デマこい!

「デマこいてんじゃねえ!」というブログの移転先です。管理人Rootportのらくがき帳。

「製造業な新入社員」から学ぶべきこと/先輩ヅラできないよね、あんまし。。。

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こちらのエントリーに触発されて書いてみた。


製造業は新入社員の仕事 -mizuiro_ahiruの日記
http://d.hatena.ne.jp/mizuiro_ahiru/20110914/p1




       ◆





時々拝読しているすくらむさんのブログが、ブラジルのルラ前大統領を褒めていた。


最低賃金の倍増など反貧困で大きく経済成長するブラジルを日本は見習うべき -すくらむ
http://ameblo.jp/kokkoippan/entry-11018614879.html


いわく、ルラ前大統領の最低賃金の引き上げや飢餓撲滅運動などの貧困層を保護する政策によって、低所得層の購買力が上がり、その結果、内需主導でブラジルは好景気になった。財政状況もよくなり、債務国から一転、債権国になった――。









あれ? と私は思った。
ぜんぜん詳しくないけれど、ブラジルって日本と同じような輸出国じゃなかった?
それが内需主導とな……?




疑問が湧いたら、即座にウィキペディアへ。ちょっと調べてみたらものすごく面白かったから、ここのメモしておく。きちんと教科書で勉強したいな。明日、本屋さんを覗いてみよう。




         ◆




結論からいうとルラ前大統領って、やっぱりすごい人みたいだ。庶民の味方のスーパーヒーロー。絶大な支持を集め、惜しまれながら退任したというのもうなずける(ブラジルでは憲法規定により三選できない)。大学の学位を持っていないという点も、庶民的でウケたのかもなあ。


ルラ前大統領がこの職についたのは2003年、ブラジルの財政状態は悪く、莫大な額の債務を抱えていた。ところが2007年にはIMFへの債務を完済、さらに内政では「飢餓ゼロ計画」を掲げて、貧困の解消に取り組んだ。最低賃金の切り上げにも成功している。
いまの日本も財政悪化と莫大な債務に悩まされ、労働者の賃金は下がり続けている。ルラ前大統領の成功に学ぶところがありそうだ。彼はどうしてこんなことができたのだろう。


まずは、そもそもなぜブラジルが巨額の債務を抱えてしまったのかを考えてみたい。
60年代、ブラジルは軍事政権に牛耳られる典型的な後進国だった。ところが1968〜74年に高度経済成長を遂げる。このときの爆発的な経済発展は、のちに「ブラジルの奇跡」と呼ばれるようになる。しかし、このときの積極的な重工業化が仇となった。
そう、オイルショックだ。
70年代の半ばから財政状態は急激に悪化した。日本がバブルに湧いた80年代、ブラジルは累積債務に悩まされ続けた。そして80年代の終わりごろから90年代初頭にかけて、この国は1000%を超すハイパーインフレに見舞われる。93年には2500%のインフレを記録したとWikipediaには書いてあったんだけど、マジかよ。1ケタ間違ってんじゃねーの? しれっと「毎月100%を超すインフレ」なんて書いてあった。ひえぇ……。お札を数えるのが物理的に不可能なので重さを計って決済していた、という逸話もあるらしい。当時の混乱がうかがえる。
ルラ前大統領の前任者であるカルドゾ前々大統領にとって、このインフレを抑えることが危急の課題だった。それまでの通貨クルゼイロを4回にわたってデノミし、レアルという新通貨を発行した。「レアル・プラン」と呼ばれるドルペッグ制(一種の固定相場制)を採用して、インフレを抑えることに成功した。
レアルはその後、変動相場制へと移行するのだが……。99年、通貨危機がこの国を襲う。外国資本が一斉に引き揚げたことで、レアルが大暴落した。もちろんブラジル政府はレアルを買い支えようとしたのだが、外貨準備はあっという間に底をついてしまう。米国とIMFから融資を取り付けたことで、なんとか難局を乗り切った。しかし、膨大な債務が残されてしまった。
これがルラ前大統領が就任する直前の情況だ。
「軍事政権下での“ブラジルの奇跡”」
→「オイルショックによる財政悪化」
 →「ハイパーインフレ
  →「クルゼイロのデノミと、固定相場制のレアル発行」
   →「レアル変動相場制へ」
    →「ブラジル通貨危機
     →「米国とIMFに対する膨大な債務」
今までの流れをまとめると上記のようになる。ルラ前大統領の目の前に立ちはだかっていた財政難は、30〜40年前からの負の遺産だったのだ。ゼロ年代初頭、ブラジルはもっとも財政破綻に近い国だと言われていた。これは余談だけど、隣国のアルゼンチンは2002年にデフォルトしている。
だけどブラジルは違ったのだな。
現在のブラジルの好景気は、やはり輸出産業の好調が原因らしい。ゼロ年代、日本は相変わらず不景気にあえいでいたけれど、世界は好況に沸いていた。ブラジルは鉱石にせよ農産物にせよ、他のBRICS諸国があまり得意としていないものを売ることで貿易黒字をのばした。歴史的に大農園が多かったことも、現代的な農業へのシフトを後押ししたという。



