に、僕は笑えなかった。




日燃鳥(ひもすどり)

日燃鳥(ひもすどり)

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