※さらに余談だけど、このゼロ年代半ばの好況はアメリカが震源地だ。米国の低所得層が借金をしながら消費生活を営むことで世界経済は回っていた。この低所得者たちの借金が後に大きな爆弾になるのだけど……それはまた別のお話。



こうした好景気の背後で、ルラ前大統領はすばらしい政治手腕を発揮していた。
ルラ前大統領はもともと左派政権の出身だ。就任直後には、いわゆるバラマキ政策を警戒した外資が逃げて、レアルの価格が下がったという。しかし実際には、前任のカルドゾ政権の財政再建路線を受け継ぎ、堅実な経済政策を採った。公務員年金改革などを断行し、財政の健全化を図った。
しかしルラ前大統領は、新自由主義的な他国の宰相とは一線を画していた。
「飢餓ゼロ」を旗印に掲げて、貧困の解消と弱者の救済に全力を注いだ。公的扶助制度を統合して利用しやすいものにし、好景気を背景に最低賃金の切り上げにも踏み切った。政府の構造改革と格差是正を同時に成功させちゃったのだね。まさに強きをくじき弱きを助く、庶民のスーパーヒーローってわけだ。彼のことを、米国オバマ大統領は「世界でいちばん人気のある政治家」と評している。つーかマジで、もうこの人に日本の総理大臣やってもらおうぜ!


ルラ前大統領が財政再建に成功したのは、それなりに国家公務員に身を切ってもらったからです。最低賃金の引き上げができたのは、輸出に牽引された好景気のおかげです。そう考えたほうがリーズナブルだ。「世界的な好景気→輸出増による好況→貧困層への分配政策→内需も底上げされる→さらなる好景気へ」という流れがありそう。内需の増大よりも輸出増が、好景気の根本的な原因ではなかろうか。「賃金アップ→内需増大→好景気」というロジックはやっぱりちょっと苦しいと思うなあ。




       ◆ ◆ ◆




貧困は問題だし、格差を放置していいとは思わない。だけど、これを解決できるのは経済成長だけだ――。ああ! そんなに嫌そうな顔をしないで! まるで、すくらむさんたちの言う「財界人」のようなセリフだけど、意味合いが少し違うんです!


そもそも経済成長とはなんだろう:GDPの伸びのことだ。
ではGDPは何かというと、その国のすべての企業の「純利益」の合計だ。


ブラジルの場合は輸出の伸びに従って売上げが増え、各企業の「純利益」も増加した。純利益の総合計であるGDPも伸びた――経済成長につながった。ここで生まれた富を、ルラ大統領貧困層へと還元したことで内需拡大、ますます好景気になった。この「売上げによる経済成長」は、みんながしあわせになる経済成長だ。資本家から末端の労働者にいたるまで、産みだした富を分け合ってホクホクできる。
しかし、純利益を増やす方法は売上げを伸ばすだけではない。費用を削ることでも利益を増やせる。いわゆる日本の「財界人」が目指している経済成長はこちらだ。人件費を削れば帳簿上の「純利益」が水増しされ、その総合計であるGDPも伸びる。経済が成長したかのように見える。だけどこちらの経済成長は、なにか新しいものを産みだしているわけではない。社会全体で見れば、末端の労働者から資本家へと所得が転移しただけだ。
※いい加減な解説なのは自覚しています。わかりやすさを優先しました。


When the Rich Get Richer, It DOESN’T Raise All Boats … It SINKS The Standard of Living For Everyone Else -WASHINGTON'S BLOG
http://www.washingtonsblog.com/2011/09/when-rich-get-richer-it-doesnt-raise.html
※こんな論文もあります。参考まで。アメリカでは富裕層が10%豊かになると中間層が2%貧しくなるらしい。




経済成長には「売上げによるもの」と「費用削減によるもの」がある。しかし社会全体で考えた場合、後者は「見せかけの経済成長」と呼ぶべきだろう。貧困や格差を解消するためには、前者の経済成長が不可欠だ。売上げによる経済成長がない状態では、賃金の引き上げを強制しても企業は雇い控えをするだけだ。失業者は仕事につけず、有職者はブラックな労働環境で酷使される。「賃金を上げなさい」という法律だけ作っても、世の中はうまく回らない。私たちは経済のなかで生きている。


売上げ増による経済成長?
衣食住の満たされたこの日本で?
そんなことできるの??


私は、できると思う。
一つだけ突破口があると思う。


だけど長くなってしまったので、今回はここまで。愚かしい「費用削減による経済成長」を日本が捨てて、売上げを伸ばす方法についてはまたの機会に。
ブラジル経済についてはきちんと教科書を読んで勉強します。想像していた以上に面白かった。あと、私は分からないことがあるとすぐに教科書に頼ってしまうので、頭でっかちになりがちです。すくらむさんみたいに現場の最前線で活動なさっている方からお叱りをいただきたく存じます。「理屈ではそうかもしれないけどそうも言ってられねえんだ」という現実があるのだと推察いたします。








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